「風の王国 6 隻腕の女帝」 滅びの後に生まれるもの
渤海を滅ぼした帰路、次子の耶律堯骨に暗殺された耶律阿保機。耶律突欲は後継者争いから身を引いて渤海の故地に設立した東丹国の王となる。一方、渤海の故地では、渤海の復興を旗印に様々な勢力が乱立、明秀たち東日流府も、その中で契丹・東丹国と独自の戦いを繰り広げていく。
全10巻の大河伝奇ロマン「風の王国」もいよいよ後半戦。前の巻で渤海は滅亡、契丹皇帝も死を遂げ、明秀と耶律突欲の戦いも、新しいステージに入ることとなります。
明秀たち東日流府たちの奮戦空しく、半ば自壊のような形で渤海は滅亡。しかし、そこに残った民のため、明秀たちは新たな国、新たな渤海を生み出すための戦いを継続する決意を固めます。
一方、契丹では皇帝の座を狙う耶律堯骨が何と父たる皇帝・耶律阿保機を暗殺。父の死を知った突欲は、かねてより用意していた日本の遊部の秘術により、阿保機を死の世界から救おうとするのですが…
皇帝の座のためとはいえ、息子が父を殺す契丹。その後も皇后であり、突欲と堯骨の母である月里朶は、夫に殉ずると称して自らの片腕を斬り落とし(すなわち、本書のサブタイトルである「隻腕の女帝」)、皇帝の直衛≒突欲派の武将に対して殉死を強制することによって、粛正を行います。
この辺り、契丹も生まれたばかりの国家とはいえ、ここまで血を流す必要があるのか…と、現代の日本人としては暗然たる気持ちになります(しかし突欲の叔父が兄に対して四回も叛乱を企てた、と書かれるともう笑うしか)。そして突欲の身にも、ある種の共感と同情を覚えるようになるのですが…
もちろん、ドラマが展開していくのは、言うまでもなく契丹側・突欲側だけではありません。
再登場した懐かしいキャラクターを加え(それがまた、明秀と突欲の対比とも読めるのがうまい)今後の戦いに備える明秀。
渤海が滅んだ=当代の渤海王が退位したことで、渤海の復興、渤海王家の復興を旗印に掲げる勢力が乱立する中、他ならぬ明秀もまた王族の血を引くことで、存在感を発揮していくこととなります。
個と個の戦いだけでなく、より大きなレベルの戦いの中で、明秀は己らしさを貫くことができるのか――大いに気になるところではあります。
…実は、今回描かれたこの辺りの展開、そして渤海滅亡後のこの地の歴史を見ると、今後の展開、今後の明秀の運命はある程度予想できるように思えるのですが、それは野暮…というより作者と物語に失礼というものでしょう。
歴史という厳然たる事実に一歩も引けを取ることなく、これまで「風の王国」という物語は、キャラクターは、その魅力を、存在感を発揮してきました。そしてそれは、後半戦に突入したこれからも変わることはありますまい。
一つの国が滅んだ後に生まれた国、生まれようとする国。それを率いる者たちの物語として描かれるであろうこれからの「風の王国」から、やはり目が離せないのであります。
「風の王国 6 隻腕の女帝」(平谷美樹 角川春樹事務所時代小説文庫) Amazon
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