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2013.06.03

「十 忍法魔界転生」第2巻 転生という誘惑の意味

 連載の方ではついに主人公が登場した「十 忍法魔界転生」ですが、単行本第2巻の方は、敵の編成の真っ最中。後世に名を残す名剣士たちが次々と堕ち、魔人へと転生していく様がひたすら描かれることとなります。

 森宗意軒の怪忍法・魔界転生により死から甦った天草四郎・荒木又右衛門・田宮坊太郎・宮本武蔵――第1巻のラストでは、江戸に向かう宝蔵院胤舜の前に、四郎と又右衛門が現れた場面まででした。

 禁欲により常人離れした武技を発揮する胤舜を挑発し、決闘に持ち込んだ四郎。それも、こともあろうにまず美女と交わってから決闘に臨む四郎に、胤舜の怒りは爆発寸前となるのですが…

 一方、江戸で密かに張孔堂――由比正雪と紀伊大納言頼宣の動向を息子・宗冬に探らせていた柳生宗矩ですが、宗冬は柳生如雲斎にあっさりと倒された末に辱めを受ける始末。病のため思うに任せぬ我が身を悔やむばかりの宗矩の前に、胤舜が二人の女性を伴って現れるのですが――それが何を意味するか、説明するまでもありますまい。

 というわけで、この第2巻で中心となるのは、宝蔵院胤舜と柳生宗矩転生のエピソード。
 己の技を究めることに邁進しある境地にまで至った胤舜と、江戸柳生総帥であり幕府大目付にまで登り詰めた宗矩――これまでに登場した面々に比べれば、遙かに恵まれた生を送ってきたに見える二人が、ある意味それまでの人生を根底から否定するに等しい魔界転生を決意する姿が、生々しく描かれます。


 ここで突然個人的なお話で恐縮ですが、私の初「魔界転生」は、TVで放映された深作欣二版でありました。筋こそ原作とは大きく異なるものの、主人公がしばらく登場せず、延々と恐ろしげな敵(転生衆)が登場し、頼りになりそうだった宗矩まで転生してしまう様から、一種ホラー的な恐ろしさを感じたのを今でもよく覚えています。

 今回、本作で(原作にほぼ忠実に)描かれたのも、やはり次々と名剣士たちが転生していくくだりではありますが、しかしその恐ろしさが別種のものと感じられたのは、これは私が歳を食ったせいでしょうか。
 すなわち、単に敵が増えるという恐ろしさではなく、彼らのような功成り遂げた、そして常人以上の精神力を持ってきた剣士たちですら、魔界転生の――己の生をやり直すという――誘惑に勝てないのか、という恐ろしさに。

 実はこの辺りの「人生やり直し」というモチーフは、その他の山風作品でも何度か見られるものではあるのですが、しかしそれがより痛切なものとして感じられるのは、やはり転生するのが彼らであったからこそ――と、今回再確認させられた次第です。
 そしてそれはもちろん、作者の――せがわまさきの筆の力にも依るものであることは言うまでもありますまい。


 が、その絵にも不満がないわけではありません。個人的に大いに気になってしまうのは、転生した者たちが、(抑え気味であるとはいえ)見るからに人外然としたパーツを付与されていることであります。
 具体的にはエルフ耳や魔物然とした目の描写なのですが、むしろ外見以上に内面が変化することこそが原作の、そして本作の魔界転生の恐ろしさと考えている身としては、残念に感じられます(胤舜の十文字眉毛などはもはやギャグの域かと)。

 もちろん、その「内面」が描かれるのは、まだこれからであります。
 私の印象が早とちりであったと、私に見る目がなかったと証明される日も遠くないと、おかしな話ではありますが期待している次第です。


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コメント

柳生宗矩の転生は前作の「Y十M〜柳生忍法帖〜」の最終回での沢庵和尚のセリフ、原作にもある「命のやりとりではせがれの方がおやじよりだいぶ強いのではないか?」というのが伏線じゃないかな?と思うのですが、少なくとも深作映画版では柳生宗矩の転生は十兵衛と戦う為でしたし・・・柳生忍法帖が1964年で魔界転生の連載が1964年12月からですから、山田先生的にも伏線としての意志があったのかな?と思っております。

投稿: ジャラル | 2013.06.08 21:33

ジャラル様:
なるほど、確かにそういう形にも読めますね。
本作も、匂わす程度だとは思いますが、前作の存在を踏まえて描いてくれるととても嬉しいですね

投稿: 三田主水 | 2013.06.16 14:40

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