「お江戸ねこぱんち」第九号(その二) 次号が待ち遠しい内容の作品群
「お江戸ねこぱんち」第9号掲載作品の中から、気になった作品の紹介の続きであります。
「今宵は猫月夜」(須田翔子)
普通の人間が見ればただの猫、しかしあやかしに対しては正真正銘の猫侍に変化する月之進の活躍を描くシリーズであります。
これまではあやかしや悪人と戦ってきた月之進ですが、今回は、娘を亡くした女性が心の支えにしていた子猫が行方不明になったのを探すというお話で、普通の(?)人情話としてもそれなりに面白いのですが、しかしそれだけではありません。
しかし、今回彼の前に現れるのは、火車丸を名乗る謎の男(?)。自分にどこか似た存在、そして自分を手伝ってくれるという火車丸の登場に喜ぶ月之進ですが…
妖怪好きの方であれば、火車丸が何者であるかはすぐに気付くかと思いますが、なるほど、クライマックスでの彼の月之進に対する言葉は、その設定を踏まえれば納得。それに対して、月之進の正体もまだまだ謎が多く、いよいよシリーズとしての面白さが出てきたという印象です。
「忍者しょぼにゃん」(きっか)
何だか情けなくて可哀想なんだけどそれが可愛い猫、しょぼにゃんが主人公の四コマ漫画の番外編。
今回は何と忍者たちのトーナメントバトルなのですが…本編の第二シリーズ「もっと!しょぼにゃん」から登場して主役を喰う活躍を見せる残念っぷりを見せるロック少女のマヤがこちらでは初参戦(のはず)。
チームメンバーに鎌夜叉と名付けた単なるカマキリがいたりして(オチも予想通り)、こっちでも期待通りの残念っぷりでありました。
「仙猫トラキチ」(桐丸ゆい)
不思議な猫トラキチによって江戸時代に飛ばされた女子高生・美々が、江戸ライフを経験しつつ、現代に帰るべくトラキチを探す作品の連載第3回。今回はそのトラキチの飼い主が登場するのですが…
それがなんと平田篤胤! あの、独自の立場からの国学研究や、仙界に関する研究で知られる人物ですが、なぜここで…と一瞬思ってしまいましたが、トラキチという名前を見て納得。
というより、主人公が江戸では仙女と呼ばれているのと合わせて、もっと早く登場を予想するべきだったと歯噛みした次第です。
ちなみにこの篤胤、実は××という設定で、この辺りの展開にも驚かされたところです。
「猫の爪弾」(結城のぞみ)
今回から新連載、長屋に住む常磐津の師匠・文字春を主人公にした人情もので、もののけが出るわけでも猫が喋るわけてないのですが、なかなか面白い作品です。
同じ長屋に住むばくち狂いの父親に飼い猫を売り飛ばされそうになった少女を見るに見かねて一肌脱ぎ、その猫を預かることになった文字春(しかし三味線が商売道具なので猫に嫌われるというのはちょっと楽しい)。
三味線の才能があった少女に教えながら楽しい時間を過ごすも、今度は父親が娘を売ると――
と、お話的にはさまで珍しいものではありませんが、冒頭にちらっと登場して文字春に追い払われた男の正体が生きるクライマックスの展開が楽しく、なかなかによくできた作品という印象です。
というわけで久々の「お江戸ねこぱんち」ですが、いつもであれば印象に残る作品が3、4作のところ、今回は倍近くあったのが実に嬉しい。
次の号は五月とそれほど遠くないのですが、あまり待たずにすむのがまことにありがたいと感じられる内容の一冊でありました。
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