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2013.12.13

「ちゃらぽこ フクロムジナ神出鬼没」 右肩上がりの妖怪ドタバタ騒動

 飛鳥山で紅葉狩りを楽しむ妖怪長屋の面々の前に落ちてきた久米の仙人。逃げ出した妖怪・袋狢を追う仙人の手助けをすることになった新次郎だが、長屋に天敵の姉が転がり込んできてそれどころではなくなってしまう。さらに江戸を騒がす奇怪な妖盗が出現、数々の事件は意外な形で繋がることに…

 今年は妖怪時代小説で大活躍した朝松健。その新たな代表作とも言うべき「ちゃらぽこ」シリーズの最新作であります。

 今回の事件の中心となるのは、かの久米の仙人(相変わらず女性のチラリには弱い模様)が可愛がっていたという妖怪・袋狢。狸と官女を足して二で割ったような姿の袋狢を可愛がっていたという仙人ですが、彼女(?)が姿をくらましてしまったというのであります。
 実はこの袋狢、あらゆる壁や扉をすり抜けるという力を持つ妖怪。神出鬼没の彼女を連れ戻すため、妖怪長屋の面々は仙人を手伝うことになります。

 が、長屋で唯一の人間である青年剣士・荻野新次郎の前に現れたのは、彼が頭が上がらないただ一人の相手である実の姉・お勢。北町奉行所与力の夫が外に女を作って帰ってこないという姉に居座られて、新次郎はすっかりグロッキー状態に。

 そこで姉を引き取ってもらうために 奉行所に出向いた新次郎は、そこで錠前を破りもせず、壁をすり抜けたように蔵の中のお宝を根こそぎ盗むという妖盗の跳梁を知ることになります。

 壁をすり抜けるといえば、どうしたって思い出すのは袋狢。果たして新次郎は、意外な場所で袋狢を見つけるのですが、事態はいよいよややこしい方向へ――


 と、例によって大騒動となってしまう本作なのですが、ストーリー、物語の構造自体はかなりシンプルであります。謎や秘密はほとんどなく(あってもすぐに解決して)、スルスルと物語は進んでいくのですが――しかしその分、一つ一つのシチュエーションが丁寧に描かれ、そして実に楽しい。

 元々本シリーズは、えらく個性的なキャラクターたちが、ページ狭しとドタバタ騒動をスラップスティックコメディなのですが、今回はギャグの質・量的に、過去最大級。
 時にベタな、時に落語チックなギャグの数々に加え、今回は「私闘学園」を思い出させる五七五ギャグなど、趣向を凝らしたネタも投入されているのが嬉しいのです。

 何よりもひっくり返ったのは、冒頭部分――本シリーズにおいては、毎回冒頭で重要キャラがいきなり死ぬというとんでもないお約束があるのですが、今回の犠牲者は…いや、それはおかしい。と突っ込みを入れずにはいられないとんでもない展開。
 しかもそれが物語の背景としてラスト近くまで機能して、クライマックスの大混戦に繋がっていくのですから、いやはや脱帽であります。


 巻を追うごとに右肩上がりにテンションが上がっていくこのシリーズ、肩の力を抜いて読める楽しい作品なのですが、油断していると突然すごいのが飛んできて噴く羽目になるという、恐ろしいシリーズでもあります。要注意。


「ちゃらぽこ フクロムジナ神出鬼没」(朝松健 光文社文庫) Amazon
ちゃらぽこ フクロムジナ神出鬼没 (光文社時代小説文庫)


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