「妻は、くノ一 蛇之巻 2 幽霊の町」 時代劇で西部劇でサービス満点で
TVドラマ版も好調の「妻は、くノ一」、その帰ってきた小説版「蛇之章」の方も絶好調。第1巻は正伝の続編(後日譚)にして前日譚にして語られざる物語という離れ業でしたが、第2巻は前日譚こそなくなったものの、やはり意表を突いた趣向であります(正伝のネタバレにご注意下さい)
日本を離れ、艱難辛苦の末にアメリカで幸せな家庭を築いた彦馬と織江。しかし、そんなある日、かつて織江が対決した「いちばん嫌な敵」である長州忍者隊の鬼藤蛇文がアメリカに現れ、しかもリンカーン大統領暗殺を狙っていることを知った二人は、蛇文を追って旅立つことになるのでした…
という、TVドラマで初めて「妻は、くノ一」に触れて、原作をまだ読み終わっていない方がいきなり手に取ったら狐につままれたような気分になること請け合いのこの続編パートですが、この設定を受けての本書の第一話はさらにとんでもない。
第一話のタイトルは「ゴーストタウンの決闘」、つまりは西部劇なのですから…
蛇文を追い、ピンカートン探偵社の面々らと先を急ぐ彦馬と織江が出くわしたゴーストタウン。数年前に原住民によって滅ぼされ、今では幽霊が出没するというその町に隠された秘密を彦馬が解き明かし、そしてそこに現れた敵と、織江が戦う――
この構造は、まさに「妻は、くノ一」のパターンであって、ウェスタンでもそのままだった! と妙なところで感心させられた次第。
それにしても、時代劇と西部劇は親和性が強いとはいえ、まさかこのシリーズで西部劇編が見られるとは…と、どちらも大好きな人間としては嬉しくなりました。冒頭に書いたとおり、いきなり本作をご覧になった方は大いに驚かれると思いますが――
しかし意外な展開で驚かせるだけでなく、年齢を重ね、戦いから離れてかつての技の冴えを忘れて焦り悩む織江の姿が描かれる辺りは、作者の得意とする、老境にさしかかった者の悲哀に重なってくる印象で、ファンとしてはなかなかに興味深いのであります。
さて、本作で描かれるのは後日譚=西部劇だけではもちろんありません。本編の語られざる物語を描くパートで展開するのは、本編の陰で展開された――7巻と8巻の間辺りでしょうか――織江と長州忍者隊の刺客の対決であります。
かつて長州藩の上屋敷を騒がせ、長州に潜入して長州忍者隊の秘密を探った織江。今は抜け忍となった彼女を誘き出し討つために、忍者隊が彦馬に目を付けたことを知った彼女は、思わぬ人物と手を組んで戦いを挑むこととなります。
己を身にまとった火薬を爆破して平然とする怪忍者を相手に織江が苦闘する一方で、彦馬の探偵譚も語られ、そしてクライマックスでは奇想天外な忍者大戦が――
これに先に述べたとおり西部劇パートも加わるわけで、いやはや、サービス満点などという言葉では足りない、作者のやりたいこと、好きなことを全部投入してきた感のある、とんでもない作品であります。
しかし最大の驚きは、今回もラストに待ち受けております。
この驚きだけは、実際にご覧になっていただきたいのですが、「どうしてそうなるの!?」と言いたくなるようなあまりにも意表を突いた引きにただただ愕然、であります。
タイミング的にも内容的にも、おそらく次の巻辺りがラストになるのでは、という予感もありますが、いずれにせよ、次の巻もサービス満点で楽しませてくれることだけは間違いないことでしょう。
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