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2013.05.16

「妻は、くノ一」 第6回「つぐない」

 残すところ、今回を入れて3回。そろそろラストに向けた道筋も見えてきた印象のあるドラマ版「妻は、くノ一」。今回は、いよいよ彦馬と織江に重大な転機が訪れることになります。

 静山が軍艦建造を目論んでいるような書き込みがされた書物を盗み出し、下屋敷から姿を消した織江。彼女がその書物を川村に渡せば任務完了になるはずですが――
 静山と平戸藩の破滅、ひいては彦馬にまで累が及びかねないその書物を提出することもできず、彼女は任務と愛情の板挟みとなって苦しむこととなります。

 一方、静山から書物が盗まれ、そして屋敷から飯炊きが消えたことを知った彦馬は、彼女こそが織江であると確信を持ちます。しかしそれは、織江がやはりくノ一であったこと、平戸藩を探りに来た「敵」であることを意味することを意味します。
 そしてそれは同時に、彼女が自分に見せた愛情は、くノ一としての偽りのものであったかもしれないことを意味するのですが――

 これまで(原作の様々な他の要素を抑えつつ)彦馬と織江の関係性を中心に展開してきたこのドラマ版ですが、ここに二人の関係は最大の危機を迎えたと言ってよいでしょう。
 織江は、彦馬の愛と己の任務――それは(望まぬとはいえ)彼女の人生そのものでもあります――のどちらを選ぶのか。彦馬は、織江に対する自分の愛を、そして何よりも自分に対する彼女の愛を信じ抜くことができるのか…


 このドラマ版においては、二人の想いの行方を、二つの奇妙な親子関係――織江と雅江、そして彦馬と雁二郎――を、あたかも対比させるように描き出します。

 織江と雅江――二人は、確かに血の繋がった母娘でありながら、しかし二人を世間の普通の母娘というには、その間柄はあまりに特殊であります。
 くノ一として暮らし、娘に対しても師としてその技を叩きこんだ母。そんな母の態度に不満を覚えつつも、ただそれ以外の道がなかった故にくノ一として生きてきた娘。
 光と影を印象的に配置した背景の中で、そんな親子がついにお互いの想いを――大げさに言えば、己が生きる意味を――ぶつけ合うこととなるのであります。

 それに対する彦馬と雁二郎はといえば、これも世間一般とは大きく異なる父子であります。
 子を持たずに隠居する武士が、養子をもらうこと自体は決して珍しいことではありませんが、雁二郎は彦馬より年上で、しかし立場はあくまでも子。そんな捻れた関係にある二人の仲は、決して悪いものではありませんが――仲良くそばを啜る姿など実にほほえましい――しかしここで雁二郎は、彦馬に対して容赦ない言葉を浴びせます。

 織江のことを、織江の正体のことを、織江が決して彦馬が思うような存在ではないことを…そしてそれに対する彦馬の言葉こそが、今回のクライマックスであります。
 お前は織江を知ってるか。見たことがあるか。言葉を交わしたことがあるか。優しさに触れたことがあるか。底抜けに楽しげな笑い顔を見たことがあるか。朝夕の飯を食ったことがあるか――

 人と争うことを嫌う彦馬の口から、畳みかけるように、叩きつけるように出てくるこの言葉こそが、彦馬の想いの表れであり、それがこの「妻は、くノ一」というドラマの一つの到達点でありましょう。

 そして陰でその言葉を涙ながらに聞いていた織江は、ついに忍びを抜けるという決意を固めることになります。
 そして彦馬の方も、心ならずも織江が川村に渡した書物のために、静山に累が及ぶことを止めてみせるという決意を固め、ここに二人はそれぞれの戦いを始めることに――いよいよクライマックスであります。


 ちなみに以前触れた、原作では彦馬より年下(と思われていた)雁二郎が、こちらでは最初から彦馬より年上と設定されている理由は、今回の会話を見ていれば明らかでしょう。
 形上は子であっても、人生の先輩として彦馬を諭すその姿は、やはり年上でなければなりますまい。
 織江が原作と違い、実際に手込めにされた部分も、今回の雁二郎の言葉を聞いていれば頷けるところ、疑問に思っていた改変にしっかり答えが用意されているのは、当たり前と言えば当たり前ですが、ちょっぴり悔しくも嬉しいものです。


関連サイト
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