「義経鬼 陰陽師法眼の娘」第1巻 合体事故!? 空前絶後の「義経」登場
打倒平氏のため、鬼の兵法を知るという陰陽師・鬼一法眼のもとを訪れた源義経。その兵法を体内に持つという自分と瓜二つの娘・皆鶴との儀式に臨む義経だが、儀式は失敗、義経は皆鶴の中に消えてしまう。義経が復活するまでの身代わりとして、正体を隠して奥州に向かう皆鶴を待つものは…
ユニークなアイディアと、堅実な人物描写、時代描写で、時代漫画ファンであれば見逃すことのできない作品を送り出してきた碧也ぴんくの新作は義経もの。
これまで無数に描かれてきた義経ものではありますが、しかしこの作者の手になるものが、通り一遍のものになるわけがない…と思っていれば、その期待はもちろん裏切られることはないのであります。
何しろ、単行本を手にしてまず目に飛び込んでくるのが、帯に大きく書かれた「合体事故!?」。メガテン? 英雄ヨシツネ? などと思っていたら、本当に合体事故なのですから驚くほかありません。
そして事故を起こすのは、義経と、彼と瓜二つの少女・皆鶴――鬼一法眼の娘であります。
鬼一法眼といえば、平安時代末期に活躍したという陰陽師。いや、陰陽師であるのみならず、古流剣術の一つ・京八流の祖とも言われるのですから、まず立派な怪人と言えましょう。
そして、義経伝説に興味をお持ちの方であればよくご存じのように、この法眼は、義経とも因縁のある人物。法眼が持つ伝説の兵法書・六韜を目にするため、義経は彼の娘・皆鶴を誘惑して、兵法書を盗み出させたというのですから…
言うまでもなく、本作の下敷きとなっているのはこの伝説ですが、しかしそれがそのまま描かれるわけではありません。
法眼が記したという鬼の兵法書の在処、それは皆鶴の体の中。それを得るためには、法眼の手によるある儀式が必要なのですが――そこで合体事故、本来であれば義経の中に皆鶴が吸収されるはずが、その逆に皆鶴の中に義経が吸収されてしまったのであります。
何かの拍子に表に出ることもあるものの、基本的には皆鶴の中に眠り続ける状態。それでも彼の、いや源氏の大望たる平氏打倒のために、義経は奥州に行かなければなりません。
かくて、偶然真実を知ってしまった荒法師・弁慶らを供に北へ向かった皆鶴は、途中、佐藤継信・忠信兄弟を加えるのですが、正体を隠すために四苦八苦して…
冒頭で述べたように、これまで無数に描かれてきた義経もの。しかし「○○もの」のほとんどがそうであるように、物語の中で描かれるべきこと、押さえておくべきお約束が、義経ものにもあります。
しかしそれを押さえていれば良いというわけではもちろんありません。それを踏まえつつ、そこから如何に踏み出してみせるか。如何に新しい物語を作りだしてみせるか…そこにこそ、作品の成否がかかっていると言っても過言ではありますまい。
その点では、本作はスタート時点で既に独創性の塊のような展開。義経女性説自体は、いくつか見たことがあるように思いますが、しかし本作のような「義経」像は、空前絶後でありましょう。
そしてもちろん、鬼面人を驚かすだけでは終わらないのがこの作者の作品。
真実を知る者、知らぬ者、そのそれぞれの人物が、「義経」に出会ったとき、何を想い、何が生まれるか…それをきちんと描写していくからこそ、本作は――これまでの作者の作品同様――明るく楽しくも、時に重たくしっかりと読み応えある物語として成立しているのです。
そしてもう一つ、個性的なイケメンたちの中に女性が紛れ込んでドキドキという(「天下一!!」にも通じる)少女漫画としてのセールスポイントをきっちりと押さえているのもまた、心憎いところでありますが…
この第1巻の時点では、まだまだプロローグ的印象も強い物語ですが、いよいよ義経の出陣も近いはず。そこで何が生まれるのか…新たな「義経記」、いや「義経鬼」に期待であります。
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