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2013.02.26

「お化け大黒 ゴミソの鐵次調伏覚書」 怪異の背後にあるものは

 最近は時代小説・歴史小説での活躍が強く印象に残る平谷美樹の最新シリーズ、「ゴミソの鐵次調伏覚書」に早くも第2弾が登場しました。ゴミソ――津軽の修法師・鐵次が、江戸で様々な怪異と対決する様が、今回もバラエティ豊かに描かれています。

 本作の主人公・鐵次は、湯島の通称「おばけ長屋」に「萬相談申し受け候」の看板を出す男。萬相談――それも怪現象や亡霊といった怪異に属するものを受ければ、六尺豊かな体躯に無数の端布が縫い付けられた長羽織をまとい、独鈷杵を片手に戦うヒーローであります。

 といっても、コワモテのようでその素顔はいたって気のいい好漢。普段は相棒で悪友の戯作者・鶴屋孫太郎(後の五代目鶴屋南北)と、気心の知れ合った同士、ポンポンと軽口をやりとりするのが何とも楽しい。
 さらにそこに裏の長屋に住む同郷のイタコ・百夜(盲目で、視力を得るために武士の霊を降ろしているため武家喋りの美少女という実に立ったキャラ)も加わって、この面々が基本シリアスに、時にコミカルに怪異に立ち向かっていくことになります。

 さて、そんな鐵次たちが本書で挑むのは、 「梅供養」「檜舞台」「庚申待」「下燃の蟲」「飛鳥山寮」「湯屋怪談」「お化け大黒」「辻斬り」と、全部で8つの事件。

 いずれも、単に怪異を真っ正面から叩き潰すだけではなく、怪異の背後にある真実や情理を読み取った上で、その怪異を祓う――そしてそれはしばしば鎮魂の形を取ることになるのですが――という、鐵次の特異なキャラクターが良く出たエピソード揃い。
 彼が対峙する相手も、悲しい死者/生者の念が引き起こす怪異あり、怪異によって集められた負の念を弄ぶ存在ありと、実にバラエティに富んでいますが、しかし、それに対峙する鐵次のスタンスは、やはりゴーストハンターにしてゴーストディテクティブとしていついかなる時も変わることなく、それがシリーズに一種の安定感を与えているように感じます。


 個人的に本作で特に印象に残ったのは、「庚申待」と「お化け大黒」の二編であります。
 「庚申待」は、郊外の農村で見つかった、出来たての白骨死体の謎を追う一編。死んだばかりなのにその身に一片の肉も残らない奇怪な死体の正体を追う鐵次たちの前に現れたのが、こちらの予想を遙かに超えた(それでいて伝奇的にはおなじみの)とてつもない怨念――
 というのにまず驚かされますが、その怪異との対決シーンが、むしろモンスターホラー的な描写に繋がっていくという意外性も面白く、実に個性的な一編と言うべきでしょう。

 そして表題作の「お化け大黒」は、実に完成度の高い一編。
 奇怪な事件を目撃した孫太郎の話を受けての鐵次の推理に始まり(当時の風俗を巧みに織り込んでいるのもまた心憎い)、お化け大黒にまつわる怪異の数々、事件の背後の黒幕と鐵次の大立ち回りと、短い中にきっちりと本シリーズの魅力が詰め込まれているのが、心地よさすら感じさせてくれます。
 特に、お化け大黒の怪異描写は、作者の持つホラー作家…というより実話怪談作家としての顔を感じさせてくれるもので、実にイイ塩梅の怖さでありました。


 その他、巻末の「辻斬り」には、孫太郎の師匠の四世鶴屋南北が登場。顔見せ的な扱いではありましたが、思わずこちらがニヤリとしてしまうような言動で、これからの登場が楽しみになるなど、これからの展開がいよいよ気になる本シリーズ。
 電子書籍で展開されている百夜を主人公にした「百夜・百鬼夜行帖」シリーズも含めて、この先も大いに期待できそうです。

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お化け大黒: ゴミソの鐵次 調伏覚書 (光文社時代小説文庫)


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