「信長のシェフ」第6巻 一つの別れと一つの出会い
TVドラマも始まり、勢いに乗っている「信長のシェフ」の最新巻、第6巻が発売されました。本願寺をはじめとする信長包囲網のまっただ中、ケンに一つの別れと一つの出会いが訪れることとなります。
浅井・朝倉連合軍の迎撃中に参戦してきた本願寺勢により、一転窮地に陥った織田軍。その時、千利休とともに森可成が守る宇佐山城にいたケンは、否応なしにこの戦いに巻き込まれていきます。
ケンがタイムスリップして信長と出会った当初から、秀吉と並び、ケンと親しく接してきた可成。可成は、ケンがこれまで戦国時代で生き延びてくる中で幾度となく助けられた恩人であり、そして孤独であったケンの数少ない友人であります。
その可成が、勝ち目のない戦に出撃している姿を、ただ座して見ていることなどできないと立ち上がるケンですが――
ケンは知識を持っていませんでしたが、我々はこの戦いで可成がどのような運命を迎えるかをよく知っています。
これまで戦国時代において、その料理の力で不可能を可能としてきたケンですが、しかしさすがの彼でも、その運命を覆すことはできようとは思えません。しかしそれではケンがこの場にいる意味が…
と、(いささか意地悪に)思っていたのですが、完全にやられました。
信長がかつて可成に与えた異国の豆。その豆を料理しようとするケンの姿を通じて描かれるのは、運命に対するケンの無力さと、しかしそのケンの努力が可成の心を大きく動かす様――
どれほど優れたものであろうとも、それが人の業である以上、限界はある。それでもなお、人の力が、他者の心を動かし、大きな救いを与えることがあるのだと、生死ギリギリの世界ならではの形で、本作は描き出しているのです。
(そしてその料理を食べた時の信長の反応がまた…)
さて、前半でそんな重い展開が描かれる一方で、後半で描かれるのは、こちらも本作らしいとんでもない料理勝負であります。
膠着状態に陥った戦いを打開するため、信長が将軍家、そして朝廷に働きかけて連合軍側と和睦を結ぶこととなった信長。
これは史実ですが、しかしその条件を定めるため、信長側と本願寺側の代表選手により、帝の御前での料理勝負が行われていた! というのは完全に本作ならではの展開でしょう。
しかし、一歩間違えれば非常にネタっぽい展開も、本願寺側の代表選手が、前の巻で登場した女性、ケンと同じく現代人と思われるあの女性「ようこ」であったことで、一気にシリアスな展開に。
半ば予想通り、ケンのことをよく知っているそぶりを見せる――というよりただならぬ間柄であったようなようこさんですが、しかしケンの方は記憶喪失で彼女のことを覚えていないというすれ違いっぷりも心憎い。
(彼女が女性であることで、この時代において生き延びるために誰かの庇護を受けなければならないというのが、また切ない)
最大のライバルにして最大の理解者になるはずの彼女との出会いが、ケンに何をもたらすのか…まだまだ目が離せない作品であります。
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