「十 忍法魔界転生」第4巻 贅沢すぎる前哨戦、老達人vs転生衆!
敵の編成が終わり、主人公も登場していよいよ物語も本番の「十 忍法魔界転生」の最新巻であります。ついに柳生十兵衛と転生衆が相見える――前に繰り広げられる死闘。果たしてその相手は?
…藩主・徳川頼宣の命で紀州城に向かった三人娘。しかしそこで彼女たちを待っていたのは、屈辱的な側妾選びでありました。
一方、彼女たちの身を、そして頼宣につきまとう怪しい影をことを案じて城内の秘密の地下室に潜入した彼女たちの父や祖父が見たものは、この世のものとは思えぬ地の底の地獄。
もはやここにはおれぬ、とばかりに城を脱出した六人が向かう先は、そう、柳生庄の十兵衛の許――
ここでこの巻に収録された回のサブタイトルを見れば「黄泉坂」。神話において、黄泉国から逃げたイザナギノミコトが、鬼たちに追われ、そのたびに様々な呪具を残して逃れた道であります。
本作において誰が逃げる側で、誰が追う鬼かは言うまでもありませんが、それでは残るのはと言えば…
ここで大変に失礼かつ身も蓋もないことを言ってしまえば、ここで展開するのは、かませ犬を相手にした、敵の強さアピールであります。
しかしそれが見事に緊迫感に溢れた、そして読み応えあるものとなっているのは、追いつ追われつの逃走劇の中というシチュエーションの妙はもちろんのことではありますが、残って戦いを挑む者たちもまた、達人たちであるからにほかなりません。
その名は木村助九郎、関口柔心、田宮平兵衛――それぞれ柳生石舟斎の高弟、関口流柔術の祖、田宮流抜刀術の祖と、転生衆の面々には一歩譲るかもしれませんが、しかし剣術ファン、武術ファンにとっては垂涎の顔ぶれであることは間違いありません。
実にこの巻のメインは、彼ら三人の、それぞれの戦いぶりにあると言ってもよいでしょう。特に関口柔心の戦いぶりは、槍対柔というマッチメイクの面白さに加え、その一進一退の内容と結末、そしてそれを描ききったせがわまさきの画が相まって、「本戦」と言ってもよいのではないかとすら感じさせるものであります。
しかしもちろん、本当のクライマックスはこの後にあります。ようやく辿り着いた娘たちを迎えた十兵衛が殺気を感じる描写の凄まじさに打たれ、そしてその前におぼろおぼろと現れる転生衆たちの妖気たるや…
いやはや、時代劇史上に残る名場面を、こうして見事なビジュアルで見ることができるとは、幸せとしか言いようがありません。
…が、やはりどうしてもひっかかるのは転生衆たちの――というよりはその中の約二名のビジュアル。
ここまで見事に原作を再現できるのであれば、転生衆たちももう少し原作の(転生前の)姿を残しつつデザインできたのではないかと思うのですが、どうしてもやりすぎ感が先立ち、作品から浮いて見えてしまうのが残念であります。
とくにおさげルーズソックス坊主と、四本おさげのお爺さん!
さらに言えばクララお品周りのコミカルな描写も唐突な印象があるのですが、これはまあこの先を考えてと言うべきでしょうか…
などと、煩いファンがあれこれ言っていますが、しかしそれもそう言うに足る作品であるからこそ。
まだまだ真の開戦まで気を持たせられますが、それも楽しみな時間ではあります。
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コメント
漫画版入手して読んでみましたが、何故にピアスと思いましたね。あの時代南蛮人もやってない格好だからなぁ。特に同時期転生の二人組! やはり、今一度の性に対する執着度合いからはっちゃけ過ぎたことを示しているのかもしれません。さて、戦いでもどれだけはっちゃけてくれるか? が楽しみです。まあ、石川版のもはや怪物とは別のおもしろさを期待したいですね。
投稿: almanos | 2014.03.30 12:36
almanos様:
いやあ本当にあの格好にはツッコミを入れざるを得ませんが、あれが彼らの内心の欲望だったのかもしれませんね…(どんなですか
投稿: 三田主水 | 2014.04.12 22:40