「読楽」2014年7月号 短編特集「斬撃の輪舞曲」(その1)
今年の1月号もユニークな時代小説特集を掲載した「読楽」誌の7月号もまた、見逃せない特集であります。「斬撃の輪舞曲」と題しての時代伝奇小説の短編四編が掲載されたこの特集、執筆陣もなるほど、と言いたくなるような顔ぶれで、まず必見と申せます。以下、一編ずつ紹介していきましょう。
「隠神刑部」(乾緑郎)
旅の途中、隠神刑部なる老人と出会った稲生武太夫。この藩を壟断する国家老を守る怪人・後藤小源太に挑むことになった彼は…
ミステリ等と並行して、一貫して時代伝奇小説を発表してきた乾緑郎は、なるほどこの特集に登場するのに最もふさわしい一人でしょう。
その作者の作品は、妖怪ファンであればタイトルを見ただけでニヤリとできる物語。松山藩の御家騒動を舞台として、小野一刀流の達人・稲生武太夫が、妖剣・神免鳥羽玉の太刀を操る後藤小源太と対決する、講談などで知られたあの物語であります。
何しろ主人公たる武太夫の幼名は平太郎――といえば、驚く方もいらっしゃるでしょう。かの「稲生物怪録」で物怪相手に一歩も引かなかったあの少年の後身が武太夫。
そんな彼が怪人・妖犬と対決するのですからたまりません。
実のところ、内容的には原典(の異説)とほとんど同じであり、それゆえオチも読めてしまうのは残念なところではありますが(ちなみに講談のタイトルがそのままネタバレに…)、武太夫の生き生きとした人物描写が楽しく、この一編で終わらせるにはやはりもったいないとしか言いようがないキャラクターであります。
「あけずのくらの」(輪渡颯介)
専横を極める次席家老を闇討ちすることとなった若者たち。その一人である半平は、不敗の剣が眠るという不開蔵に忍び入るが…
怪談ミステリ「浪人左門あやかし指南」シリーズでデビューし、現在は怪談人情譚「古道具屋 皆塵堂」シリーズを展開中の作者は、今般、時代怪談の有数の描き手と言えるでしょう。
そして本作もまた、実に怖くもどこかペーソス漂う、いかにも作者らしい作品であります。
悪家老を闇討ちする役目を半ば押しつけられた主人公たち。しかし家老には藩最強の剣士が護衛につき、文字通り必殺(自分たちが)の任務であります。
そんな任務から、一番剣が劣る半平を外した主人公ですが、半平は何とか力になるために、家老と結んだ商人の屋敷にあるという、封印が施された開かずの蔵に潜り込んで…
その蔵で待つものは、もちろん(?)身の毛もよだつような怪異の存在。その怪異が、不敗の剣とどう結びつくのか、主人公たちの運命は…
先の読めない物語展開と、やはり今回も真剣に怖い怪異描写と――今回の特集のベストと呼べる作品かもしれません。
残り二編は次回紹介いたします。
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