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2014.02.20

「信長のシェフ」第9巻 三方ヶ原に出す料理は

 ドラマ版第二弾の製作も発表され、まだまだ快調の「信長のシェフ」…と言いつつ、前の巻から信玄のシェフ状態のケン。さらに信玄の軍勢は西に向かい。迎え撃つ徳川とあの場所で対峙することに…

 信長快進撃の隠れた立役者として目を付けられ、信玄から暗殺指令が出されたケン。得意の料理で何とか命を繋いだものの、今度は甲斐に連れ去られ、逆に信玄のために料理を作ることになります。
 それを知った信長からは餞別にと包丁を贈られ、そして一緒にさらわれてきた夏は勝頼に気に入られ、夜伽を命じられることに――

 と、地味に(?)大変な事件が続くケンですが、信長からの包丁にある決意を抱き、信玄、そして勝頼と対峙。夏と自分自身の活路を見出すのですが…しかしまだまだケンと信玄の因縁は続きます。
 自らの死期が近いと知った信玄は信長を倒しての入京を決意、その途上にあるのは家康の浜松城。そう、ここで物語は家康の生涯に残る合戦である三方ヶ原の戦に突入する事となります。

 この時、家康のもとに身を寄せていたケンは、果たして記憶が戻ってきた結果か、はたまた有名な合戦として知識があったか、この戦いの結果を知っているのですが――しかし、それを周囲に語るわけにはいきません。
 唯一歴史の流れを知る主人公が、それ故に様々な葛藤を抱き、そしてその流れの中で自分自身の存在の意味に悩むというのは、タイムトラベルものの定番でありますが、この巻でのケンは――武田家にいた時の葛藤も含めて――まさにそれ。

 家康が大敗することが知っている、自分の周囲にいる人々の多くが命を落とすこともわかっている。そんな中で何ができるのか? 自分自身の運命もわからというのに…
 しかしそんな中で自分にできることをするのがケンの戦い。果たして彼が家康に出した料理とは?


 …実は本作は、大まじめに見えて時々とんでもない変化球が飛び出してくるのですが、ここでは久々にそれが炸裂。
 まさか、三方ヶ原での家康の、あの不名誉極まりない逸話に(言い訳として)登場するあの素材が、こんな形で使われるとは――!
 戦国ファンが見れば爆笑すること必至の展開なのですが、しかしそこからきっちりイイ話に繋がっていくのがまた本作らしいところ。変格の料理ものとしての面白さはもちろんですが、歴史ものとして見ても本作の逸話等の消化の仕方は実に面白いのであります。

 歴史ものとしてと言えば、武田側も徳川側も新キャラが多かったこの辺りのエピソードですが、なかなか味のある人物造形のキャラが少なくなかったのも印象的。
 特にあっけらかんと物騒なことを口走る徳川勢は、ああなるほど…と思わされる描写で、この辺りも歴史ものとしての本作の魅力の一端でありましょう。


 閑話休題、巨星が墜ち、そしてケンも帰ってきていよいよ始まるであろう信長の快進撃。今回の冒険を経験したケンが、いかに信長を支えていくのか…この先、事件も出来事も多いだけに、楽しみは尽きません。


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