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2014.03.16

「鬼舞 見習い陰陽師と漆黒の夜」 決着!? 炎の都に広がる闇

 先月は「ばけもの好む中将」第2弾や漫画版「鬼舞」の刊行と勢いに乗る瀬川貴次ですが、その大本命である「鬼舞」呪天編の最終巻「鬼舞 見習い陰陽師と漆黒の夜」がついに刊行されました。怨念の鬼・呪天の陰謀が進行する中、ついに主人公・道冬に眠る力の謎が明かされることに…

 これまで様々な形で都を騒がせた鬼たち――彼らを作り出し、操るのは、藤原氏との権力闘争に敗れた大伴氏の怨念を受け継ぐ美少年(?)・呪天でありました。
 藤原氏から権力を奪う手段の一つとして、鬼の一人である初雁の御息所が養育する火の宮を入内させんとする呪天は、犬蠱を喰らって鬼と化したスズメバチたちを操り、都にさらなる擾乱を巻き起こそうと企みます。

 そして、その正体を知らずに近寄ってきた道冬の中に謎の「漆黒」を見た呪天は、彼を仲間に引き入れようとするのですが…

 そんな展開を受けての今回は、クライマックスにふさわしい派手なアクションとカタストロフィのつるべ打ち、といった印象であります。
 応天門に巨大な巣を作り、人々を襲い喰らうスズメバチの群れによって大混乱となる都。恐るべき蟲たちから都を救うべく奮闘する陰陽師たち。その中を一路駆け抜ける牛車「内藤二阡」(再登場!)。そしてラストには、あまりにも巨大かつ強大な怨念が――

 そしてその果てに待つのは、シリーズの冒頭から折に触れて登場してきた、道冬の中に眠る「漆黒」のあまりにも意外な正体と、道冬との関係であります。
 いやはや、こういう形でこの存在が使われたことは、今までほとんどなかったのではありますまいか。この作者ならではの、意外な切り口であると申せましょう。

 そしてまた、瀬川ファンにはたまらないのが、安倍晴明に関するある描写。巨大な闇を抱えた友人を救おうとする自分の息子に対して彼が見せた反応は…と、決してはっきりとではないのですが、これはあれだ、あれに違いない! と大いにテンションが上がってしまう、何とも心憎い描写なのであります。


 そんな盛りだくさんの本作ですが、あとがきによれば相当の難産であったとのこと。正直に申し上げて全くそんな印象はなかったのですが、物語に一つの区切りを付けるというのは、それだけのエネルギーを必要とするということなのでしょう。

 そして、区切りがついたといっても、まだまだシリーズは続くとのことで一安心。
 一つの謎が解け、さらなる巨大な謎が生まれた今――贅沢かつ我が儘は承知の上で、少しでも早いシリーズ再開を期待しているところです。


 なお、本書の巻末には、道冬の父である芦屋道満が登場する短編を収録。本編と設定を共有する作品ではありますが、内容的には完全に独立したホラーであり、これはありがたいボーナストラックというべきでありましょう。


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