「いくさの子 織田三郎信長伝」第5巻 意外なヒロインと伝説の宝と
織田信長の少年時代を豪快に描く原哲夫流歴史活劇「いくさの子 織田三郎信長伝」の最新巻、第5巻であります。この巻では前の巻に引き続き、父・信秀の死後、師や腹心の仲間たちとともに海に乗り出した信長の姿が描かれることとなりますが、そこに意外な展開が待ち受けているのであります。
乱れに乱れた織田家を立て直し、今川義元の脅威から尾張を守るべく、うつけを装って時間を稼ぎつつ、力を蓄える信長。
前の巻では、そんな彼と仲間たちが難破した南蛮船を手に入れ、量産を開始した火縄銃の試射と称して大海原に乗り出すことになりましたが、この巻も舞台のほとんどは海の上となります。
行きがかりで海賊を退治して助け出した船に乗っていたのは、豪商・生駒家の娘であり、信長とは幼なじみの類(とその兄)。幼い頃から頭の上がらない類に対して信長は一計を案じて…
と、この巻の前半で描かれるのは、本作の隠し味ともいえる信長の茶目っ気がもたらすコミカルな展開。バイオレンスフルな主人公の行動に、周囲の人間、特に対立する相手がわたわたして――というのは原作品にはしばしば見られる展開ですが、今回は類の兄のリアクションも楽しく、ほっと一息というところでしょうか。
(ちなみにこの兄、単なるヘタレのコメディリリーフかと思いきや、後半グッと骨っぽいところを見せてくれるのもいい)
そしてそこから続いて描かれるのは、類と信長の絆であり、そして信長の秘められた力の存在。
実は信長には、幼い頃から他者の本質が、ビジュアル化された形で見える力が、というのは、いささか便利すぎる(もっとも、一歩間違えれば「人間嫌い」になりかねないのですが…)ものとして感じられてしまうのですが、そこから類が信長にとって特別な意味を持つ存在であることが描かれていくのは、さすがの業前と言うべきでしょうか。
前の巻の感想でも少し触れましたが、この類は実在の人物(とされている人物)であり、かつ信長の生涯においてそれなりの意味を持つ人物。
これまで信長もののヒロインとしては、濃姫が登場することがほとんどで、類が登場する作品は極めて少なかった…という印象があります。
そんな女性をヒロインに選んでみせた本作の独自性は大いに好もしいところですが、読者にとって馴染みのない彼女のキャラ付けをこう描いてみせるか、と感心させられたところです。
と、キャラ方面の掘り下げがなされている一方で、ストーリーの方は思わぬ方向に展開していくことになります。
類たちがもたらしたある情報――それは、あの今川義元が、南蛮の海賊からある品物を手に入れようとしている、というもの。
それが義元の手に入れば、義元の優位は揺るがぬものとなる…それを知った信長たちは、その品を横取りするべく、海賊との対決を決意するのであります。
この辺り、いきなり伝奇度が高くなって驚かされるところですが、考えてみれば信長と義元が直接対決を行うのはたった一度。
これは、そこに至るまでの代理戦争だと思うべきかもしれませんし――そしてそれが本番よりも派手なものになるであろうことは間違いありません。
信長軍対南蛮海賊、まったく先のわからない戦いの幕開けも目前であります。
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