「剣と旗と城 剣の巻」 戦国乱世に己の道を求めて
応仁の乱以降荒れ果てた天下。黄金五枚で雇われては戦場働きする眉間景四郎は、焼け落ちた城から逃げる途中、同輩の等々力権十郎から、城の姫を助ける。それをきっかけとするように、忍者、女剣士、孤児、謎の貴人…様々な人々が彼の周囲に現れる。それぞれの大望を秘めて行動する者たちの運命は…
柴田錬三郎が室町時代後期の混乱の時代を舞台に描く、全三巻の大作の、その第一巻であります。
非常に大まかに言ってしまえば、柴錬の時代小説には、江戸時代を舞台に虚無的なヒーローが活躍する作品群と並び、戦国乱世を舞台に己の道に迷う人々のドラマを描く作品群がありますが、本作はその後者に属する作品であり、特に群像劇の色濃い作品です。
とにかく様々な登場人物が次々と登場し、目まぐるしく出会いと別れを繰り返す本作のあらすじを紹介するのはなかなか難しいのですが、最も物語の中心にいると思われる人物が、傭兵牢人ともいうべき眉間景四郎であります。
この時代に特段の望みも夢も持たず、一回黄金五枚で雇われては、ただ野性の剣を振るう景四郎。本作は、彼が出会った人々から連鎖的にドラマが広がり、また絡み合うという形で展開していきます。
その物語の中で彼が出会う人物、さらに彼と出会った者たちが出会う人物を挙げれば…
女と酒と闘争をこよなく愛する豪傑牢人・等々力権十郎。山中に隠棲するやんごとなき生まれらしい青年・小松重成。凄腕ながらお人好しで恐妻家の忍者・猿兵衛。武将を夢見る孤児の少年・銀太郎。さる秘命を胸に雲水姿で旅する女剣士・音羽。知勇に優れたながらも静かな佇まいを崩さぬ謎の男・風の旅人――
さらに平家の落人集落・手鞠の里、楠木正成の流れを汲む忍騎隊(隠密騎馬隊)・菊水党、不死皇天宗なる宗派を立てて天下を狙う怪僧・登天坊飛雲と軍師の鎌谷月心斎などなど、そこに様々な勢力が絡んで、物語はわずかな先の展開もわからないまま、二転三転しつつ続いていくのですが…
言うまでもなく、これがまた抜群に面白い。
ただ自分の腕、すなわち「剣」を頼りに、自分なりの夢や大義名分、すなわち「旗」を奉じ、そして自分の権力の基盤、すなわち「城」を打ち立てようとする人々の群れが生み出す熱気は、まさにこの、全ての権威が意味を持たなくなった時代ならではのものでありましょう。
おそらくはこの先物語は、景四郎・権十郎・重成――それぞれ異なる背景を背負った男たちが、この乱世でそれぞれの剣と旗と城を求めていくことになるのだと思いますが…
さて、それだけが本当に人間の生きるべき道なのか、というのは柴錬の戦国乱世もの読者であればよくご存じなはず。
その点も含めて、この一大ドラマがどこに向かうのか、確かめたいと思います。
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