「お江戸ねこぱんち」第十号 猫時代漫画専門誌、ついに二桁突入も…
約三ヶ月ぶりに刊行の「お江戸ねこぱんち」も、この号でついに二桁の大台に突入。猫好き、時代漫画好きとしては欣快の至りなのですが…。これまで同様、印象に残った作品を取り上げていきましょう。
「猫暦」(ねこしみず美濃)
今回は寛政10年の鯨騒動を背景とした「寛政の鯨」の巻。この鯨騒動、品川沖に迷い込んできた鯨が捕らえられ、大評判となったものですが、それをおえいやヤツメ、勘解由たちが見物に出かけて…というお話です。
そしてそこに絡むのが、天文方・高橋至時の次男・高橋善助であります。後に勘解由とも何かと因縁(?)のある人物ですが、この頃はおえいとあまり年の変わらぬ子供。
今回は彼の目を通じて、勘解由の目指す道――この国の全てを測量してみたいという想いが描かれることになります。
(ちなみに最初に高橋至時の子と聞いた時、長男の景保の方かとちょっぴりドキリと)
おえいの変身シーンはあったものの、前回に比べるとそこまで必然性は大きくなく、その辺りは物足りないところですが、巨大な鯨よりもさらに広大な海の存在と、先述の勘解由の想いが絡めて語られるのは、なかなかに美しい。
今回は引率者だったこともあって、大人としての勘解由がこれまで以上に印象に残ります。
「外伝 猫絵十兵衛御伽草紙」(永尾まる) 今回は久々に十兵衛とニタが主人公の「蛍髪猫」。
髪を梳くと炎とも火星ともつかぬものが髪より滴るため、もののけ扱いされて世をはかなんだ娘を助けた二人は…というお話であります。
内容的には外伝と言いつつ通常運転の内容ですが、十兵衛と女性キャラが直に絡むというのは比較的珍しいパターンで、なるほどこれが外伝…というのは牽強付会かもしれませんが、相手が若い女性だけに十兵衛の台詞がいつも以上に粋に感じられます。
(そして自分から猫として相手に甘えるニタも珍しい)
クライマックスの描写も美しく、何だかいい雰囲気と思いきや、ニタを選んでしまう十兵衛…というのは曲解ですが、いかにも本作らしいお話でした。
ちなみに十兵衛が引き合いに出す「代酔編」は、おそらくは中国の「琅邪代酔編」のことかと思いますが、今回のベースになっているのは、むしろそれを踏まえた中山三柳の「醍醐随筆」かな…と知ったかぶり。
「忍者しょぼにゃん」(きっか)
こちらもいつものことながらしょぼにゃんのどじっこぶりが楽しい四コマですが、新キャラとして、女嫌い(意味深)の天才イケメンが登場いたします。
何やら才走ったこの男の正体は…と思いきや、なんと歴史上の超有名人。失礼ながら本作で史実とのリンク(?)があるとは予想していなかったので大いに驚きましたが、いやこれは勝手な思い込み。嬉しい驚きではありました。
…と、今回印象に残ったのはツートップ+αのみという印象。
今回連載第2回の「猫ノ目夜話」(ほしのなつみ)もなかなか面白いのですが、怪異描写が今ひとつに感じられてしまいました(第1話に登場した雀の怪が、マスコット的な扱いで可愛いのですが)。
前回がかなり充実していただけに少々寂しいところですが…
ちなみに「お江戸ねこぱんち」の次号は11月と、かなり間が空いてしまうのですが、その間、8月に「お江戸ぱんち」が登場するとのこと。
なるほど、劇画誌や若い(女性)向けの歴史もの漫画誌はそれなりにあります(ました)が、それ以外の読者層に向けた時代もの漫画誌というのはほとんどなかったように思います。
そこに向けた漫画誌というのは、なかなか面白い試みだと思います。あえて猫という人気者を外したこの試みがどうなるか、3ヶ月後に期待しましょう。
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