「戦国武将列伝」2014年2月号 自衛隊と鬼と、二つの新連載
個人的に今一番楽しみにしている雑誌である「戦国武将列伝」の最新号は、森秀樹の「戦国自衛隊」と楠桂の「鬼切丸伝」が連載開始。どちらも楽しみな作品であります。というわけで、今回も気になる作品を取り上げていきましょう。
「戦国自衛隊」(森秀樹)
「半村良生誕80年記念」という冷静に考えればちょっと謎の企画として始まった本作(それであれば「産霊山秘録」でもいいのでは…よくないですね)は、今さら言うまでもない原作者の代表作の漫画化。いきなり土中に埋まった手が動き出すというショッキングなビジュアルに驚かされますが…
これまで幾度も漫画化・映像化された原作ですが、今回の主人公は原作同様、伊庭三尉。しかし物語の方は、「七人の侍」よろしく(作中にもそれをほのめかす台詞があるのが楽しい)、農民たちを助けて野武士たちと戦うことになります。
本作の舞台は天正10年(これが西暦何年になるか、歴史に詳しい隊員がいないのでわからないという厭なリアリティ)とのことですが、この年に何があったか、そしてそれが原作でいかなる意味を持ったか、わかる人にはわかるはず。
早くも原作とは異なる歴史を歩み始めたかに感じられる本作の行き着く先が気になります。
「政宗様と景綱くん」(重野なおき)
前回のラストで、景綱が政宗の命でその片目を抉ったことの波紋が描かれる今回。
可愛らしい絵柄にも関わらず、なかなかエグいシチュエーションですが、それを時に正面から、時にギャグに紛らわせて描きつつ、きちんとイイ話にしてみせるのは、さすがと言うべきでしょう。
少しずつ伊達家の面々も登場して、まったく問題なく楽しめる作品ではありますが、唯一最大の問題は、この分量で次回は二ヶ月先という点でしょうか…
「鬼切丸伝」(楠桂)
以前の読み切りに続き、今回から連載スタートとなった本作は、作者の代表作「鬼切丸」の時代劇バージョン。
冒頭から「その昔、日ノ本は人も妖怪も物の怪も神も共存していた。ただ、鬼だけが 鬼だけは 鬼どもは 残虐非道の、存在であった。」と印象的なナレーションが入り、本作における鬼の位置づけが早くも焼き付けられます。
今回は、信長の比叡山焼き討ちを舞台に、信長を襲った鬼たち(あれ、このキャラ数ページ前に…と思ったらそれが勘違いではなかった、という描写が面白い)と鬼切丸の対決という物語。
展開的にはあっさりめですが、容赦ない描写は健在で、鬼の存在と、それを斬る者の存在を描いた導入部として楽しました。
この先、信長を中心に物語を展開していくのか、はたまた様々な時と場所に移ろっていくのか…どちらであってもこの先も期待できそうです。
その他、荻野真「孔雀王 戦国転生」は、墨俣攻めを背景に、実は式神であった帰蝶を操る斎藤道三に迫ることに。
道三といえば美濃の蝮、その道三が、実は本当に蝮のように脱皮を繰り返して生き続けていたという設定付けはなかなかにうまい。
蛇といえば孔雀の宿敵、天蛇王を思い出してしまいますが…(懐かしい)
一方、長谷川哲也「セキガハラ」は、三成を追いつめた加藤清正と黒田長政の前に、家康が、そして新キャラの宇喜多秀家と大谷刑部が立ちふさがるという展開。
…が、シチュエーション的には面白いのにちょっと盛り上がらないのは、各キャラの能力が、その人物の人となり、逸話にあまり結びついていないからではありますまいか(確かに清正の虎は見事ですし、刑部の包帯は…ううん、どうかしら)。
最後に山口貴由「魔剣豪画劇」、今回登場する剣豪は、なんと桃太郎。
以前桃太郎を題材にしたこともある作者ではありますし、その生々しい画で浮かび上がる桃太郎の邪悪な姿もさすがと言うべきですが、やはりこの企画に登場すると違和感は否めないかな…とは感じます。
しかしある意味実に作者らしい予定調和を拒否したような展開ではあり、この先何が飛び出してくるかいよいよわからなくなってまったのは、これはこれで心憎い仕掛けでありましょうか。
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