「黒鷺死体宅配便スピンオフ 松岡國男妖怪退治」第4巻 とんでもないゲストのとんでもないインパクト
作中の年代も進み、松岡國男も田山花袋も、後世にその名を残す本業(?)の方に力を注ぎつつある時期ではありますが、それでも変わらず怪事件を追い続ける「松岡國男妖怪退治」の第4巻であります。
今回収録されているのは二つの中編、「耳たぶの話」と「小さき者の声」。
「耳たぶの話」の方は、耳たぶを切り取った他殺体が次々と見つかるという猟奇事件を森鴎外の依頼で調査することとなった松岡らが、長野で遭遇した怪事件を描く一幕。
現場に現場に落ちていた耳栓が、かの地で見つかるものとよく似ていたことから調査に向かった一行ですが、そこにあったのは、かつて坂上田村麻呂に滅ぼされたという八面大王の伝説で…
という、伝説+猟奇事件という構成はシリーズの基本に戻ったような展開ですが、そこに松岡のある過去にまつわる要素が絡んでくるのはなかなか面白い。
本筋の方も、珍しく(?)筋の通った推理が、とんでもないオカルトネタでひっくり返されるのが(オチのためのオチのような印象もありますが)愉快であります。
それにしても、冷静に題材や内容を見てみると、一連の原作者の昭和伝奇もの的なのですが、それがここまで印象が変わってしまうというのが興味深いところです。
一方、「小さき者の声」は、東京を舞台に帝国女優養成所(秋葉原にあるのはご愛敬)の女生徒を狙う奇怪な暴漢と、それとともに現れる不気味な小人たちの跳梁を描く物語。
暴漢を捕らえてみればその時のことを全く憶えていないという異常な状況ながら、やたら顔の広い兄で天神真楊流柔術の達人・井上通泰に引っ張り出されて…という形で事件に絡む松岡たちの姿も面白いのですが、やはり最も印象に残るのは、今回のスペシャルゲストでありましょう。
松岡が事件を追う中に現れた謎の英国人、その正体は、いやそのキャラクターは…わはは、こりゃひどい、と思わず褒め言葉も出てしまいそうなとんでもなさ。
この人物のあまりのキャラクターのおかげで物語そのもののインパクトが薄れた感がありますが、キャラものとして見れば、そのインパクトだけでOKを出したくなるところです。
…と、今までは(特に初期は)キャラ立てや題材の派手さ、奇妙さばかりが印象に残っていたのですが、この巻では方向性自体は変わらぬものの、そうした印象はだいぶ薄く感じられたのがなかなか興味深い。
要するに慣れたということなのかもしれませんが、やはり数少ないオンゴーイングの大塚伝奇漫画として、その奇想は得がたいものがある、ということでしょうか。
さて、この巻のラストでは松岡の代表作というべきあの著書が登場。これまでもその原型が題材にされてはいますが、おそらくはこの先、物語の題材とされることがあるでしょう。こちらも楽しみなところであります。
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