「お江戸ねこぱんち」第九号(その一) 約半年ぶりの賑やかさ
前号から約半年の間が空いたものの、「お江戸ねこぱんち」も気がつけばもう第9号。二ケタの大台まであとわずかであります。この号では巻頭に企画漫画が掲載され、新連載も複数と、久々なだけになかなか賑やかな号となっています。以下、気になった作品を取り上げていきましょう。
「猫侍」(山野りんりん)
北村一輝主演で昨年秋からTVドラマ版が放送され、今度は映画も公開の時代劇「猫侍」の漫画版であります。
かつて加賀の百人斬りとして恐れられ、今はしがない浪人の斑目久太郎が、ふとしたことから白猫と暮らすようになり…という作品ですが、この漫画版では、この一人と一匹の出会いをオリジナル展開で描いています。
恋人に取り憑いた化け猫を斬って欲しいという娘の依頼に応えた久太郎が、ついついその猫に情が移って…という展開ですが、猫に話しかける男にドン引きしながら、気付けば自分も猫に話しかけている久太郎の姿が微笑ましい。あのテーマソングも流れたのが嬉しいところであります。
…が、「小説」「物書き」という言葉が普通に出てきたのはいかがなものか。確かに原作も時代考証は緩めではありますが…
「外伝 猫絵十兵衛御伽草紙 砂絵猫の巻」(永尾まる)
毎度お馴染み、「猫絵十兵衛御伽草紙」の外伝であります。本編とは少々異なった切り口で描かれるこの外伝シリーズ、今回はこれまでもしばしば登場している、十兵衛の子供時代のエピソードです。
十兵衛と、駆け出し時代の十玄師匠が、猫を連れた砂絵師と出会って…という今回。物語的には非常にシンプルなのですが、大道芸としての砂絵や、背景となる江戸時代の花見風景といった、文化風俗の描写が楽しい作品でした。
ただ、やっぱりシンプルな内容という印象は否めないのですが…
「猫暦」(ねこしみず美濃)
「猫絵十兵衛」と並び、間違いなく本誌の看板漫画である本作。江戸の司天台を舞台に、天文学者を夢見る少女・おえいと、彼女を嫁に迎えるという猫又・ヤツメを中心に描かれるドラマが毎回大いに読ませるのですが…今回はこれまででも屈指の内容ではありますまいか。
今回は改暦の役目を司天台に奪われたと逆恨みした土御門家江戸役所の男が登場、嫌がらせにしては少々度が過ぎるような悪だくみを巡らせるのですが…と、そこに絡んでくるのが、その土御門家の男が呼び出した猫の式神。
はじめは、土御門→陰陽道→式神という流れはあまり本作らしくない「わかりやすい」流れだな、と感じたのですが(もっとも、その男は本人が式神を呼び出したことを気付いていないのですが)、その式神を陰陽道=古きヒトと天の関わりの象徴として描く視点に感服いたしました。
正直に言って、これまでの展開では司天台側にドラマの力点が行くと、ヤツメの存在が浮きがちだったのですが、式神との絡みでその点も解消され、さらにヤツメの力によるおえいの(大人になった姿への)変身も、物語のクライマックスできっちり生きているのが嬉しい。
本作を構成する要素がすべてきっちりとかみ合った内容で、まず間違いなく、今号のベスト作品ではありますまいか。
まだまだ面白い作品がありますので、次回に続きます。
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