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2013.04.07

「妻は、くノ一」 第1回「織姫と彦星」

 いよいよTV放映が始まったドラマ版「妻は、くノ一」。原作ファン、原作者ファンとしては放映開始を楽しみに楽しみにして参りました。
 さてその第1話はと言えば、原作から細部は変わっているものの、まず納得の内容であります。

 この「妻は、くノ一」は、星と海を何よりも愛する変わり者の平戸藩士・雙星彦馬と、わずか一ヶ月間の結婚生活を送っただけで何処かへ消えてしまった妻・織江を巡る物語。
 しかしタイトルにあるように、実は織江の正体はくノ一――それも、平戸藩を探るために潜入してきた幕府の御庭番、あたかもロミオとジュリエット、いや、彦星と織姫の如く引き離された二人の運命は…

 というのが原作の基本設定ですが、この第1話では冒頭で彦馬が江戸に出てくるまでの物語を手際よく描き、その後もテンポよく登場人物たちを説明。最終的には原作の第1巻のラストまでを描くことになります。

 さすがに約45分で文庫本一冊分を消化しているだけあってかなりエピソードは取捨選択されていますが(そもそも原作では彦馬が江戸に到着するまでで第1巻の半分ほどを費やしているわけで)、しかし抑えるべきは抑えた…という印象があります。
 どこかずれた彦馬のユニークなキャラクターと、病気の母を抱えつつ御庭番を勤める織江の姿。時に飄々とした、時に苛烈な顔を見せる元平戸藩主・松浦静山と、彼を狙う幕閣の陰謀――
 さらに、江戸に出た彦馬が、その天文の知識を活かして誘拐事件を解決する姿も描かれ、まず原作の要素は過不足なく描かれた感があります。

 実は原作を構成するのは大きく分けて二つの要素――織江がくノ一として戦いを繰り広げる忍者もののパートと、彦馬が探偵役となって市井の怪事件を解決するミステリもののパート、この二つがあってこその「妻は、くノ一」という感すらあるのですが、そこを少なくともこの第1回ではきっちり抑えてきたのは、当然といえば当然ですが好感が持てます。


 しかしながら、個人的に放映前に一番気になっていたのはキャスティング、それも、主人公カップルのそれでありました。彦馬は市川染五郎、織江は瀧本美織――最初にこのキャスティングを知ったときは、意外、というか疑問、というか…そんな気持ちとなったのが、正直なところであります。

 というのも、彦馬は言ってみれば非モテの変わり者、織江は若くして一二を争う凄腕のくノ一。二枚目のイメージの強い(個人的には同じ作者のイケメンヒーロー・若さま同心徳川竜之助を演じてもよいくらいと思っていました)染五郎と、「てっぱん」での明るく元気な印象のある瀧本美織は、どうにもイメージが合わない――そう感じたのであります。

 それが実際に映像を見てみればどうだったかと言えば、すみません、二人ともなかなか役に合っていたように感じられました。
 瀧本美織の方は、きかん気の強そうな表情が織江のくノ一としての部分に、そして年相応の若い表情は、織江の女性としての部分によく似合って感じられましたが、それ以上にやはり染五郎がうまい。

 武士らしくない武士、自分の好奇心を、そして何よりも自分の愛情を大事にする人間である彦馬の、いわば時代劇ヒーローらしからぬキャラクターを、いささかオーバーアクト気味ではあるものの、染五郎はなかなか巧みに体現していたと感じます。
 考えてみれば染五郎がそのホームグラウンドたる歌舞伎で演じるのは、何も格好良い役ばかりではありません。コミカルな役、情けない役、悪辣な役…そんな引き出しが、今回活かされていると言うべきでしょう。

 そしてその他のキャスティングも、特に静山役の田中泯と、織江の母・雅江役の若村麻由美がはまり役。特に織江の家事の仕方の変化から、彼女に想う相手が現れたことを雅江が見抜くシーンの微妙な生々しさなど、若村麻由美ならでは…と感じた次第であります。


 もちろん、原作厨としては、気になる点が皆無ではありません。
 織江が彦馬に残したメッセージが記されたのが七夕の短冊でなかったり、誘拐犯を倒すのが織江ではなかったり、何よりも原作第1巻ラストでの静山の爆弾発言がなかったりと、細かいところでは色々引っかか点はあります。

 しかしそれもこのドラマ版ならではの演出、これから先、その意図が見えることもあるのだろう…と気長に構えることといたしましょう。
 今回のドラマ版は全8話、その中で原作の何が描かれ、そして何が変わるのか――それもまた楽しみの一つなのですから。


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