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2013.07.18

「お江戸ねこぱんち」第七号 ニューフェイスに期待しつつも…

 四ヶ月に一度のお楽しみ…と思いきや、次号は9月に発売と刊行ペースが速まる予定(?)の「お江戸ねこぱんち」。先のことはともかくとして、最新号で気になる作品をいくつか紹介しましょう。

「今宵は猫月夜」(須田翔子)
 猫か剣士か、謎の猫侍・眠夜月之進を主人公とする連作シリーズが今回は巻頭カラーに抜擢であります。個人的に気になっているシリーズだけにこれは嬉しい。

 内容的には、江戸の郊外の村で増殖しているという妖怪、いや鬼の謎に月之進が挑むという展開ですが、まずその事態に気付いたのが、彼の周囲に見知らぬ猫たち――その村に住んでいたのが鬼に追い出された――が住み着いたから、という導入部がまず面白い。
 今なお増殖し続ける鬼たちの正体は、そして月之進の前に現れた猫又は何を知るのか…
 前回も「おっ」と思わせる一ひねりがあった本作ですが、今回もその趣向は健在。何故鬼たちが増殖するのか、そしてそれが何を意味しているのか、という謎解きも面白いのですが、その中心にいた男の正体が、歴史上のある有名人だった、という趣向は「おっ」というよりも「おおっ」クラス。
 史実と照らし合わせるとギリギリという気もしないではありませんが、まさかここでこの人物に出会えるとは、という意外な驚きと、そこから生まれる人情ものとしての展開には感心いたしました。

 絵的には粗い部分もあるのですが、いま本誌で一番気になる作品ではあります。


「猫暦」(ねこしみず美濃)
 天文を志す少女・おえいと彼女を嫁にするという猫又・ヤツメを中心にしたユニークな人情譚といった趣の本作ですが、前回おえいの父が武者修行に出たことにより、おえいはやはり天文学を志す男・伊能勘解由の家で住み込みで働くこととなって…

 と、いよいよおえいの夢が動き出した感もありますが、女性が天文学に携わるというのは前代未聞であり、そして何よりも彼女はまだ頑是無い子供、ということで、まだまだ先は長い、というのが正直なところ。
 そして何よりも、彼女を引き取った勘解由も、彼の同僚たちも、まだ自分の夢に向かって歩み始めたばかり…
 ということで、今回は過労でダウンした指導役の羽間重富(間重富)に代わり、勘解由たちが観測に挑む姿が物語の中心として描かれることになります。

 実は本作、あまりに地に足の着いた物語であるが故に、ヤツメの存在が浮いて感じられなくもない、というのが唯一にして最大の弱点に感じられるのですが、だからといってヤツメが神通力で全て解決してしまったらもちろん物語は台無し。
 その辺り、今回ヤツメがその力を発揮する相手のその内容が実に見事で、やはり本作は「うまい」としか言いようがないという印象です。


「外伝猫絵十兵衛御伽草紙 棒鼻猫」(永尾まる)
 お馴染み「猫絵十兵衛」、今回の外伝の主人公となるのは、本編でもお馴染みのお隣の浪人・西浦さん…の少年時代。
 少年時代にニタに散々脅かされたのがトラウマとなって猫嫌いになった西浦さんですが、時系列的にはニタと遭遇してから今に至るまでの間に起こった事件ということになります。

 旅の途中に猫の一家に出会った西浦さん、もちろん猫が恐ろしくて逃げ出してしまうのですが、そこに周囲を荒らす巨大なミサキ風(魔風)が吹いてくることを知って…
 と、お話の内容的にはある意味お約束ではあるのですが、それでもきっちり楽しいのは、仔猫の絶妙なディフォルメっぷりをはじめとする絵作りのうまさと、ファンタジックな部分と地に足の着いた部分のさじ加減の巧みさでありましょう。
(ここで「ミサキ風」という名前がサラッと出てくるところが面白い)

 しかしこの展開、ラブコメだったら完全に十兵衛が運命の人なんですがそれは…


 と、結局前回と同じ三作品のチョイスになってしまいましたが(あと楽しかったのは、やはり安定のクオリティの「忍者しょぼにゃん」)、やはり絵的・内容的にどうしても評価できる作品が固まってしまうという印象があります。そろそろニューフェイスに期待したいところですが…
 冒頭で触れた通り、次回の発売は9月とのことですが、刊行ペースが(おそらく)上がることが良い変化に繋がることを期待したいところです。


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