「戦国妖狐」第12巻 決戦前夜に集う者たち
早いもので千夜青年編に突入してから早くも3巻目の「戦国妖狐」、単行本第12巻であります。戦いの陰で暗躍してきた無の民との決戦が迫る中、第一部からの懐かしい登場人物たちが次々と戦線復帰、さらにあのキャラまでも…と、物語は決戦に向けて突き進んでいくこととなります。
かつての予言通り、元亀四年に再来した無の民。狂える妖狐と化した第一部の主人公・迅火を手中に収めた彼らは、さらに千夜の父であり、龍の力を宿す最強の男・神雲をも自らの陣営に加えて、その力は早くも恐るべき域に達することになります。
これに対して千夜の側は、神雲を封印していた山の神・オオヤマミツチヒメが手傷を負い、また迅火を正気に戻す手立ても見つからぬ状況。そんな中でオオヤマミツチヒメから全ての状況の収拾を託されてしまった千夜ですが、彼の身にも重大な変化が……
と、ボスキャラ戦にも等しい激闘が描かれた前の巻に対して、バトル面では比較的静かだった今回。しかし事態は水面下で次々と動き、登場人物たちも、それに否応なしに巻き込まれていくこととなります。
その最たるものが、無の民による闇(かたわら)軍の結成でありましょう。
己の身に宿した千体の闇の魂の力とともあることで、相手の意識を支配する無の民と互角に戦うことができる千夜。この千夜の力に、一体一体は弱くとも、数多くの闇の意識を集めることで無の民は対抗しようとするのですが――
しかし、寄り集まるのは敵の側だけではありません。故あって結界の中で暮らしていた真介が、千夜に敗れた後に修行を積んでいたムドが、そして彼の師であり神雲の親友でもあった道錬が、それぞれの想いを背負って、無の民との戦いに参戦するのであります。
そして自分一人で運命に決着をつけるため旅だった千夜を追いかける、月湖と(宿主を変えた)黒月斎、そして迅火を正気に戻すため単独行動するたま――
今はまだ全員が合流したわけではありませんが、目指すところは皆同じ。敵が力を結集すれば、味方も力を結集する……おお、定番ながら、それぞれが孤独な運命を背負って行動を共にし、あるいは戦ってきたキャラクターたちが一つの目的のために力を合わせようとする姿は、胸を熱くさせてくれます。
これぞ大河ロマンの醍醐味、といったところですが、物語を最初から読んできた人間にとって、やはり最も印象深いのは真介の成長ではありますまいか。
初めは武士に憧れる単なる農民の子にすぎなかった少年が、冒険の旅の中で時に深い悲しみに沈み、時に復讐の念に飲み込まれかけながらも、やがては千夜や月湖たちの振り仰ぐ大人として立つようになる……
確かに魔剣の使い手ともなった彼ですが、その肉体は、何よりも精神は、あくまでも常人。しかしその常人の心が、何を成し遂げたのか――この巻で描かれるその答えは、彼の旅を見続けてきた我々にとって、何よりも感動的なものであります。
人と闇が、いや神までもが入り乱れ、それぞれの命を散らしていくこの戦国の世に救いがあるとすれば、この平凡な青年の心の在りようにこそその可能性があるのではないか……と感じてしまうのは大げさでありましょうか。
しかしこの巻のラストに描かれるのは、そんな真介にとって何よりも残酷な運命。彼が今ある、原点ともいえる相手を前にして、彼が何を想い、どう動くのか――
いよいよ近づく決戦に、また大いに気になる要素が加わったものであります。
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