「天威無法 武蔵坊弁慶」第1巻 鬼若、戦乱の巷へ
現在アニメ放送中の「義風堂々」では現代から約400年前の戦国時代を舞台としている武村勇治ですが、新作の舞台は、それよりさらに400年ほど前の平安時代末期。源平の合戦の中で大暴れした武蔵坊弁慶を主人公とした「天威無法 武蔵坊弁慶」であります。
舞台となるのは1174年――平清盛を頂点に平氏一門が隆盛を極める一方で、平氏に対する不満も各地で高まりつつあった時代。
が、そんな時代の流れとはほとんど無関係に、比叡山で己の力を持て余していたのが、本作の主人公・鬼若――言うまでもなく、後の武蔵坊弁慶であります。
幼い頃から常人離れした力で暴れ回っていながらも、しかしいつしか己の力に敵う者がいなくなり、力を振るうことに空しさを覚えていた鬼若。
そんな彼を山の外に連れ出した法然房源空(あの浄土宗の開祖の法然!)は、保元・平治の乱の古戦場に彼を導き、戦場の諸相を見せるのですが――そこで黒装束の謎の二人組が彼らに襲いかかります。
二対一ながら、その体術と剣術で鬼若を圧倒する黒装束。果たしてその正体は…という辺りがこの第1巻の2/3くらいまでの展開。以降は黒装束との戦いの中で世間の広さを知った鬼若が立ち上がる姿が描かれることとなります。
この黒装束の正体自体はここでは伏せますが(といっても、主人公が主人公なのですぐにわかると思いますが、もう一人の方は名前も含めてちょっと面白い設定ではあります)、鬼若の師匠が法然であったり、ちょっとしたひねりがあるのはなかなかに面白い。
ちなみに法然が比叡山を下りて浄土宗を開いたのはこの物語の翌年である1175年で、史実とはほぼ平仄の合っておりますし、鬼若も○○○も、この時期は何をやっていたか、正式な記録が残っているわけではないため、この設定も十分にアリ、と思います。
ただし、物語展開自体は、アクションシーンがほとんどであったこともあり、まだまだ評価は難しい…というのが正直な印象ではあります。
鬼若自身、感情を表に出さないタイプであるため、こちらが感情移入しにくいというのも、難しい点でありましょう。
(弁慶物語では非常にメジャーなあの対決が、この作品の展開だとほとんど封じられているのも厳しいかもしれません)
もっとも(?)その分感情表現が異常に豊かな奴――平清盛がラストに登場。この辺りの描写はいかにも作者らしい、という印象がありますが、さて色物に終わらないキャラクターとして描けるか。
おそらくは鬼若とともに物語を大きく動かしていくであろうキャラクターだけに、そちらにも期待したいところではあります。
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