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2014.05.06

「鳥の子守唄 姫は、三十一」 鳥のミステリと崩れ出した真実

 探偵稼業に燃える松浦静山の娘・静湖が怪事件に挑む「姫は、三十一」の第5巻であります。今回の事件は、タイトルにあるように、「鳥」にまつわるものばかり。その事件だけでも興味深いのですが、静湖にまつわるとんでもない秘密も明らかになり、いよいよ物語はクライマックスに向かいます。

 三十八万四千年に一度の超モテ期に突入し、心機一転、自立のために一件三両の謎解き屋稼業を始めた静湖。
 当然(?)持ち込まれる事件はおかしなものばかりなのですが、今回は、大鷲にさらわれたという大店の隠居から、真偽を確かめて欲しいという不思議な依頼であります。

 ある晩、大鷲に掴まれて空を飛び、両国橋はおろか富士山の上を越え、鷲の巣で一晩過ごしたという依頼人。しかし目が覚めたら家の近くにいた…というのは、これは単なる夢のようでありますが、しかしそれにしては真に迫りすぎていることから、静湖の出番となったのであります。

 これに対し、仲間(というか取り巻きの男たち)の助けで、似たような体験談がないか調べ始める静湖ですが…大鷲にさらわれたどころか、天狗に連れられて桃源郷に行ったと言い出す者まで出てくる始末。
 しかし、なにものかによって高空から落とされたと思しき死体が発見され、さらには当の静湖が鷲にさらわれ、同じ体験をする羽目に…

 と、この事件が物語の縦糸だとすれば、静山が密貿易相手と交わした文――もちろん静山には覚えのない偽の――が、渡り鳥の足に結びつけられて見つかるというのが横糸でありましょう。
 「妻は、くノ一」では幽霊船貿易に挑んだ静山ですが、本シリーズでは渡り鳥を利用した貿易ができないかと試行錯誤中。それを知る何者かが、静山を嵌めるために仕組んだものと思われるこの一件も、意外な形で静湖に関わってくることになるのです。


 毎回怪事件、珍事件には事欠かない本シリーズ…というより風野作品ですが、本作はその中でも相当ハイレベルの難事件と言うべきでしょう。
 ハウダニットこそかなり強引ではありますが、そこに一種の心理トリックが絡み、さらにもう一ひねり加わった展開は実に面白く、ミステリファンが見ても十分に楽しめるのではないでしょうか。
(特に高空から墜死した男の一件は、往年の「なめくじ長屋捕物さわぎ」を思い起こさせるものが)


 …が、本作の真骨頂は実は謎が解かれた後にあります。

 ラストで明かされる、静湖に関するある真実…それは、本作の構造を一変させかねぬとんでもないもの。
 さらにそこに加えて、静湖の親友の姫による、静湖の取り巻きの男たちのダメ出しは――何しろ十数人分なだけに――圧巻で、言いも言ったり、何もそこまで、と男としてはグサグサ刺さる…
 というのはさておき、一気に静湖の恋路が暗雲垂れ込めるものとなってしまったように感じさせます。

 既に第6作も発売されていますが、どうやらシリーズのクライマックスも間近な様子。
 突然大嵐のど真ん中に飛び込んでしまったような展開がこの先どこに向かうのか、俄然気になって参りました。


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