「炎を統べる るろうに剣心・裏幕」前編 描かれるか、志々雄の歪み
いよいよ劇場版第2弾公開も目前となった「るろうに剣心」ですが、前回同様、今回も「ジャンプSQ」誌に和月伸宏による漫画が掲載されることとなりました。「るろうに剣心・裏幕」と謳って、剣心の最大の敵・志々雄真実を主人公とした番外編、「炎を統べる」です。
物語の舞台となるのは明治10年。かつて剣心を継ぐ人斬りとして活躍した志々雄が、その危険性から抹殺されかけ、全身包帯の異様な姿に変じてから後の物語となります。
既に瀬田宗次郎と佐渡島方治を配下とした志々雄が姿を現したのは新吉原、そこに身を潜めた彼は、各地で集めた「十本の刀」が揃うのを待っているというのですが…
そこで彼と出会ったのが、見世で昼三を務める駒形由美。後に志々雄の情婦となり、最後の最後まで彼と運命を倶にした美女であります。
かつて炎を纏った剣を操る男に家族を皆殺しにされて遊女に身を落とした由美ですが、昼三といえば一番の売れっ子。本編でも語られたマリア・ルーズ号への怒りを胸に、明治政府の人間だけは客に取らないという気概の持ち主です。
本作は、この志々雄と由美の出会いの物語。上で述べたように、後には深い絆で結ばれた二人ではありますが、本作の段階ではまだ客と遊女――いや、志々雄は彼女の客ですらなく、見世の居候的存在であります。
自分だけでなく、妹分と二人の禿のことも背負って生きんとする由美を、馬鹿者とあざ笑う志々雄。そしてまだ明言はされていないものの、おそらくは志々雄が家族の仇であろう由美。
尋常な形では交わりそうにない二人の生き方が、果たしてどのようにこの先結びつくのか――それが気になるところであります。そしてその中で、由美が見出した志々雄の魅力というものが描かれるのでしょう。
個人的な印象ではありますが、本編をリアルタイムで読んでいた際には、今一つ志々雄というキャラクターに魅力が感じられませんでした。
弱肉強食・適者生存を唱え、自らを強者としてこの世の支配を目論む野望の男――なるほど、一つの人物の在り方かもしれませんが、いかにも少年漫画の悪役という印象は拭えません。
これは一つに、「るろうに剣心」という作品、いや、現在に至るまでの作者の作品に登場する悪役が――敵役のための敵役である雑魚は除いて――どこか普通ではない、一筋縄では行かない「歪み」を持っていることにもよるのではないかとは思います。
その点からすれば、志々雄のキャラクターはある意味ストレートに過ぎたようにも思うのですが…
しかしその志々雄が、「武装錬金」や「エンバーミング」を経た作者の手によって、どのように「歪み」――もちろん、「歪みない」という「歪み」も含まれます――を持ったものとして描かれるのか。
今回の敵役であろう、西南戦争で活躍したという弘原海兵団を率いる一ヶ瀬鮫男(士族でも浪人でもなく「軍人」という立ち位置は面白い)と志々雄の対峙の中で、おそらくはそれ描かれるのではありますまいか。
まだ見ぬ志々雄の真実に期待する次第です。
「炎を統べる るろうに剣心・裏幕」前編(和月伸宏 「ジャンプSQ」2014年8月号掲載)
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コメント
実写映画版キャストが中々発表にならないので、一時は宗次郎以外は出ないといいう噂もあった十本刀ですが無事出ることが分かって何よりです。残る未発表キャストの比古清十郎役ですが、ネットのニュースで福山雅治さんが演じるというのを見ました。やはり佐藤くんと『龍馬伝』つながりなのかな?
投稿: ジャラル | 2014.07.13 13:45