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2013.05.07

「戦国武将列伝」2013年6月号 新登場、二つの剣豪伝

 おそらくは時代漫画・歴史漫画誌の中でも最もフリーダムではないかと思われるリイド社の「戦国武将列伝」。6月号からはつい先日まで「腕 駿河城御前試合」を連載していた森秀樹、そして初登場の山口貴由が新連載ということで、いよいよますます私好みの雑誌になってきました。

 さて、山口貴由の新連載は、巻頭カラーの「魔剣豪画劇」。
 巻頭カラーといってもページ数は3ページ…と言うと、むしろ巻頭企画記事のような印象を受けますが、これは「絵物語」と言うべきでしょう。
 どうやら、作者お得意の残酷画と特異な人物描写・心理描写で、お馴染みの剣豪を一種の狂…いや超人「魔剣豪」として解釈していくという内容のようですが、連載第1回に登場するのは宮本武蔵であります。。

 見開きページで描かれるのは佐々木小次郎との決闘でありますが、そこで美貌を無惨に打ち砕かれ、モツを溢れさせた小次郎の姿はまあ平常運転。
 しかしそこに至る武蔵の心理が、己の醜い容姿にコンプレックスを溜め込んだ末に、対照的な小次郎の美しさを破壊して「汝は儂よりも醜い」の一言で示されているのが実に面白い。

 わずか数ページでインパクトを出すのは(それこそショッキングな絵面にしない限り)なかなか難しいのではないかと思いますが、作者らしい剣豪列伝に期待であります。


 一方、森秀樹の「獣 シシ」の方は――これはすぐにわかってしまうと思いますので書いてしまいますが、宮本武蔵の物語。
 奇しくも武蔵で新連載の題材が重なってしまったわけですが、こちらは(第1話は)少年期の武蔵の姿を描く点で大きく印象は異なります。

 父に虐待され、周囲からも疎んじられる武蔵が、唯一己を心身ともに愛してくれた姉を何者かに惨殺され、己が犯人と疑われる中で、真犯人に戦いを挑む――
 あらすじだけ見るとシンプルではありますが、容赦のない残酷描写(拷問・陵辱の末に惨殺された娘の死体など)と、何よりも「獣」の名にふさわしい武蔵の凄まじい眼光は、いかにも作者らしいところ。
(もっとも、煽り文句の「編集部ドン引き」は、そうかなあ? と感じますが…)

 こちらも新解釈の武蔵像を示すものとして期待いたします。


 その他、個人的に楽しみな作品といえば「孔雀王 戦国転生」と「セキガハラ」。

 「孔雀王」の方は、孔雀・信長・秀吉・家康という冷静に考えればもの凄い面子が京に入り、近衛前久の依頼で呪いの寺に挑むという展開。
 今回登場する敵のデザインなど、いかにも「孔雀王」的で、やたらと個性的な孔雀チームとの戦いも楽しく、やはりこの辺りはベテランの安定性かとは思います。

 ただ、個人的に残念なのは家康のキャラクターが、設定的にもビジュアル的にも、ほとんど全く史実のイメージを踏まえていない点で――これまで登場した戦国大名たちがそれなりに史実を踏まえていただけにひっかかるところではあります。

 そして戦国大名のデフォルメといえば、それどころではないのが「セキガハラ」。単行本第1巻の内容からすぐ引き続いての今回は、朝鮮入りしていた武将たちが帰国し、初顔見せとなるのですが…

 いやはや、全てを持っていくのは冒頭に登場する加藤清正。いや、確かに清正は虎之助だし、虎と戦ったわけですが、これは――一周して大アリではないかと思います。
 同じく初登場の黒田長政に対しては、個人的には違和感しか感じないことを考えると、我ながらどの辺りに基準があるのか疑わしいものですが、いや、ここまで思い切りよく飛ばしてもらえればいっそ気持ちがいいものであります(ちなみに福島正則も、また別の意味で違和感なし)。

 しかし清正・長政・正則ときて、主人公が三成とくれば、当然次に来るであろうは武断派七将の三成襲撃。しかし本作では今のところ清正と三成の関係は良好、史実のイベントは意外なまでに守る本作の流れを考えれば、この先何があって三成襲撃に至るのか、キャラ造形だけでなく、物語展開の方も気になるところであります。


 何はともあれ、あまりに私好みな作品の連続に、次号も楽しみな「戦国武将列伝」。隔月刊というのが何とも残念なのですが、今後もここでしか読めないような漫画を見せていただきたいものです。

「戦国武将列伝」2013年6月号(リイド社)


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