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2014.08.14

『戦国妖狐』第13巻 そして千夜の選んだ道

 決戦前夜という一番気になる場面を描いた前の巻から少々間が空きましたが、いよいよ決戦の始まりであります。多くの闇(かたわら)を手中に収め、強大な力を持つに至った無の民に対し、第一部も含めてこれまでの物語に登場してきた多くのキャラクターたちが結集、全面対決に突入することとなります。

 ある目的のために狂える神を生み出し、歴史の影で暗躍してきた無の民。一度は千夜や足利義輝によって撃退された彼らは数年後に再来、これまでとは比べものにならない強大な力を手にすることになります。

 無の民の側は第一部の主人公にして狂える千本妖狐と化した迅火、千夜の父である龍の男・神雲、巨大な入道雲の闇・万象王、そして無数の闇たち。
 これに対するは、千夜、神雲のライバルであった虎の男・道錬、千夜のライバルにして今は道錬の弟子のムド。そして決戦に参加すべく彼らの後を追う妖狐たま、真介、月湖、京の土地神・華寅…

 かくて、奇しくも第一部の決戦の場でもあった断怪衆総本山において、正邪(と単純に色分けするのは躊躇われるのですが)の決戦が開幕することとなります。

 とにかく、決戦というだけあってこの巻では最初から最後までバトルまたバトル、いきなり最強の龍・神雲との頂上決戦が始まったかと思えば、人質(闇質?)とされた闇を救うべく、千夜は単身無数の闇の群に突入。

 意外な乱入者や、ここに来て新ヒロインの登場!? ととにかく盛り沢山の展開で読み応えは十分なのですが…
 正直に申し上げると、こういう展開の時にはここで紹介することが少なくなってしまうのは、個人的には痛し痒しではあります。

 が、やはり油断できないのがこの作品であり、この作者。この巻のクライマックスにおいて、千夜が示す決意の姿こそがそれであります。

 闇と戦うための人間兵器として、幼い頃にその身に千体の闇を宿した千夜。真介との出会いによりその心は救われ、千体の闇とも想いを一つにすることはできた千夜ではありますが、その身が人と闇の不安定な――という言葉ではすまぬほど危険な――状態にあることには変わりありません。

 かつて迅火が己の中に宿した妖狐の力を暴走させた果てに、全ての生命力を食らいつくす千本妖狐と化したごとく――いや、それ以上に危険な存在に化すのではないか。
 それが周囲の、そして千夜自身の恐れるところだったのですが…

 しかし、ここで描かれるのは、その恐れを超えて千夜がたどり着いた己が歩むべき道と、それを象徴する姿であります。
 そう、その姿とは――とさすがにこれは伏せますが、なるほど、千本妖狐に対置される存在として、これがあったか! と唸らされることは間違いありません。

 そして両者の姿の違いこそは、人を嫌い闇になろうとした迅火と、闇を宿しながらそれを受け入れ、なおも人であろうとする千夜の違い――そしてそれは、彼らの境遇、接してきた人々の違いでもあるのですが――でありましょう。

 まだまだ先の読めない作品ではありますが、新旧主人公の対決は、人と闇の――人と他者の関わり合いを描いてきた本作の一つの結実を示すものになることは、間違いありますまい。


 と、その前に第一部からの読者にとっては大いに気にかかる展開が待っています。

 かつて悲痛な別れを経験し、今また敵味方として分かれることとなった真介と灼岩。
 人と闇の架け橋として、本作の影の主人公ともいうべき存在であった彼の魂の輝きに運命は力を貸すのか?

 千夜の運命もさることながら、真介たちの運命もまた、気になって仕方のない、早く次の巻を、と言いたくなってしまうところなのであります。


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