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2013.02.17

「十 忍法魔界転生」第1巻 剣豪たちを現代に甦らせる秘術としての作品

 はやいもので、せがわまさきによる山田風太郎「魔界転生」の漫画化である「十 忍法魔界転生」の連載が始まってはや半年。ここにコミックス第1巻が発売されました。この第1巻には、地獄編 第四歌までが収録されております。

 島原の乱直後、死屍累々たる中で艶やかな美女から再誕する天草四郎の姿を目撃する由比正雪と老いたる宮本武蔵という、何度見ても痺れる冒頭部。
 そしてそれから七年後、泰平の世の裏側で、あたかもファウストを誘惑するメフィストフェレスのように名だたる名剣士・武芸者たちの前に現れて、奇怪な誘いを囁く怪人たち――

 冷静に考えると、この第1巻の時点では、敵の行動の目的がほとんどわからない(四郎が口走ってはいるものの、この手段がそれにどうつながるのかわからない)どころか、誰が主人公かもわからないという、大変な状態ではあります。
 しかしそれでも全く問題なく面白い――というより作品に引き込まれてしまうのは、これはもちろん、原作者たる山田風太郎の力によるところが大きいのは間違いないでしょう。
 「魔界転生」なる空前絶後のアイディアと、それによって復活する転生衆の顔ぶれ、そしてもちろんそれを紹介していく物語構成の面白さ…どれをとっても、一読三嘆どころではない、何度読んでも色々な意味で溜息が出る素晴らしさではあります。
 しかしこの「十」においては、それに勝るとも劣らず、せがわまさきによる「画」の力があることは、これは言うまでもありますまい。

 せがわまさきによる山風作品の長編漫画化はこれで三作目、もはや定番すぎてかえって面白みがないのでは…などというのはもちろんこちらの杞憂。以前「地獄編 第一歌」の感想でも触れましたが、四郎の転生シーンを横の構図から描くなど、原作のイメージを真っ正面からビジュアル化する一方で、時に意表を突いた「画」を投入してくる辺りは、これはある意味貫禄の技と言えるのではありますまいか。
 そしてまた、冒頭から次々と登場し、そして(言い方は悪いですが)使い捨てられていく忍体と化した女性陣の艶やかさ、妖しさ――特に転生衆を「受胎」した際の瞳など――も、見所の一つでありましょう。

(ただし、個人的には転生衆のビジュアルが、いわゆる「魔眼」であったり耳が尖っていたりと、人外アレンジされているのが少々残念ではありますが…この辺り、魔人の魔人たるゆえんをどのように表現するかというのは難しい問題なのでしょう)


 この「魔界転生」という物語は、泰平の世に無用の存在、過去の遺物となった剣豪たちを文字通り再生させるという物語であります。 それは、原作の時点では、講談や小説・ドラマ等で、ある程度読者の共同認識としてあった剣豪たちを、同一の場に集めて戦わせる手段であったと言えるでしょう。
 しかし、現在においては、その意味は原作とは少々異なるように思えます。

 何故ならば、武蔵や天草四郎など一部を除き、本作に登場する剣豪たちのほとんどは、現在の読者の多くにとっては完全に過去の遺物、名前すら知らない存在なのですから…
 それをここに甦らせ、現在の読者の眼前で縦横に活躍させてみせようとする本作は、それ自体が「忍法魔界転生」めいた存在ではありますまいか。


 この第1巻で語られたのはあくまでも「敵の編成」の一部、彼らを敵とするべき呪われた人物、本作の主人公たる人物は、いまだ登場すらしておりません(作中で一コマ登場した際には、さりげなく顔が隠されていたのが面白い)。
 いや、実に四ページに渡る予告ページの後半見開きを使って初めて登場するあのヒーローが、この現在に甦った剣豪たちを相手に、如何に戦うのか――せがわまさきの手になる「忍法魔界転生」はこれからが本番であります。

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コメント

待望の第1巻発売ですね。原作に忠実なので、魔界転生シリーズでは(魔界衆では)一番不憫な扱いを受ける柳生如雲斉(兵庫助)もようやく登場・・・と思ったらビジュアル的に・・・まあ角川文庫版の表紙絵でも「誰じゃ、この禿」と言われていた人ならぬ魔人ですから(笑)。

間もなく放映開始の美少女アニメ『百花繚乱サムライブライド』でも、この作品にインスパイアされて、美少女化した柳生十兵衛三厳に対決するのが、天草四郎をリーダーにした宮本武蔵・荒木又右衛門・宝蔵院胤舜と佐々木小次郎!で柳生如雲斉はまたも外れています(笑)。

柳生如雲斉のこの作品での活躍を期待します(笑)。

投稿: ジャラル | 2013.02.17 13:05

ジャラル様:
いやはや、本当に柳生如雲斎先生はいつも割りを食っていますね。柳生新陰流という点では宗矩がいて、坊主という点では宝蔵院がいる。本当に魔界転生バリエーションの中では出番が少ない方です(とみ新蔵版と「魔界転生 夢の跡」くらい?)
本当に頑張って欲しいのですが、ビジュアル的には苦戦を強いられそうですね…(笑)

投稿: 三田主水 | 2013.02.18 01:00

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