「慚愧の赤鬼 修法師百夜まじない帖」 付喪神が描く異形の人情譚
北からやって来た盲目の美少女修法師・百夜が、付喪神にまつわる数々の怪異に挑む「修法師百夜まじない帖」の続編が刊行されました。前作「冬の蝶」同様、今回もweb連載された作品6編+書き下ろし2編の、全8編から成る短編集となっております。
先日第3弾「丑寅の鬼」が刊行された「ゴミソの鐵次」シリーズで活躍している鐵次の妹弟子である百夜は、盲目ながらもあたかもものが見えるように振るまい、仕込み杖を手に侍言葉を喋るという一風変わった主人公。
実は彼女は自分の身に侍の亡霊を憑けることで、視覚と江戸言葉を身につけているのですが、見かけは美少女にもかかわらず、このギャップが実にユニークなヒロインであります。
彼女が江戸に出てきた真の目的については、上で触れた「丑寅の鬼」で語られましたが、本作の彼女は相変わらずの(?)修法師稼業、今回も頼りない商家の手代・佐吉をお供に、物の怪――付喪神調伏に奔走する姿が描かれます。
本作に収録されているのは――
骨董集めが趣味の商人を襲う伐叉羅神将の怪を描く書き下ろし「神将の怒り」
どこからともなく現れて商人を襲う大蝦蟇のような怪物の意外な正体「春な忘れそ」
卒中で倒れ、意識を失ったままの男が感じる心地よい風の謎「薫風」
女中部屋でどこからともなく響く悲鳴と奇怪な人影に挑む「あかしの蝋燭」
祝言を間近に控えた大工の前にどこからともなく現れる蜻蛉の正体を追う「勝虫」
調子に乗りすぎて百夜に一喝された佐吉を襲う奇怪な紅い烏との対決を描く書き下ろし「紅い烏」
武蔵野の酒蔵に夜な夜な現れる巨大な赤鬼の意外な正体と、そこに込められた切ない想いを描く表題作「慚愧の赤鬼」
夜毎山鹿流陣太鼓を叩く赤穂浪士の亡霊を巡り、百夜と旗本奴が激突する「義士の太鼓」
と、今回も全て付喪神絡みというレーベル由来の縛り(本シリーズは様々な作家が付喪神を題材として描く短編シリーズ「九十九神曼荼羅」の一つとして発表)はあるものの、よくもこれだけのバラエティがあるものだ…と感心させられます。
題材的にあまり派手な展開にはなりにくいこともあり、内容的には比較的静かな作品がほとんどではあり、その点で物足りなく感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし人の想いと年経りた器物が結びついて生まれる付喪神を描く物語は、変形の――そしてそれが逆に人の想いをより鮮烈に浮かび上がらせる――人情譚とも呼ぶべき味わいが感じられます。
(さらにいえば「あかしの蝋燭」の怪異描写などは、実話怪談でも活躍していた作者ならではのものを感じます)
特に「薫風」や「勝虫」などは、ジェントル・ゴースト・ストーリーの佳品と言えるかと思いますし、恐ろしげな鬼の謎解き(ちなみに百夜は謎解きを勿体ぶるというちょっと子供っぽいところがあるのが楽しい)と、東北人の想いを絡めた「慚愧の赤鬼」などは、実に作者らしい作品でありましょう。
ちなみに個人的には、時代ものファンであれば「おや?」と感じる違和感が大きな意味を持つ――そして一種メタな怪異として立ち上がる――「義士の太鼓」がお気に入りであります。
さて、これでこれまで16話の短編がまとまったわけですが、連載の方は発表ペースは落ちているもののまだまだ続行中。
こちらもシリーズは続くという「ゴミソの鐵次」ともども、ユニークな時代怪異譚をこれからも味わわせていただけそうです。
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