『股旅探偵 上州呪い村』 時代もの+本格ミステリ+メタの衝撃再び?
旅先で看取った青年の末期の言葉を携え、上州の山中の火嘗村を訪れた渡世人の三次郎。そこで彼を待ち受けていたのは、滝壺に吊された女の死体だった。捻れた植物しか生えぬ土地、跳梁するモウリョウの伝説…名状しがたきものたちが蠢く火嘗村で、関わりのねえ事件に次々と巻き込まれる三次郎だが…
『猫魔地獄のわらべ歌』で時代小説ファン、本格ミステリファン(主に後者)の間で賛否両論を巻き起こした幡大介の時代もの+本格ミステリ(+メタネタ)の第2弾であります。
内容的には全く関係はありませんが、基本路線は同じ…に見えて全く異なるのは、タイトルにあるとおり、時代ものは時代ものでも、本作が股旅ものであること。
そして舞台となるのは奇怪な伝説や因習の残る僻地――身も蓋もない言い方をしてしまえば、紋次郎meets横溝世界(暗黒神話体系もあるよ!)といったところでしょうか。
しかし、それでいてきっちりと本格ミステリしているのが、本作の何とも心憎いところであります。
ふらりと中山道の宿場町に現れた渡世人の三次郎。そこで起きた不可解な殺人事件の真相を暴いてみせた彼は、それが縁で重い病となった青年の死を看取ることとなります。
自分が帰られなければ3人の妹が殺される云々と、どこかで聞いたような青年の言葉を旨に、その故郷である火嘗村で青年の祖父である名主に歓迎を受けるのですが――
しかしほどなくして起きる第一の事件。村の女が、人が登ることはほとんど不可能な険しい滝壺に吊り下げられた死体となって発見されたのであります。
死の直前、姿は同じながらまるで別人のように変貌していたという女とその夫。さらに名主の息子(青年と妹たちの父)の墓から死体が消えていたことから、村人たちは土地に伝わるモウリョウの仕業と怯え始めます。
名主の依頼で3人の娘たちを警護することとなった三次郎ですが、しかし彼や村人の備えを嘲笑うように、第二、第三の事件、そして恐るべきカタストロフが…
そもそも、股旅ものとミステリという組み合わせは一見異色に感じられるかもしれませんが、股旅ものの代表というべき『木枯し紋次郎』の作者は、ミステリ作家でもある笹沢左保。そして実際にシリーズ中にミステリ仕立ての作品も含まれていることを思えば、不思議ではありません。
そしてその共同体とは何の繋がりもしがらみも持たぬ外部からやってきて、そこで起きた事件(に巻き込まれ、それ)を解決し、そして去っていく…股旅と探偵は――なかんずく、横溝的な世界観におけるそれは――なるほど、共通点があるではありませんか。
(そして、口数の極端に少ない渡世人という設定が、本作のような展開の事件の探偵役には実によく似合う)
そして本作にはもう一つ、濃厚な怪奇性という特徴があります。
先に述べたように、奇怪な伝説が息づく地で起きた、その伝説を地で行くような、あるいはこれはホラーではないか? といいたくなるような事件…というのは、ある意味定番のスタイルではありますが、本作はそれが見事に狙いどおりにはまっていると言えましょう。
何しろ、火嘗村に近づいた三次郎が見た周囲の風景というのが、ホラーファンであればニヤリとするようなもの。後半ではその趣向がさらに濃厚になっていくのですが(そしてそれにやりすぎ感も感じるのですが)、果たしてこれらの怪奇に合理的な解決が見られるのか、というのもこの手の作品の醍醐味でありましょう。
しかし――本作においては(特に読み始める前には)個人的にはどうしても気になる点がありました。
それはもちろん、本作の特徴の一つであるメタネタ…作中の登場人物が、本作をミステリと認識して、ミステリ問答を繰り広げるというやつであります。
この趣向は『猫間…』から共通する部分ですが、前作ではまさにこの点が、冒頭で述べた賛否両論を読んだ部分。個人的には、作品の根幹の部分に対するエクスキューズに使われた感があって、前作では大いにポイントを下げた点ですが…
この辺りの賛否は作者も計算に入れてか、明らかに今回は抑えめの印象。文字通りメタ「ネタ」、笑いを呼ぶ部分として機能していたので、さほど拒否感はありませんでした。
しかし、それが逆に、本作を無難な印象にとどめている感もあり――もっともそれは、結末による部分が大きいのですが――なかなか難しいものではあります。
『股旅探偵 上州呪い村』(幡大介 講談社文庫) Amazon
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