「お江戸ねこぱんち」第八号 そろそろ安定の猫時代漫画誌
前号からわずか二ヶ月で刊行となった「お江戸ねこぱんち」の最新号である第八号。既に創刊から二年ほどが経ったこともあってか、内容的にもかなり安定してきたように感じられます。今回も、印象に残った作品をいくつか紹介しましょう。
「猫暦」(ねこしみず美濃)
天文を志す少女・おえいと猫又のヤツメ、おえいの師となった伊能勘解由らが織りなす天文人情絵巻とも言うべき本作は、今回も静かな、しかし味わい深い展開であります。
前回も登場した羽間重富によって完成した新たな暦の計算法を記した暦法新書。しかしヤツメの力で大人に変身(久々?)したおえいが見つけ出した誤りの存在――それも、羽間もそれを知っていたにもかかわらず、既存のに既存の天文界との軋轢でそれを正すことができなかったという事実に――勘解由は大きな衝撃を受けることになります。
その重みに己の道を見失ってしまう勘解由。そんな彼を救ったのは、ヤツメによる「何のために天文を志したのか」という問いかけで…という展開は定番通りかもしれませんが、その答えが、ある快挙として、そして何よりもおえいの無邪気な笑顔として結実する結末は、実に美しく、感動的であります。
「外伝 猫絵十兵衛御伽草紙 恩送り猫」(永尾まる)
お馴染み「猫絵十兵衛」の外伝、今回は久々の、子供時代の十兵衛とその師・十玄の若き日の物語。自分を助けて亡くなったさる商家の主人の遺族に恩返ししようとする猫と出会った十玄と少年十兵衛が、その意気やよしと助っ人を買って出るという一幕であります。
彼らのしていることは、ある意味その場しのぎのものであり、厳しい言い方をすれば自己満足であるかもしれません。しかし、たとえ猫であっても、誰かが自分たちのことを想ってくれている、その事実こそが、何よりも人を支えるものとなるのでありましょう。
この世界なら当然、と思っていたことに一ひねり加わったオチも微笑ましく
「良き音ノ鼓」(結城のぞみ)
(私の記憶が正しければ)前号から始まった、若き能役者を主人公とした連作シリーズであります。大の猫好きであり、そして家伝の鼓・良き音ノ鼓を打てば猫が寄ってくるという若き能役者・九郎を主人公とした作品です。
前回は思わぬことから将軍の御前で鼓を打った九郎ですが、今回はいささかスランプ気味で、肝心の舞台をしくじって謹慎処分に。
そんな中、逃げてしまった大名の姫の飼い猫を呼び戻すために鼓を打つことを命じられた九郎は…
猫と能という、およそ関係がなさそうな取り合わせがユニークな本作ですが、その面白さだけに留まらず、己の芸が猫絡みでのみ評価されている現状に不満を持つ九郎の成長物語としても描かれているのが読みどころでありましょうか。
ある種の厳しさがどうしてもつきまとう芸道ものでありつつも、猫を絡めることでどこか暢気なムードが感じられるのも楽しいところであります。
「今宵は猫月夜」(須田翔子)
侍姿に変じて江戸を騒がす妖を斬る猫侍・眠夜月之進を主人公とした本作も、すっかり定着した印象。今回は、とある料亭を訪れた月之進が、代替わりしたばかりで苦労のまっただ中の若主人と出会うのですが…
普通の人間には猫にしか見えないが、人ならぬ者やそれと縁が深い者には侍に見えるという設定の月之進。これまでもこのユニークな設定が活かされてきた本作ですが、今回も、この若主人にも月之進が侍に見えたのは何故か、その謎から意外な方向に物語が転がっていくのが実に面白いのであります。
今回猫侍として剣を振るう、その相手にちと無理矢理感があったのが残念ではありますが、魅力的な作品であることは間違いありますまい。
と、今回は四作品取り上げた「お江戸ねこぱんち」ですが、非常に残念なのは、次号が新春発売予定であること。
冷静に考えれば今回が異例であって、これまでも三四ヶ月おきの発売であったことを思えば特に間隔が開くわけでもないのかもしれませんが、しかしやはりちょっと残念だな、と感じてしまうのが正直なところであります。
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