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2014.03.05

「表御番医師診療禄 3 解毒」 権力に潜む毒に挑め

 将軍綱吉の昼餉を毒味した小納戸役の旗本が腹痛を起こし、後日死を遂げた。この一件に危険性を感じ取った大目付・松平対馬守は、表御番医師・矢切良衛に、この件が毒によるものか探索を命じる。探索を始めた途端に襲撃を受けた良衛。果たしてこの事件の背後にあるものとは…

 江戸場内の勤務医とも言うべき表御番医師・矢切良衛が権力の病巣に切り込むシリーズの第三弾であります。

 御家人の出身ながら南蛮医術を修め、幕府の表御番医師を勤める良衛。堀田筑前守正俊が江戸城中で斬殺された際の治療に疑念を抱いたことをきっかけに、幕府内の権力闘争の闇に踏み込むこととなった彼は、老獪な大目付・松平対馬守、さらに綱吉の寵臣・柳沢吉保の命を受けて、医師ならではの形で――しかし半ば脅されたような形で――その闇に挑むことになります。

 そして今回の題材は、サブタイトルにもあるように「毒」。将軍の毒味役を務める小納戸役が、毒味の後に体調を崩し、その後変死した事件の謎を調査することになるのですが――
 実質は閑職である大目付の対馬守に見込まれ(脅され)て探索役を務めることになったとはいえ、あくまでも良衛は医師。権限――一種の官僚制である幕府内においては、これが何よりも重要なのは、上田作品の読者であればよくご存じでしょう――もなければ、術もない。

 そんな状況で冷たい上司(権力者)から無理難題を押し付けられる良衛は、これまた上田作品の定番の主人公像で、この辺りが日頃同様の目に遭わされている読者の共感を呼ぶのかな、と感じますがそれはさておき…
 しかしそんな状況でも、医師としての己の知識と能力をフル回転させて、なんとか難局を切り抜けるのが本シリーズの最大の魅力でありましょう。
 本作においても、死んだ旗本の周囲の者から聞き出した内容から、彼になにが起こったのかを推理、いや「診断」してみせるのは、まさに良衛の面目躍如たるものがあります。

 しかしもちろん、権力の病巣を探るのは危険がつきもの。本作においても幾度となく良衛は襲撃を受ける(その刺客の一人のキャラクターが何とも味があって面白い)のですが…そこで生きるのが、彼のもう一つの技たる超実戦剣術であります。
 医師の常として脇差ししか持てぬものの、彼には戦場往来の先祖伝来の剣術に加え、人体の仕組みを熟知した者ならではの知識を以て、彼は強敵に対処していくのです。

 この辺りのその説得力に満ちた描写にはただ感心するばかりであり、主人公が医師である点を見事に生かした剣戟描写もまた、本作ならではの魅力と言うほかありますまい。


 事件の傍ら、良衛の周囲で話題となる宇無加布留(ウニコール。最高の解毒薬と噂される一角獣の角)が意外で皮肉な形で生きる展開も面白く、まずは安定した面白さの本作。大きな物語の流れはもちろん続くものの、本作の物語は本作できっちり片が付くのも私好みで、脂の乗り切った作者の技を堪能させていただきました。


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