「紳堂助教授の帝都怪異考」 魔道と人道の境を行く紳士探偵と助手
最近はだいぶ少なくなってきた印象もありますが、ユニークな時代ものを数多く収録するメディアワークス文庫。一見外国人作家にしか見えない名前の作者による本作も、実にユニークな大正ものであります。
本作の主人公(の一人)たる紳堂助教授は、その肩書き通り帝国大の助教授。整った容姿に洋装を一分の隙もなく着こなした、周囲の女性が放っておかないような――そして紳堂氏自身、そんな女性たちを放っておかない――美青年であります。
しかしそんな彼には、この世のものならざる世界…すなわち魔道の世界通じるというもう一つの顔が。その才能を用い、時に警察の依頼を受けて、彼は難事件解決に颯爽と立ち上がるのであります。
本作は、そんな紳堂助教授の華麗な活躍を、助手の篠崎アキヲ「少年」の視点から描く、4つの短編から構成されます。
紳堂助教授が密室内で黒焦げとなって殺された青年の謎を解き明かす「香坂邸青年焼殺事件」、同じくわけありの関係の未亡人の依頼で妖が取り付いた絵に挑む「小石川怪画」、紳堂邸の掃除にやってきたアキヲが、屋敷に収蔵された奇怪な品の数々に振り回される「秘薬の効き目」、そしてアキヲと美少女・沙世の美しくも哀しい出会いと別れの物語「沙世」――
その中でも、最もオカルトミステリとしての出来がよいのは、冒頭の「香坂邸青年焼殺事件」でありましょう。
あり得べからざる焼殺事件の、その手段自体はあっさりと判明するのですが、しかし紳堂助教授の名探偵たる部分はその先、誰がそして何のために青年を殺したのかを、実証と推理を踏まえて丹念に解き明かしていく部分であります。
(そしてもう一つ、アキヲの特異な設定が生きてくる展開も楽しい)
そこにあるのは、紳堂助教授の信念たる「魔道は人道」――どれほど人知を超えた力を発揮する魔道の技であっても、それを用いるのはあくまでも人間であるという想いの発露なのです。
…が、実は紳堂助教授が名探偵らしく振る舞うのはこの第1作くらいで(そもそも探偵と呼ばれることを嫌がるのですが)、他の作品は、むしろそうした枠に収まらないというべきか、一種のキャラクターもの――紳堂助教授とアキヲのやりとり、関係性がメインとなっているという印象が強くあります。
おそらくはそのためでしょう、実のところミステリとしても伝奇ものとしても、大正ものとしても食い足りない部分が生じているのは、何とも勿体なく感じられるのです。
(「魔道は人道」という言葉があまりにはまっているだけに…)
しかしこれは、それだけ物語の展開を膨らませる余裕があるということなのかもしれません。
事実、ラストの「沙世」などは、そんな本作であるからこそ生まれた佳品と言っても差し支えありますまい。外面と内面で二つの属性を行き来するアキヲと、完成された人間のようでいて、そのアキヲに対してのみゆらぎを見せる紳堂助教授と――沙世という少女の哀しい運命を描きつつも、その先に見えるのは、そんな二人の絆なのですから。
幸い好評の様子で、来月には続編が登場する予定の本作。果たして次はどんな顔を見せてくれるのか、まずはその点を楽しみに待つこととしたいと思います。
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