「鬼舞 見習い陰陽師と呪われた姫宮」 ついに出現、真の敵!?
道冬の家に、故あって右近少将と安倍吉昌が居候することとなった。しかし吉昌は人ならざる行近の真意を疑い、二人の口論から道冬は自分の父が蘆屋道満であることを知ってしまう。一方、少将が想いを寄せる御息所の邸に身を寄せる先の斎宮に、何者かの呪詛が襲いかかる。そして、ついに最強の敵が…
邪香を巡る戦いもひとまず落着し、短編集を挟んで、新章突入ともいうべき「鬼舞」。今回は、それに相応しく、様々なキャラクターたちにどどっと新たなドラマが待ち受ける急展開であります。
どれくらい急展開かと言えば、冒頭にまとめたあらすじに入りきらなかった内容がいくつもあるほどで…
何しろ、主人公の道冬からして、冒頭の通り、邪香騒動に巻き込まれて家をなくした右近少将と、異常に自分にかまう兄・吉平を嫌った吉昌が邸に押しかけてくるという展開。
それだけであれば、まあ源融大臣の亡霊やら、自分に熱い視線を注ぐ畳や巨大トノサマガエルといった連中が住み着いている邸のこと、さまでの騒動にはならないはずではあります。
しかし、元々相性最悪だった吉昌と行近の間が、行近が人間でないと吉昌が知ったことで更に険悪化、そんな中で、偶然に道冬は自分の実父がかの蘆屋道満であることを知ってしまい、彼の心にさざ波が…(この世界では、既に道満は悪役扱いされているというのがちょっとおかしいというか何というか)。
そしてその道満と戦い、これを倒したと言われる晴明が、息子たちに行方も知らせずに突然姿を消したことで、俄然状況は不穏の度合いを高めることとなります。
一方、人間の(?)世界、貴族の世界では、先の斎宮――実母が不審火で死んだことから火の宮(すなわち、今回のサブタイトルの「呪われた姫宮」)という不吉な名前で呼ばれる彼女を、少将の恋人である御息所が入内させようとしたことから、大きな波瀾が。
物語の舞台となる時期は、藤原氏をはじめとする貴族が次々と娘を帝の后として権勢を振るった時代、火の宮の入内は、宮中の権力争いの文字通り火種となるわけですが…
その帰結として、火の宮に襲いかかる何者かの呪詛。その呪詛を行わせた者、行った者、狙われた者、守る者――様々な人々の思惑が絡み合い、そこには今後の物語を牽引していくであろう、複雑ななドラマが生まれることとなります。(その中にはあまりに意外な――しかし平然と描かれるので、今まで自分が見落としていたかと驚くような――もう一つの顔を見せる人物まで!)
そして、人間関係が入り乱れる中、ついに姿を現す最強の鬼。姿は見せぬまでも、その存在はこれまでも描かれてきた上に、何よりもその片腕とも言うべき鬼の名が茨木という時点で、登場はむしろ必然ではあるのですが――
しかし、その初登場シーンは、こちらの予想を大きく裏切るもの。ここはただ、やられた! と言うしかありません。
というわけで、クライマックスに向けて着々と盛り上がっていくこの「鬼舞」シリーズ。
しかし、これだけキャラクターと設定を詰め込み、物語を盛り上げても、良い意味で通常運転に感じられるのは、今回もほとんど職人芸的なレベルに達しているシリアスとギャグの配分ゆえでしょう。
そのため、この先の展開が読めないのが何とも楽しくも悩ましいのですが、それがまさに本作の魅力。まだまだ大いに悩ませていただきたいというのが、正直な気持ちです。
ちなみに、ギャグキャラ一辺倒のようでいて、意外にシリアス面にもかかわっているのが源融大臣。
今回は茨木に雪辱を期す渡辺綱に思わぬ助力をしたと思えば、「鬼」の正体を(本人は無意識と思いますが)ほのめかすような発言を行ったりと、油断できません。ある意味本作を象徴するキャラクター、というのはさすがに言い過ぎですが…
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