「大江戸恐龍伝」第3巻 二人の源内、ニルヤカナヤの謎に迫る
全5巻の「大江戸恐龍伝」も、いよいよこの第3巻で折り返し地点。舞台は一旦江戸を離れ、平賀源内たちは龍が棲むという伝説の「ニルヤカナヤ」を目指して旅立つこととなります。
あたかも運命が導くように、次々と源内の前に現れる「龍」にまつわる事件――龍の化石、龍の掌と金塊、それをもたらした真田家の家臣の手記。
そしてニルヤカナヤからの帰還者――それも目蓋を切り取られ、瞳を露出させられた異様な姿の――が発見されたことにより、物語は大きく動き出すのであります。
実はこの男こそは、物語冒頭で遭難し、いずこかの島に流れ着いた船の乗組員。そしてその船に、船主である大商人の息子が乗っていたことから、源内はニルヤカナヤに向い、息子を連れ帰って欲しいと依頼された源内。
かくてスポンサーを得た源内は、自らの持てる知識を総動員し、西洋・日本・中国の造船技術を結集した三国船建造に取りかかるのであります。
そしてこの第3巻では、ついに完成した三国船「ゑれき丸」が出港。源内のほか、杉田玄白(!)や謎の男(その正体は時代小説ファンにはお馴染みの)伊奈吉らが乗り組み、まずは琉球を目指すことになるのですが…
実はこの第3巻の舞台のほとんどは、この琉球。
かつて真田家の家臣がここからニルヤカナヤを目指したという琉球で、その男が残した謎の遺物、その中でもそこに記された絵文字の謎が、ここで解き明かされることとなるのであります。
物語の大半を費やして描かれるこの謎解きは、第2巻の謎解きが暗号ミステリ的であったのに対して、完全に伝奇ミステリというべき印象。
そしてそこで解き明かされるのが、かの徐福渡来伝説なのですから、もうたまりません。
しかしこの巻でそれ以上に印象に残ったのは、琉球で源内が出会う自称・江戸学者の老人・牧志朝典のキャラクターであります。
かつて江戸に留学した琉球きっての知識人でありながらも、様々な不運により今は身を持ち崩し、村八分同然の扱いを受けている朝典。
かつては同じ謎に挑みながらも、辛い挫折を味わったこの老人の重い口を開かせるために語りかけた源内の言葉とは…
本作の源内は、溢れんばかりの才能と自信を持ち、その話術でもってぐいぐいと周囲を引っ張っていく人物として描かれますが、しかしそれと表裏一体の形で、彼の中にあるのは、周囲から自分の才能が真に理解されないという屈託と、このまま自分が埋もれていくのではないかという恐れであります。
その意味では朝典はもう一人の、そうであるかもしれない源内。いわば二人の源内の会話には、賢明に夢を追いながらも躓き、それでもなお立ち上がろうとする人間たちの、静かな輝きがあるように感じられるのです。
そしてついにニルヤカナヤに向かって出向した源内一行。いよいよ残すところはあと2巻、いよいよ龍がその姿を現すはずですが…さて!
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