「戦国武将列伝」2014年10月号(その二) ネガティブ兵士が見た戦場
リイド社の「戦国武将列伝」10月号の紹介のその一であります。その一では三作品を紹介しましたが、今回も三作品、それもスペシャルゲストの作品を含めて紹介いたします。
『鬼切丸伝』(楠桂)
いささか意外なことに前回は平安時代を舞台に移して鬼切丸の少年の誕生が描かれた本作。今月単行本第1巻が刊行されたから、というわけではありますまいが、今回も同じ時代を舞台に、いわば誕生編後編といった趣であります。
舞台となるのは逢坂山――鬼が出没し、人を喰らうというこの山に一人暮らす蝉丸法師と鬼切丸の少年の出会いが描かれることとなります。
蝉丸といえば百人一首でも知られた琵琶の名人、醍醐天皇の皇子でありながら盲目を疎まれて逢坂山に棄てられた、源博雅に秘曲を授けた、等々様々な伝説のある人物。
その人物と鬼の意外な関係は、これはもう本作の独壇場なのですが(前回を踏まえると生じる、史実とのある齟齬が、後で大きな意味を持つのに感心)、しかし真に印象に残るのは、ラストのある展開でしょう。
自分の母を襲った非業の死を思い、一度は鬼も人も神も変わらぬと言い放った少年。しかしその少年の想いを揺るがせたものは…
という展開自体はある意味定番ながら、母という存在の持つ偉大さ――そしてその根底にある愛に希望を見出すというのはグッとくるものがあります。
ここからが、鬼切丸の少年の物語の始まりと言ってよいのではありますまいか。
『はじめての戦』(三宅乱丈)
というわけで今回のスペシャルゲストはギャグから壮大なストーリー漫画まで幅広い作品を手がける三宅乱丈。時代ものでも、現在冲方丁の『光圀伝』のコミカライズを担当しており、意外なようで納得の登場であります。
さて、そんな作者の作品は、タイトルにあるとおり、初めて戦に駆り出されたネガティブな男が、死ぬ死ぬと騒ぎ立てる姿をコミカルに描いた作品。
初めは笑って見ていた周りの兵たちも、空気を読めない男の妄想に毒されていったり、いい加減に男を黙らせようと非常手段を取ったり…と、ユルい展開が楽しい作品であります。
しかし散々笑わされたその先の結末に待っているのは、男がこの戦に駆り出された理由と、彼らの真の境遇。
これまでの物語の構造が全て逆転していくかのような皮肉で、しかし途方もなく残酷な結末は、なるほど、この立場の人間を主人公にして初めて描けるものであり――そして作者ならではのものでありましょう。
『戦国自衛隊』(森秀樹&半村良)
歴史を変えればその反動で元の時代に変えれるかもしれない、と信長を本能寺から救出したものの、無駄に男臭い信長の大暴走に振り回される戦国自衛隊…
という前回に続き、今回も信長が主役乗っ取り級の大暴れ。前回伏線になるかと思われた仕掛けもあっさりと見破られ、ついに信長は○○○○を殺害。
歴史は明確に変わったはずなのですが、しかし――というわけで、戦国自衛隊の受難はなおも続くことになります。
言うまでもなく原作の展開からは全く異なる地平に至った本作ですが、さて物語はこの先さらに一ひねりがあるのか、それとも『続戦国自衛隊』的な架空戦記路線にいくのか…
というところで新キャラ登場、歴史が変わったことで当然運命が変わるであろうこの人物の絡み方によっては、絶望に沈んでいた自衛隊サイドにも浮上の目が…あるかはどうかは神のみぞ知る。いやはや、本当に先が読めない作品です。
というわけで今回も楽しませていただいたのですが、次の12月号(早!)では、前回掲載された『紅娘の海』が再び登場するとのこと。
今回の三宅乱丈のように、その他にも隠し球があるのではないかと期待しつつ、また二ヶ月後を待つことといたします。
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