「戦国妖狐」第11巻 父子対決、そして役者は揃った!
前巻から千夜青年編に突入した「戦国妖狐」。前巻では第一部ラストで出現した謎の五人の正体の一端も判明、さらに第一部の主人公であった迅火の行方も判明しましたが、この第11巻では、千夜にとって大きな意味を持つ人物との再会が描かれることになります。が、これがまた一筋縄ではいかず…
謎の五人組――「無の民」とついに対面し、己の中の千体の闇と、足利義輝の魂の力でついにこれに打ち勝った千夜。
再来を予言した無の民に対し、修行を重ねてきた千夜と月湖は、予言された年――8年後の元亀4年に旅立つこととなります。
…が、冒頭のダイジェストで千夜自身が嘆じているように、彼らの前途はいかにも多難。千夜の最初の目的である、父・神雲の救出の前に立ち塞がるのは、人間の遙かに及ばぬ力を持ち、父を、そしてかつては彼自身をも封印した山の神・オオヤマミツチヒメ――その力といい、気紛れで残酷な心といい、まさしく人間離れした「神」であります。
そして千夜に同行する妖狐・たまが探し求める迅火は、無の民に支配されたまま各地の土地神を食らってさらに力を高め、解放されれば大地の精力を食い尽くしかねない恐るべき存在と化し、これを止めることができるのはおそらく千夜のみ。
そして無の民が狙うのはもう一人、千夜自身――正確には千夜の力の源である千界の宝玉――であり…千夜の望みである人間として生きるのは、前途多難というも愚かな状況であります。
そんな状況のこの巻のメインとなるのは、なんと千夜と神雲の父子対決――何故、千夜が助けにきた父と戦わなければならなくなるのか、それはここでは伏せておくとして、あまりの強大さのおかげで(?)第一部ではほとんどその力の全容を見せることがなかった神雲が、ようやくその力の一端を見せることとなります。
正直なところ(本当に今さら&しつこくて恐縮ですが)、ここまでくるともはや戦国ものというよりもファンタジーものの域かとは思います。しかしこれまで同様、少年漫画、なかんずくバトルものとしての本作の魅力は今回も健在。これまで幾多の強敵を破ってきた千夜の力がまるで通じない相手、一発食らっただけでゲームオーバーとなりかねない相手に対し、千夜が如何に挑むか――そんな緊迫感溢れるバトルの中で、千夜にとってはこれまでの敵とは明らかに異質である「父」という存在が浮かび上がるのが本作のうまさでしょう。
さらにそのバトルの先に始まるもう一つのバトルの先に描かれるもう一つの父と子の姿(さらにそれを通じて描かれる神雲の姿)がまた泣かせる。
この巻の冒頭に収録された単発エピソードも、ちょっとゆるい雰囲気の中で千夜と月湖の成長が(そしてたまの辿ってきた旅路の重さが)さらりと描かれていて、この辺りのドラマ面は、さすがにこの作者ならでは、と感じさせるのです。
最終ページには成長したムドも顔を見せ(そしてその師はやはり予想通りの人物)、さらに第一部からの消息が不明だった面々もほぼ全員登場して、まさに役者は揃ったという状況ですが、さてそれでは物語はどこに向かうのか――
それが全くわからないのが、本作に限っては逆に楽しみなのであります。
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