「童子の輪舞曲 僕僕先生」 短編で様々に切り取るシリーズの魅力
美少女仙人とニート青年の珍道中…だけではない大河ロマン「僕僕先生」最新巻は、久しぶりの短編集。さらに早わかりロードマップ&キャラクター紹介も掲載した初心者も楽しめるナビゲートブック仕様とのことですが…なかなかどうして、油断のできない一冊であります。
美少女ボクっ子仙人の僕僕と、彼女の弟子で(元)ニート青年の王弁の気ままな旅も、いつの間にやら朝廷に救う暗殺機関やら、太古の神々の戦いやらに関わることになって波瀾万丈。旅の仲間も、ペラペラな美女の妖怪・薄妃、非情な凄腕暗殺者・劉欣と増えてきて、確かにこの辺りで物語を振り返ってみるのはいい試みかもしれません。
そんなわけで今回は冒頭に僕僕の知人の仙人・司馬承禎の侍童二人を案内役としたキャラクター紹介、そして短編6編の合間に、これまでのシリーズ作品の簡単な紹介が入る構成となっております。
さて、ここで紹介するのは短編の方ですが、これがなかなかユニークな作品が揃っています。
雨宿りの徒然に僕僕・王弁・薄妃が始めた絵双六が垣間見せるそれぞれの道を描く掌編「避雨雙六」
雷王の子と友情を結び自分も雷神見習いとなった人間の子供が、雷王から命じられた遣いの任を果たすため奮闘する「雷のお届けもの」
難破して結界に覆われた島に漂着した一行が、自由を賭けて島を支配する王の船とのレースに挑む「競漕曲」
僕僕たちの宿代わりとなっている変幻自在の動物・第狸奴。繁殖期になった第狸奴のために王弁が一肌脱ぐ「第狸奴の殖」
謎の鏡に飲まれてしまった司馬承禎を救い出すため、鏡の欠片を追って侍童二人が奔走する「鏡の欠片」
いずれも外伝として、語られざる物語として、実に楽しい作品揃いなのですが、しかし巻末に収められた「福毛」に、皆が悩まされることは間違いありますまい。
何しろ舞台となるのは現代の日本(を思わせる世界)、王弁を思わせる主人公・康介と僕僕を思わせるヒロイン・香織が結婚していて、二人の子を儲けているというのですから――
物語の方も、ある日突然内臓が極度に老化するという状態に陥った香織を前に、子どもたちを抱えて奮闘する康介…と一種の難病ものとも言うべき内容なのですが、さて最後の最後に明かされる「僕僕先生」との繋がりは…と、ここで読者は大いに困惑させられてしまうのであります。
と、ここで他の収録作品も含めて振り返ってみれば、本書全体がなかなかの曲者、と思わなくもありません。ナビゲートブックと言いつつも、「福毛」は言うに及ばず、他の短編も、その半分は本編ではいわゆる脇役。シリーズのファンが読むには本当に楽しいのですが、初心者が読むにはどうかな…と思う方もいるのではないでしょうか。
と、少々回りくどい表現をしたのは、私自身はむしろ本書は実に「僕僕先生」らしい魅力のある作品ばかりが集まっていると感じているからであります。
私が「僕僕先生」という作品に感じている魅力――それはもちろん、僕僕というキャラクター自身の魅力や、王弁との関係へのヤキモキもあるのですが、それ以上に、二人に代表される「高い壁が、深い溝がありながらも何とかそれを越えて歩み寄ろうとする人(人外も含めて)の関係性」の描写であります。
そしてそれは、本書に収められた短編の随所に――そしてもちろんシリーズの他の作品にも――見られるものであり、短編という形式により、よりそれを深く浮き彫りにしたものですらあると、私は感じるのです。
もちろん、大きく隔てられた存在同士が近づき、理解し合うのは並大抵のことではありません。それを成すにはどうすればよいのか――それをこれ以上ない形で(もっとも作中ではそれが間違った方向に行ってしまうのですが)描いたのが「福毛」という作品ではないかと感じるのですが、それは牽強付会というものでしょうか。
しかしいずれにせよ、本書が「僕僕先生」という作品の魅力を様々な形で切り取ってみせた作品であることは、間違いありますまい。
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