『大江戸恐龍伝』第4巻 冒険! 秘境ニルヤカナヤ
前回の紹介から少々時間が空いてしまいましたが、『大江戸恐龍伝』もいよいよクライマックスの第4巻であります。竜を求めて、江戸から琉球、そしてついに伝説のニルヤカナヤへと長い旅を続けてきた平賀源内。ついにニルヤカナヤに乗り込んだ一行を待ち受けていたものとは?
あたかも伝説の「竜」に引き寄せられるように、様々な奇しき因縁から、ニルヤカナヤに向けて旅立った源内と仲間たち。
いまだその正確な位置もわからぬまま琉球に到着した一行は、そこに残された謎を解き明かし、ついにニルヤカナヤに上陸するのですが、到着したその晩に巨大な竜が出現、幾人もの犠牲が出ることとなります。
それでもニルヤカナヤの探検を始めた源内一行は、謎の美女・樊があわや生け贄にされんとするところに出くわし、彼女を救出。彼女の口から、彼女たちが蓬莱島と呼ぶこの島で、方丈国と瀛州国、二つの国が争っていることを知るのでありました。
蓬莱・方丈・瀛州といえば、中国の東方にあると言われる神仙国(神山)の名前。そしてその三つを求めて海を渡ったのは、本作においても何度も名前が現れた徐福…!
ここに物語冒頭から描かれてきた様々な要素がついに結びつき、一つの巨大な伝奇絵巻が描き出されることとなります。
そしてその数々の謎が描かれる世界と、そこで繰り広げられる物語は、まさに秘境冒険物語の世界。
『失われた世界』や『ソロモン王の洞窟』などで描かれた、手つかずの秘境に秘宝(に類するもの)を求めて訪れた文明人が、そこで原住民を二分する争いに巻き込まれ…という懐かしき物語であります。
正直なところ、あまりにそのフォーマットに則りすぎている感はあるのですが、しかし地球上から秘境というものが消えると同時に衰えていったこのジャンルを、時代小説において、平賀源内を主人公に、真っ正面から復活させてくれたというのは、やはり実に嬉しいことではありませんか。
(個人的には、これまでの溜めに比べると、ニルヤカナヤでの冒険は少々あっさり目とすら感じられるのですが…)
しかしここには、同時に、本作ならではの色彩が加わっています。
それは源内が抱えた鬱屈――自分はこれまで何を為し得てきたのか。自分はこれまで何も為し得なかったのではないかという想いであります。
天才を自負しながらも、それ故に世間と自分との、自分の求める自分自身と現実とのギャップに苦しんできた源内。
その源内の鬱屈は、これまでも物語の中で折に触れて描かれてきたところではありますが、ニルヤカナヤで経験した自分を絶対的に上回る自然界の存在――竜との出会い、あるいは九死に一生を得るような命がけの冒険行を通じ、彼は自分自身の存在のなんたるかを根底から見直すこととなります。
かつての秘境冒険小説が、文明人による自然の征服という側面を持っていたのに対し、本作で描かれるのは、自然と相対して己自身を見つめ直す文明人の姿…
それは、秘境冒険小説の現代におけるアップデートと言えるかもしれません。
さて、ついにニルヤカナヤを離れ、江戸への帰途についた源内。ここでめでたしめでたしとなってもおかしくはありませんが、1巻分の物語が残されております。
そこで描かれているものは――それはもちろんこちらの期待する展開でありましょうが、さてその物語がいかに落着するか? 最後の最後まで目が離せません。
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