「伏 少女とケモノの烈花譚」第2巻 原作から踏み出した人の姿は
アニメ版のソフト化も間近の「伏 贋作・里見八犬伝」の漫画版「伏 少女とケモノの烈花譚」の第2巻が発売されました。基本的な物語の流れは原作を踏まえつつも、この第2巻ではそこから踏み出した展開が描かれることとなります。
江戸に潜み人々を襲う謎の半獣人・伏。その伏を狩ることとなった鉄砲娘・浜路と、その兄の道節の戦いを描く本作ですが、この第2巻前半では、彼女たちと伏の激突がいよいよ本格的に描かれることとなります。
大胆にも江戸のど真ん中、吉原で太夫を勤めていた伏・凍鶴。伏の本性を露わにした彼女を追って、浜路と道節は巨大楼閣に乗り込むのですが――そこで展開するのは、道節vs凍鶴の禿2人、そして浜路vs凍鶴太夫の二元バトルであります。
第1巻の感想でも触れましたが、とにかくアクション描写の達者さは、この第2巻でもそれは健在、いやこれまで以上の冴え。
鎖鎌とも多節棍とも見える面白武器を使い、二身一体で襲いかかる禿コンビ、まさしく人間離れしたスピードで刃鋼線を操る凍鶴、どちらの敵も、巨大な楼閣というステージを縦横無尽に使ったアクションを展開してくれるのが嬉しい。
あまりにもアクションが凄まじすぎて、時々描写力の限界を踏み出している(=何が起きているかわからない)場面があるのはご愛敬ですが、このアクション描写は、本作の魅力、いや大きな武器として感じられるところです。
しかし、その激しいアクション、壮烈ばバトルの中で浮き彫りとなっていくのは、原作を含めた「伏」という作品における根源的問いかけ――「伏とは何なのか?」「なぜ伏は人を殺すのか?」「なぜ人と伏は殺し合わないといけないのか?」であります。
作中に登場する伏が、その正体を顕すまではごく普通の人間として生活しているように、少なくとも外見的には人とは全く異ならない伏。もし人と伏を分かつものがあるとすれば、その最たるものは、血に対する激しい渇望、そして暴力によるその発散への忌避感の薄さでありましょう。
なるほどそれは確かに人と伏を隔つものではありますが、しかし、本当にそれは伏のみなのか? 人もまた、伏に――異者に対する激しい暴力的衝動を抱えているのではないか?
本作において凍鶴が経験した凄惨な迫害の過去、そして相手が伏であればたとえ幼い少女に対しても無惨な暴力を振るうことにためらわない道節の、狩人の存在は、両者を隔てる壁が想像以上に薄いことを、我々に突きつけるのであります。
この辺りは、少なくとも原作においてはあまり直截ではなく、ある程度オブラートにくるんだ描写だったと記憶していますが(そもそも原作の道節は毒にも薬にもならないキャラクターだった印象)、その辺りを踏み出して見せたのは、これはこの漫画版なりの個性でしょう。
ただ皮肉なことに、人間の持つ(異者への)残虐性というものがクローズアップされてくると、途端によくある作品に見えてしまうのは、これは皮肉と言うべきでしょうか。
作中でしばしば登場する、人の狂気を孕んだ表情も、類型的な描写を出るものではなく、それがまた、よくある感を高めているように感じられるのですが…
(凍鶴と浜路が束の間心を通い合わせたかに見えた直後、凍鶴が惨死し、その遺体にリンチを加える人、という展開は、コントラストの効かせ方がよかったのですが…)
この辺りは諸刃の剣かとは思いますが、しかし踏み出した以上は突き詰めていただきたいもの。
上で触れたように、原作とは全く異なる道節の、そして冥土のキャラクターが、この先の物語にどのような意味を持ってくるのか。道節の追う伏・鎌鼬とは、そして冥土と伏の関係は…もう一つの「伏」でこそ描けるものを見せていただきましょう。
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