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2014.09.30

『およもん 妖怪大決闘の巻』 妖怪&剣豪、大決闘×2

 ある晩、某藩上屋敷の金蔵から、千両箱が盗まれた。警護の侍たちは皆「およっ!」という叫びを上げて失神したことから、およもんが犯人と疑われてしまう。およもんの無実を信じる福井淳之介と子供たちだが、当のおよもんが何者かにさらわれてしまった。果たして金蔵を破った妖怪の正体とは…

 いまや妖怪時代小説の名手となった感のある朝松健が、(ほぼ)妖怪時代小説専門レーベルたる廣済堂モノノケ文庫から贈る『およもん』シリーズの第3弾であります。

 見かけはかわいい幼児ながら、その正体は、「もんもんばぁ!」の声とともに対峙した相手が最も恐れる存在に変じ、相手を「およっ!」という悲鳴とともに気絶させるという大妖怪「およもん」。
 かつて封印されたものの、ある事件がもとで江戸時代に復活し、今は浪人・福井淳之介とその娘・咲月と平和に暮らすおよもんでありますが、今回も大事件に巻き込まれることとなってしまいます。
 それも、彼のオリジンにも関わる事件に…

 今回登場するのは、「およっ!」という悲鳴とともに人々が気絶する隙に、大金を盗み出す盗賊団。手口だけ見ればどう考えてもおよもんの仕業にも思えますが、しかしおよもんがそんなことをするわけもなく、アリバイもあります。

 しかしそんなおよもんに目を付けたのは、奉行所の粘着同心。およもんの濡れ衣を晴らすために、淳之介や親友の中山安兵衛、咲月ら子供たちは江戸中を奔走することになるのですが、その間も次々と事件が起きます。
 何者かに連れ去られてしまったおよもんに、入れ替わるように長屋に現れた謎の白い犬。暗躍する盗賊団…

 そして妖怪学の専門家・友野…ではなくて伴野祥斎を訪れた安兵衛たちは、およもんの正体と、彼と対になるもう一体の大妖怪の存在を知ることに…


 思わず笑みが浮かぶような可愛らしい外見とそれにふさわしい言動の一方で、ほとんど無敵と言ってよい能力を持つおよもん。何しろ相手が気絶するほど恐ろしいモノに変身できるのですから、ほとんどこれを防ぐことは不可能のようなものであります。

 しかし、もしおよもんと同じ能力を持つ存在が現れ、そしておよもんと敵対したとしたら…ここにおよもんは最大の敵を迎えることとなります。
 さらにおよもんたちの起源、そして致命的な弱点まで描かれてしまうことに…!

 そして繰り広げられるのは、まさにサブタイトルに偽りなしの妖怪大決闘――なのですが、実は大決闘はそれだけではありません。
 実はそれに並行して描かれる、もう一つの大決闘があるのですが…その詳細は伏せるとして、なるほど、ここであの人物のあの史実を活かしてきたか、と思わずニンマリの展開なのです。


 さて、ほとんどクライマックスのような大決闘×2でしたが、まだまだ物語は続いて欲しいもの。
 およもんが何者かがわかったとしても、およもんはあくまでもおよもん。長屋の人々と江戸の平和を守る、正義の子ども妖怪であることは間違いないのですから…


『およもん 妖怪大決闘の巻』(朝松健 廣済堂モノノケ文庫) Amazon
およもん3 (廣済堂モノノケ文庫)


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2014.09.29

『すえずえ』 若だんなと妖怪たちの行く末に

 これまでほぼ年一作のペースで刊行されてきた『しゃばけ』シリーズも、この『すえずえ』で第13作目。「すえずえ」とは「末末」――「時間的にあとであること。これから先。将来。行く末。のちのち。」の意。作中の登場人物それぞれのすえずえが、本作においては描かれることとなります。

 シリーズ第一作が刊行されてから、早13年が経った『しゃばけ』シリーズですが、しかし作中における時の流れは、現実世界に比べれば――特に若だんなの周囲では――かなり緩やかであったという印象があります。
 もちろん、若だんなの腹違いの兄である松之助や親友の栄吉は、作中でそれぞれの道を歩み始めているのですが、若だんなはと言えば、大げさに言えば、相変わらず長崎屋の離れで妖怪たちと楽しく暮らす毎日。

 もちろんそれはそれで大いに結構なことで、その変化のなさこそが、いつまでも続く本シリーズの楽しさを保証してくれているのですが――しかし、本作においては、そんな若だんなにとっても、時の流れは少しずつ、少しずつ動いていることが感じられるのです。

 さて、これまで同様に連作短編集である本作は、登場人物の名と時間の単位を組み合わせたタイトルの、5つの短編から構成されています。
 見合いをしたにもかかわらず、そのことを若だんなに隠そうとする栄吉の抱えた複雑な事情「栄吉の来年」
 寺で二人の僧が姿を消したという事件を解決しに小田原に向かった寛朝を待ち受ける思わぬ事態「寛朝の明日」
主人の藤兵衛が上方に出かけたきり帰ってこないところに勃発した店乗っ取り騒動に一人挑むおたえの姿を描く「おたえの、とこしえ」

