「戦国武将列伝」2014年8月号(その二) 平安に生まれる鬼の子、その姿は…
リイド社の「戦国武将列伝」8月号の掲載作品紹介、後編であります。
「鬼切丸伝」(楠桂)
これまでは戦国時代を舞台としてきた本作ですが、今回はグッと時代を遡って平安時代。
そしてそこで語られるのは…なんと鬼切丸の誕生秘話!? これは大いに驚きであります。
私の記憶が正しければ、オリジナルシリーズである「鬼切丸」では、主人公の少年がいつ生まれたかは明確にされていなかったはず。それがここで描かれるとは!
というわけで、平安時代に鬼といえば、当然登場するのは大江山の酒呑童子。都を騒がす酒呑童子一党に対し、源頼光の夢寐に現れた御仏は、「美しき女子」の胎内に鬼の天敵の御子を授けたと語るのですが…
正直なところ、展開は予想がつきます。少年の悲劇についても、いささか無理があるように感じなくもありません。オリジナルシリーズの説明と、矛盾する点も感じられるのですが…
それでも圧倒されるのは、少年が鬼と化した理由、「人間が激しい憎しみなどの感情を抱くと鬼になる」というルールが、本来であれば…である彼に対しても適用されてしまった、その経緯でありましょう。
冷静に考えれば雑誌タイトルからは外れた内容なのですが、しかしもちろんこれはこれで大いにあり。少年の出自が明確に描かれたことで、オリジナルシリーズからついに一歩踏み出した印象すら感じられるのであります。
「セキガハラ」(長谷川哲也)
前回は、一度は思力を失った三成の復活&成長編でありましたが、今回のエピソードの中心となるのは、家康と柳生石舟斎。
ついに家康の下から追い出された石舟斎が出会ったのは、一度は異界に放逐された黒田長政で――
と、本作においては今ひとついいところがなく、周囲の化け物連中に振り回されていた感のある石舟斎が、ついにリベンジか!? という今回。長政と組んでのパワーアップは、ある意味とんでもないド直球で楽しいのですが…
しかし今回、個人的に強く印象に残ったのは、三成が島左近に投げかけた、「悪とは何か?」という問いかけの答えであります。長谷川作品で「悪」といえば、「アイゼンファウスト」で描かれたあの言葉ですが、それが今回そのまま登場…なのですが、非常に説得力のないビジュアルなのがまた可笑しいというかなんというか。
ラストにはもう別の漫画の存在としか思えないような人物(?)も登場、果たして歴史通りの展開に落ち着くのか、今更ながら先が読めません。
「戦国自衛隊」(森秀樹&半村良)
前回本能寺から信長を救出したことで、歴史からも、原作からも大きく離れることとなった本作。
しかし歴史の自己修正力から本当に逃れることができるのか? という今回、よりによって救い出した信長が大暴走して…
なるほど、これまでの「戦国自衛隊」とは異なり、人間に対して銃を向けるのは本当に最小限に留めてきた本作ですが、それがこういう形で破られるとは。
今回、展開的にはそれほど進んでいないのですが、信長の存在感のおかげでお腹いっぱいという印象ではあります。
というわけで想像以上に大量になってしまった「戦国武将列伝」8月号。
特別読切の「紅娘の海」(叶精作&篁千夏)は、個人的には趣味が合わなかったのが残念。このコンビに期待されている役割はきっちり果たしているとは思いますが…
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