「およもん かごめかごめの神隠し」 子ども大妖怪江戸にあらわる
傘張り浪人の福井淳之介は、近所で遊ぶ娘を迎えに行った際に、武士の一団が子供たちの中にいる「もんちゃん」を奪おうとするのに出くわす。しかし謎の声とともに武士たちは昏倒、淳之介は娘についてきたもんちゃんと共に暮らすことなる。果たしてもんちゃんの正体は、そして彼を追う者の狙いは…
妖怪時代小説や時代ホラーばかりを収録したという、私のような人間のために誕生したような新レーベル「廣済堂モノノケ文庫」。その第二弾の一つが、朝松健の新作「およもん かごめかごめの神隠し」であります。
「およもん」とは、元の意味は「恐ろしいもの」を表す幼児語ですが、本作において語られるそれは、西国で恐れられたという正体不明の妖怪。およもんに出会ったものは、皆「およっ!」という悲鳴とともに気絶してしまうという、恐ろしくもどこかすっとぼけたものを感じさせる存在であります。
しかし本作の主人公、故あって主家を捨て、今は長屋で幼い娘と二人暮らしの浪人・福井淳之介の家に転がり込んできたおよもん=もんちゃんは、ふくふくとしたほっぺの可愛らしい子供姿。何故か福井の元主家に狙われているらしいもんちゃんを守り、淳之介やその親友の浪人・呑んべ安(…中山安兵衛!)ら仲間たちは奮闘することとなります。
正直なところ、長屋暮らしの浪人が、不思議な力を持つ子供と出会って、子供を狙う悪人(妖術師)と戦う、という本作の基本ラインは、どうしても同じ作者の「ちゃらぽこ」を連想させます(表紙イラストも同じなのがよりその印象を強めます)。
その辺りが一瞬ひっかからないでもないのですが、しかし「ちゃらぽこ」が妖怪中心の物語であったのに対して、こちらで中心となるのは人間たちであり――そしてそれだけに、そんな中に現れたおよもんの存在感がより増して感じられます。
実に本作の最大の魅力は、このおよもんの存在であることは間違いありません。
普段は可愛らしく頑是無い幼子の姿でありつつも、その実、「もんもんばあ!」の声とともにその力を表せば、誰もが「およっ!」の悲鳴とともに昏倒してしまうという、恐ろしくもユーモラスな能力を持った大妖怪というギャップが楽しいのであります。
(そしてそんな大妖怪が、なぜ幼子の姿をしているのか、という仕掛けにちょっと感心)
物語展開的には比較的おとなしめなのですが、このおよもんがリミッターを外して暴れ回るクライマックスは、さすがは時代伝奇ホラーの第一人者たる朝松健らしく、一転して妖術合戦的味わいになるのが面白く――もっとも本作の場合、ちょっとポケモンっぽく見えなくもないのですが――この辺りは作者の面目躍如たるものがあるでしょう。
ただ難点を言えば、お話的にかなり定番ものな、シンプルな内容である点と、主人公が今ひとつ目立たないことなのですが――この点は、おそらくあるであろう次作に期待するとしましょう。
こども妖怪およもんが持つという数々の素晴らしい能力、それはまだまだあるはずなのですから…
「およもん かごめかごめの神隠し」(朝松健 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
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