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2013.09.09

「戦国武将列伝」2013年10月号(その一) 鬼を斬る少年、見参!

 リイド社のユニークな時代漫画雑誌「戦国武将列伝」。最新号では私の気になる作品も相当増えてきたゆえ、二回に分けて紹介させていただきたいと思います(ちなみに、恥ずかしながら前号を読み損ねてしまったため、勘違い等あれば先にお詫びしておきます)

「魔剣豪画劇」(山口貴由)
 「シグルイ」の山口貴由が、いかにも作者らしい独自の解釈で剣豪たちを描く本作。巻頭わずか3ページ(+解説1ページ)という限られたページ数ながら、圧倒的な絵の力とその強烈なアレンジで驚かされます。

 さて今回のタイトルは「流民武士伊東一刀斎」。かの一刀流の祖でありつつも、彼の経歴には不明な点が多いのですが、本作で描かれるのは、その伝承の一つである、伊豆大島から泳いで本土に渡ってきたというもの。
 流人武士の子である彼が、信長に会うことを夢見て島を出た…という時点で面白いのですが、一般には彼に決闘の末敗れたと言われる、冨田一放の下で一揆鎮圧に当たる姿が描かれます。

 一揆に直接関係ない者も含めて老若男女関係なく虐殺していく中、これも有名な「瓶割」のエピソード(瓶の中に隠れた盗賊を瓶もろとも真っ二つにしたというもの)が、あまりにも無残な形にアレンジされているのにはただ愕然とするばかり。実は本作は袋とじ形式なのですが、それもこの絵ゆえ…というのは言いすぎかもしれませんが。

 しかし真の残酷は、本来であれば自身に近いとすら思える者たちを殺してまで「武士」であろうとしていた彼の目標たる信長は、全く別の「力」に興味を抱いていたという結末でありましょう。


「孔雀王 戦国転生」(荻野真)
 いよいよ10月に単行本第1巻が発売される本作、呪いの都と化した京から帰り、今回は尾張が舞台。
 信長の正室、斎藤道三の娘として知られながらも、実はその消息等謎が多すぎる濃姫=帰蝶が登場するのですが、その設定も、嫁いできて以来、信長以外誰も目にしたことがないというのがまた本作らしい。

 その名にふさわしい艶やかな蝶の柄の着物に身を包んだ彼女の正体は、実は…という展開になりますが、彼女が信長に語る京――上洛した者は皆、呪に侵され、帰国した後も呪が肥大し続け、末は醜悪な化け物と化すというその「実像」は、なかなかに魅力的に感じられます。
 そして、その中心に在るのが、艮の金神と呼ばれる金色の髪の少女・阿修羅…! という事実自体は以前の回で既に描かれていますが、旧作からのファンには実に興味深いところですが、やはりこの辺りに孔雀がこの時代に来た理由があるようで…

 にしても、今回登場する化粧して女装した信長(それなりの理由はあるのですが)どの辺りのニーズによるものか…


「鬼切丸伝 鬼嗣子の章」(楠桂)
 そして今回最大のサプライズはやはりこの作品でしょう。かつて10年近くに渡り連載された楠桂の代表作「鬼切丸」の外伝が登場であります。
 「鬼切丸」は、唯一鬼を断つ力を持つ刀・鬼切丸を持つ名無しの少年が、人の負の感情から生まれる鬼を倒していくというホラー漫画。本編は現代が舞台でしたが、純血の鬼である少年は不老不死という設定であり、江戸時代に登場しても不思議ではないわけです(本編にも過去の時代を描くエピソードがあったかと)。

 さて、その外伝ですが、舞台となるのは寛永12年の伊予松山。藩主の蒲生忠知は、跡継ぎがいない腹立ちから町民の妊婦の腹を引き裂き、赤子を取り出す凶行を繰り返していた――というのは、これは現代にも伝わる巷説ですが、本作ではそれを踏まえて、より無惨な物語が展開されます。

 ようやく生まれた忠知の嗣子…それは角を持つ鬼の赤子。忠知は、その赤子に妊婦とその子を喰らわせるという更なる凶行に走ることになります。
 そこで少年に対するいわば依頼者となるのが、かつて忠知に惨殺された妊婦の怨霊という点。人なら祟れるが鬼には祟れない…というわけで、鬼と化した忠知と赤子を斬るために少年が城に乗り込むのですが…鬼を斬った後に待ち受ける、鬼に関わった者たちの末路を二段、三段と畳みかけるように描く結末の残酷さが、実に「らしい」としか言いようがありません。

 題材的にはまだまだ少年が活躍する舞台が多そうな時代だけに、再度の登場を期待したいところであります。


 次回に続きます。


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コメント

武将はかっこいいですね。

投稿: 吉野@メンタル | 2013.09.09 09:09

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