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2013.10.05

「大帝の剣」第1巻 新たなる漫画版の幕開け

 懐かしの、というのは言い過ぎかもしれませんが、その物語が書き起こされた時から既に四半世紀が過ぎた、夢枕貘の伝奇SF時代活劇「大帝の剣」の新たなる漫画版の第1弾が刊行されました。作画を担当するのは、時代アクションホラー「戦国ゾンビ」の横山仁であります。

 さて、いましがた「新たなる」と表現したのは、「大帝の剣」の漫画化が、今回で二度目であるからにほかなりません。前回は、韓国の漫画家・渡海を作画担当とし、原作の「凶魔襲来編」までを漫画化。いささかスローペースではありますが、原作の持つ「太さ」をよく表した絵柄が印象的でありました。

 その印象があったため、最初は何故また…という気持ちは正直ありましたが、考えてみれば「餓狼伝」「闇狩り師」「陰陽師」と、夢枕作品で二度以上漫画化されることは少なくありません。そしてそれが、それぞれ漫画家の個性がよく出たものになっていることを考えれば、新たなる「大帝の剣」に出会えることを喜ぶべきでしょう。

 さて、その横山版「大帝の剣」第1巻は、原作でいえば第1巻を漫画化した格好といえるでしょうか。
 すなわち、伊吹山で野伏せりにさらわれた娘を圧倒的なパワーで救い出した主人公・万源九郎が、天空から落ちてきた巨大な流れ星を目撃。そこで拾った簪を巡り、真田と伊賀の忍び同士の暗闘が始まり、そこに謎の美剣士・牡丹や、人と獣が一体化した謎の怪物、さらには怪剣豪・宮本武蔵までが絡んで…という展開であります。

 この辺りはファンにとってはお馴染みのストーリーではありますが、やはり主人公をはじめとして、とんでもないパワーを秘めた連中ばかりが次々と顔を見せるという展開はやはり盛り上がります。
 この横山版は非常に展開がスピーディーな上に、登場する忍法の描写がまたユニークであります(特に妖艶な女忍・姫夜叉の忍法は、色々と問題はありますがアイディアとしては面白い)。

 そしてなによりも、怪物的な連中は、本当に怪物としかいいようのない描写――キャラデザイン、演出の双方において――なのが本作ならではの個性というべきでしょうか。異常に迫力のある伊賀の破顔坊とその配下たち、どちらが魔人かわからぬ武蔵、原作とは大きく異なるデザインの人獣一体の怪物と、この辺りはこの作者を起用した狙い通りと言えるのではありますまいか。

 その一方で、源九郎が原作の太く大きい男というイメージとはちょっと変わった陽性で不敵なキャラクターデザインとなっていたり、何よりも登場人物の表情の硬さが個人的には気になるのですが…これはまあ、とりあえず絵の方向性と解すべきでしょうか。

 何はともあれ走り出した新たなる漫画版、こうなったら原作ラストまで駆け抜けて欲しい、と願っているところなのです。


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