「戦国武将列伝」2013年10月号(その二) 見よ、又兵衛の瞬発力!
さて、リイド社「戦国武将列伝」誌最新号の感想の後半であります。前回は三作品を取り上げましたが、今回も三作品を取り上げましょう。
「後藤又兵衛」(かわのいちろう)
前回から始まった新連載の第2回。来年の大河ドラマの主人公である黒田官兵衛の家臣として名高い後藤又兵衛ですが、実は私が一番好きな戦国武将であります。その又兵衛を、これまた大いに気になる作家であるかわのいちろうが描くというのですから、これは否応なしに期待させられます。
…と言いつつ、恥ずかしながら第1回を読み逃してしまったのですが、どうやら今回が又兵衛の黒田家デビュー戦の様子です。
舞台となるのは1581年、淡路の由良城。秀吉の四国攻めの一貫として、官兵衛と仙石秀久がこの城を攻めた一戦に、又兵衛は黒田隊の一人として参加することとなります。
本作の又兵衛は、ナリもでかいが態度もでかい、いかにも豪傑然とした男ですが、黒田隊の面々も、彼に負けず劣らずの戦場往来の豪の者だらけ。特にその筆頭ともいえるのが、又兵衛に負けぬ巨躯を誇る母里太兵衛で…
と、なるほど、ここで太兵衛が出てくるかとこちらはニヤリ。官兵衛の下では二人並んで飛車角とも言える又兵衛と太兵衛ですが、初対面ではお互い似たもの同士ゆえか、早速衝突、それが高じて――そして官兵衛の焚き付けもあって――なんと黒田隊のみで城攻めを行うことになります。そして今回のクライマックスがこの城攻め、無数の銃弾が撃ち出される中、いかに城に突入するか――
かわの作品の最大の魅力は、そのアクションシーンにおける「瞬発力」の描写ではないかと昔から感じておりましたが、今回もその魅力は存分に発揮。城からの銃撃に対し、鎧を着け竹束を負いながら一瞬の隙を見ぬいてダッシュする又兵衛の姿は、その後に駆けつける太兵衛たちの存在も相まって、むしろスポーツものでも読んでいるかのような不思議な爽快感を感じた次第です。
「獣 シシ」(森秀樹)
野生児…という言葉の印象に比してあまりに重いものを感じさせる少年時代の宮本武蔵を描く本作ですが、今回も実に重い。
山道で悪党二人に襲われ、相手の刃で自らの得物であるこん棒を切り落とされて崖から転落した武蔵が、竹細工で生計を立てる娘・蕾と出会い、一時の安らぎを得るも――
という今回ですが、中心となるのは蕾の心情であります。初めは武蔵を自分の家で一心に歓待するも、ある時を境に急に冷たく変じ、彼を追い出した蕾の想い。それを、我々読者には何となく察せられるように、そして武蔵には初め全くわからないように描くのが何とも心憎い。
そしてクライマックスで武蔵が初めて蕾の真実を知り、そこから初めて剣を手に取る――獣としての牙を剥くという展開もただただ見事であります。
本作の武蔵の、常ならぬ強大な力を手にしながらも、己の依って立つものを持たず、ただ己の剣のみを頼りに喘ぎながら立つ姿、己の道を探してあえぐ姿は、間違いなく前作「腕」の延長線上にある物語と感じた次第です。
(もっとも「腕」にも武蔵は登場していたわけですが、あちらは一種完成した人間に見えていたのも興味深い)
「セキガハラ」(長谷川哲也)
タイトルにある決戦の地、動かせない史実に向かっているであろうと思いつつも、そこに至るまでが全く先が読めない展開は今回も健在の本作。
今回は、前半であの奇怪な蜘蛛に導かれ、母を救うために立ち上がった幼い秀頼の姿が、後半で石舟斎の涙ぐましい再就職活動が…じゃなかった、黒田長政が思力を狙って池田輝政を襲撃する様が描かれることとなります。
そしてもう一つ、ついに三成襲撃を決意する加藤清正と福島正則(ただのふんどし男ではなかった!)の姿も…
と、七将の三成襲撃に向けて物語は着々と進んでいきますが、やはり気になるのは秀頼の存在。史実の関ヶ原においては(名目上は東西どちらも「秀頼のため」を掲げていただけに)ほとんど存在感が感じられなかった彼が、物語にこれからどう絡むのかが気になるところです。
さて、駆け足で6作品取り上げてきましたが、次号からは「信長の忍び」の重野なおきの「政宗さまと景綱くん」が連載開始と、これまた大いに気になる作品が登場することとなる「戦国武将列伝」。「コミック乱」「乱ツインズ」が最近大人しい印象があるだけに、これからも攻めの姿勢で行っていただきたいものです。
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