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2013.10.01

「もぐら屋化物語 2 用心棒は婚活中」 ふやけ浪人の逸らさぬまなざし

 やることなすことうまくいかない不遇のふやけ浪人・楠岡平馬の冒険(?)再び、であります。諸般の事情から脱藩し、おかしなもののけや人間が集まる内藤新宿で、不気味な旅籠・土龍屋の用心棒となった平馬が、今回ももののけ絡みのおかしくて面倒な事件に巻き込まれることとなります。

 故あって会津藩を脱藩して江戸藩邸を飛び出したものの、速攻で行き倒れて内藤新宿の土龍屋に拾われた平馬。そこで暮らしていたのは、しっかり者だけどちょっと美的センスに問題ありの幼女将のお熊と、地獄の閻魔の使いを自称する百年土龍のムグラ様で…
 と、色々な意味で崩壊寸前の土龍屋を舞台に、おかしな二人と一匹のドタバタ騒動が繰り広げられるこの「もぐら屋化物語」シリーズですが、もちろんそれは本作でも変わることはありません。

 前作のラストで登場した、平馬をお父ちゃんと呼ぶ可愛らしい兎・玉兎のおかげで土龍屋が壊滅寸前に追い込まれる「兎晴怪事徴」を始まりに、今回も描かれるのは、人間ともののけたちのどうにもおかしく、そしてちょっと(いや時に相当に)切ない物語。…あと、平馬の受難の数々であります。

 本書に収録された続く二話も、もちろん平馬の受難は続きます。
 知り合いの若旦那の恋バナに付き合っていた平馬が、何故か人間ともののけの合コンに顔を出した末に若旦那を巡る三角関係のドロドロに巻き込まれる「恋三巴梟啼」。
 そしてムグラ様にかけられた子供誘拐疑惑と、以前からお馴染みの平馬の先輩・佐川官兵衛が会津から追ってきた因縁の凶悪犯が意外な形で交錯する「猫魔御始末」。

 どのエピソードでも、望んでトラブルを買うように事件に首を突っ込んでいく平馬の不幸っぷり(本当に鷹と犬がいないとダメだなこの人は…)が一周回って楽しいのですが、しかしそれはもちろん、平馬が持つ大きな優しさあってのことであります。

 前作に比べると暗さは少し薄れた感がありますが、それでも本書のエピソードの端々から垣間見えるのは、この世の薄暗い部分の数々。
 もののけが当たり前のように存在しつつも、しかしそれを見て見ぬふりして暮らす内藤新宿の人々に対し、平馬は、もののけを同じ世界の住人として(いやもうそれはやむを得ない部分も多いのですが)受け入れ、同じ心を、情を持つものとして遇します。
 そしてそんな平馬のまなざしは、もののけ同様に人々が目をそらすこの世の不条理や悲しみをしっかりと見据え、そして決して見捨てずに救おうとするのであります。それがたとえ人から見て邪悪な存在であったとしても――

 …まあ、その努力が実るかどうかは別ではありますが、しかしその平馬の心根は、少しずつであっても必ずや周囲の人々、もちろんもののけの心をも動かしていくはず。
 官兵衛や、シリーズのレギュラーにして平馬の宿敵(?)の女盗賊・お稲の平馬に対する態度を見れば、それはわかろうというものです。

 とはいってもまあ、ふやけ浪人はふやけ浪人。まだまだ続く平馬の苦闘を、これからも暖かく見守りたいところであります。


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