「猫絵十兵衛御伽草紙」第8巻 可愛くない猫の可愛らしさを描く筆
先日創刊7周年を迎えた「ねこぱんち」誌の看板漫画「猫絵十兵衛御伽草紙」の最新巻であります。今回はなんと猫嫌いの浪人・西浦さんという意外な表紙ではありますが、内容の方は変わることなく、楽しくも温かい人間と猫(又)の交流譚が綴られております。
この間でも相変わらず元気な猫絵師の十兵衛と元猫仙人のニタ。この第8巻の中で描かれる時期は夏のお盆から年越しにかけてですが、その折々の風情を楽しみながら、彼らが出会う様々な人々と猫々(?)の姿が今回も描かれることになります。
収録エピソードは今回も全6話――
お盆の時期、西浦さんが夜道で出会った猫の幽霊とのつかの間の触れ合い「火喰い猫」
無住寺に新しくやって来た和尚さんの正体は実は…の「猫和尚」
猫丁長屋の暢気な若者が、愛猫のために一念発起する「だらだら猫」
戯作者の濃野初風が、ある夜出会った嗄れ声の子猫との交流「嗄れ猫」
しじみ売りの松吉の弟が、家族の元を離れて奉公に出る姿を優しく描く「奉公猫」
大晦日、ニタ峠の猫又たちと根子岳の猫又たちが盛大な雪合戦を繰り広げる「猫合戦」
どのエピソードもユーモラスで時に泣かせる、そして何よりも登場する猫が実に可愛らしい、いかにも本作らしい内容。
その中でも「猫合戦」は、現猫仙人の清白に猫王シマと補佐の暗夜、十兵衛とニタの出会いのきっかけとなった福助やオッドアイの縹など、これまでに登場した猫又たちが次々と登場するのが何とも楽しく目を引くのですが、個人的に一番印象に残ったのは「嗄れ猫」。
ファンタジックな要素がない、言ってしまえば初風先生が子猫と出会い、飼うようになるだけの話なのですが、とにかく猫の描写がうまいのであります。
というのも(上に書いたことと少々矛盾するようですが)、今回登場する子猫は、模様は妙ですし顔もぶちゃいく、おまけに声は嗄れ声と、実に可愛くない。可愛くないのですが――しかしその仕草の一つ一つは実に子猫らしく、初風先生がメロメロになるのもわかるような描写なのであります。
漫画で、登場キャラクターの見かけを美形に描くことは(ある程度の画力があれば)難しくはないでしょう。しかし、そうでもないキャラクターの外見をきちんと描いた上で、かつ魅力的に見せることは、なかなかに難しい。
この「嗄れ猫」で、それを猫において成立させているのは、これはもう作者の画力はもちろんのこと、長年の経験による猫観察眼(?)の確かさによるものでありましょう。
人情猫情の機微や江戸風俗を描く筆の巧みさなど、本作の魅力を構成する要素は様々にあれど、根本にあるのは、この猫描写の巧みさなのだなあ…と、本当に今更でありますが、確認した次第であります。
「猫絵十兵衛御伽草紙」第8巻(永尾まる 少年画報社ねこぱんちコミックス) Amazon
関連記事
「猫絵十兵衛 御伽草紙」第1巻 猫と人の優しい距離感
「猫絵十兵衛 御伽草紙」第2巻 健在、江戸のちょっと不思議でイイ話
「猫絵十兵衛 御伽草紙」第3巻 猫そのものを描く魅力
「猫絵十兵衛 御伽草紙」第4巻
「猫絵十兵衛 御伽草紙」第5巻 猫のドラマと人のドラマ
「猫絵十兵衛 御伽草紙」第6巻 猫かわいがりしない現実の描写
「猫絵十兵衛御伽草紙」第7巻 時代を超えた人と猫の交流
| 固定リンク
コメント