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2014.05.18

「猫絵十兵衛御伽草紙」第9巻 女性たちの活躍と猫たちの魅力と

 「ねこぱんち」「お江戸ねこぱんち」誌の看板漫画の一つ、「猫絵十兵衛御伽草紙」も、気づけば二桁の大台も目前の第9巻。久々の単行本のような気もいたしますが、ページを捲れば、変わらぬ楽しくも暖かく、どこか懐かしい世界はもちろん健在であります。

 この巻に収録されているのは、「石猫」「味見猫」「麓猫」「仔猫の花見」「菖蒲猫」「猫の仲」「牽牛猫星」「しゃぼん玉猫」と、いつもより少し多めの全8話。
 今回もお江戸を舞台に(時に江戸を飛び出すこともありますが)、猫絵師の十兵衛と相棒の元・猫仙人のニタを狂言回しとした、人間と猫にまつわるエピソード揃いであります。

 そんなこの巻の表紙は――一瞬、おや、新キャラかい? と失礼ながら感じてしまいましたが――サブレギュラーの女性木彫り師・信夫さん。
 女性キャラが表紙を飾ったのはこの巻が初めてとのことですが、それが象徴しているように――というのはいささか牽強付会ですが、この巻は女性が印象に残るエピソードが多いように思われます。

 教え子の家を飛び出した猫又を追って旅に出た西浦さんが山中で出会った女性ばかりの館の怪を描く「麓猫」、見世物小屋の大女力持ち太夫(これはまた本当に珍しい題材…)三姉妹と十兵衛ら江戸の人々との触れあいを描いた「牽牛猫星」「しゃぼん玉猫」…

 そしてその中でも特に強く印象に残るのは、表紙の信夫が活躍する巻頭の――記念すべき単行本での第50話である――「石猫」でありましょう。
 とある火事以降、江戸の町から次々と何者かによって盗まれる狛犬や狛狐。偶然「犯人」を見かけ、後を追った十兵衛と信夫が見たものは――

 という本作、狛猫なる珍しい風物に、不思議な猫の精が絡み、そこに信夫の優しさと十兵衛&ニタのお節介が加わって、そこに不可思議だけれども、暖かく美しい世界が生まれる…という、実に本作らしい一編であります。
 しかし何よりも心を打つのは、本作に登場する猫の精の描写でありましょう。
 この世のものならぬ存在でありつつも、その姿は――その形のみならず、作中で見せる表情や仕草は――まさしく「生きた」猫そのもの。そんな猫が、信夫の丹精込めた贈り物に対して見せる表情こそは、このエピソード最大の見所であり、泣かせどころでありましょう。

 これは毎回述べているような気がいたしますが、本作に登場する猫たちは、それが普通の猫であれ猫又であれ、それ以外のこの世のものならざる猫であれ、皆それぞれに、実に生き生きと魅力的に映ります。
 これは間違いなく、日頃から猫を愛し、親しんできた――その辺りは、先日発売されたエッセイ漫画「続ねこかぶりん」からも明らかですが――作者ならではのもの、と言うべきでしょう。
(だからこそ、不思議な要素のないエピソードもまた、同様に魅力的に感じられるのであります)

 キャラクターや物語、あるいは江戸の風物や文化といった題材の面白さはもちろんのこと、やはり本作の魅力は、その猫描写がその根っこにあるからこそ…と、毎度のことながら、再確認した次第なのです。


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