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2014.05.20

「煉獄に笑う」第1巻 三百年前の戦いに集う者たち

 時は天正、羽柴秀吉に仕える石田佐吉は、主の命で、「髑髏鬼灯」なる謎の存在を求めて近江は曇神社に向かう。そこで彼を待っていたのは、近隣の住人から疎まれる双子の男女――曇芭恋と阿国だった。主命を果たすため二人に接近する佐吉だが、奔放な二人に翻弄された末、国友衆と対峙する羽目に…

 いよいよキャストも発表され…というのは昨日も書きましたが、アニメ化されていま大いに勢いづいている「曇天に笑う」、明治時代を舞台とするその本編から実に300年を遡り、天正時代を舞台とした前日談が、本作「煉獄に笑う」であります。

 前日談にしても300年とは遡りすぎのようですが、本編読者であればその理由はすぐにおわかりでしょう。
 人類の敵たる呪大蛇――曇神社の一族をはじめとする者たちと戦い続けてきたこの怪物は、封印されても300年に一度復活する存在。すなわち本作は、本編の一つ前の戦い――本編終盤でその結果の一部がさらりと触れられた、その戦いを描いた物語なのであります。

 それだけでも本編ファンとしては大いに気になる作品であることは言うまでもありませんが、さらに興味深いのは、本作においては主人公が曇一族ではなく――それも歴史上の有名人である(とこの第1巻の時点では思われる)ことでしょう。
(ちなみに、本作からさらに300年前を描いた「泡沫に笑う」でも曇一族は主役ではなかったので、これが初めてというわけではないのですが)

 そう、本作の主人公は石田佐吉――すなわち、石田三成。以前に比べると、遥かにフィクションの扱いが良くなった人物ですが、それでもこうした伝奇活劇の主人公は珍しい…と思いましたが、なるほど、後年、彼がどこに城を構えたかを考えればニヤリとさせられます。

 閑話休題、主人公が三成である一方で、曇一族はといえば、これが一種のトリックスター的な存在。忌み嫌われる双子として生まれてきたことで、周囲からは差別と嫌悪の対象となっているというヘビーな設定でありますが、これはもちろん、300年後に彼らの子孫が地元の人々の敬愛の対象となっているのと対をなすものでありましょう。

 それはともかく、彼ら兄妹は、そんな周囲の目に屈することなく――いや、それどころか率先して事態をかき乱し、周囲に争いと混乱をばらまく存在なのが面白い。
 カタブツの佐吉(これはある意味定番の、期待通りの設定)は、マイペースかつ邪悪な彼らに散々に振り回されるのですが…しかし、彼のクソ真面目さが、逆に兄妹を振り回すのがまた楽しいのであります。
 主人公を実在の有名人としたことで、他のキャラクター――もちろんその筆頭が曇兄妹ですが――が目立たなくなるのでは、と始まった時は心配しましたが、どうやらそれは杞憂のようであります。


 さて、そんな彼らが暴れ回る物語の方は、まだまだ序盤、これからどこに転がっていくことになるのか、全くわからない状態ではあります。
 しかし秀吉の命で佐吉が求める――そして他の者たちも探し求める謎の存在、オロチと何らかの関係を持つという「髑髏鬼灯」(この伝奇感溢れるネーミングがたまらない!)が、全ての鍵を握ることは間違いありますまい。

 何よりも第一話ラスト、天空を一筋の帚星が横切り、続くページではこれから登場するであろうキャラクターたちがシルエットで立ち並んだシーンは、もう理屈抜きで最高に格好良く――本作がこれから描くであろう胸躍る物語を期待させて止まないのであります。


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