 …と、それぞれに趣向を凝らしたユニークな事件が描かれ、大いに楽しいのですが、しかし次の作品のインパクトの前には、いささか霞むかもしれません。
 何しろ「仁吉と佐助の千年」で描かれるのは、若だんな自身の縁談――あの若だんなに、ついにお嫁さんが!? という展開なのであります。

 もちろん、若だんなもそれなりの年齢。縁談の一つや二つがあっても不思議ではない…と言いたいところですが、ご存じのとおり若だんなは極め付きの病弱。
 いや、それは良いとしても、彼の周囲には仁吉と佐助をはじめとして、数多くの妖怪たちがおります。

 普通の人間が、基本的に目に見えない妖怪たちとうまくいくはずがない。妖怪たちも、自分たちのことを理解しない人間とうまくいくはずがない。
 そんな状況で持ち込まれた縁談は、もちろん騒動のタネにしかならないわけで…

 と、抱腹絶倒の大騒ぎとなるわけですが、しかしここで同時に描かれるのは、時の流れによる、若だんなと妖怪たちの関係性の変化であります。
 繰り返しになりますが、若だんなに嫁が来た時に、普通の人間と妖怪たちとが仲良くできる可能性は、極めて低いと言えるでしょう。 しかし若だんながこの先あくまでも人間として、長崎屋の(将来の)主として暮らすのであれば――そうでない選択肢もあるのがまた恐ろしくもありますが――嫁取りはやはり避けては通れない道でしょう。

 だとすれば、退くのはやはり妖怪たちの方…と実際なるかどうかは別として、この「仁吉と佐助の千年」、そして続く「妖達の来月」で描かれるのは、止まらない時の流れによる、いつかあるかもしれない別れの姿なのであります。
(尤も、「YomYom」誌Vol.25に掲載されたシリーズ外伝「えどさがし」には、明治時代の妖怪たちの姿が描かれているのですが…)


 若だんなも、そして我々読者も、変わらぬまま続くと信じていた『しゃばけ』シリーズの楽しい世界。しかしその世界も、決して時間の流れとは無縁ではいられないことが、本作では描かれます。
 しかしもちろん、その変化が今日明日訪れるわけでもなく、そしてそれがネガティブなものであるとも限りません。

 いつか訪れるその日が、更なる笑顔をもたらしてくれることを、今は信じたいと思います。


『すえずえ』(畠中恵 新潮社) Amazon
すえずえ


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2014.09.28

『おそろし 三島屋変調百物語』 最終夜「家鳴り」

 いよいよTVドラマ版『おそろし』も最終回。かつて凶宅にとりこまれたおたかが、前回のラストで「蔵が開いた」と呟いたとおり、あの凶宅の呪われた蔵で、おちかは最後の物語と相対することとなります。その果てに彼女を待っているのは――

 突然江戸にやってきたおちかの兄・喜一。これまで幾度か彼の前に現れていた松太郎の亡霊が、「行き場所がわかった」と言うのを聞き、おちかの元に松太郎が現れたのではないかと気にしてきたのです。
 それと時同じくして現れたのは、おたかを引き取った商家の若旦那・清太郎。おたかは蔵が開いたほかにも、「お屋敷に松太郎という客が来た」と語っていたのでありました。

 意外な形で繋がった二つの怪事。かくておちかはおたかの座敷牢に向かい、兄たちの眼前で姿を消してしまうおちかとおたか。
 そしてあの屋敷に足を踏み入れるおちかは、子供に戻ったおたか、そして松太郎を追いかけてあの蔵に踏み込もうとするのですが――

 そこで彼女を止めたのは、「曼珠沙華」の物語を語った松田屋。そして「魔鏡」の物語に現れたお彩と市太郎が、宗助とお吉が、そして「凶宅」の清六や辰二郎一家までもが――これまでおちかが聴いた百物語に関わった死者たちが、皆姿を現したのであります。

 物語を聞くということは、その物語を、そこに登場した人々のことを記憶に留めること。奇怪な事件の末に命を落とした人々は、おちかに語られることによって、おちかの中に甦り、そして一つの物語として繋がったのであります。

 本作は、おちかが怪異譚を聴くことにより、一種のカウンセリング的な形で癒されていく物語であります。
 しかしそれと同時に、物語られること、記憶されること、忘れられないことで救われるものがあるということを、本作は同時に示します。
 それこそが「語り」の持つ力なのでありましょう。

 もちろんそれがポジティブな効果のみを持つとは限りません。松太郎が凶宅に招かれたように、語られた怪異と怪異が結びつくこともまた、あるのかもしれません。
 そうだとしても…人と人が繋がることは、時として理不尽な悪意を超える力を生むのであります。
 それだからこそ、時に揺らぎながらも、人に支えられながらも、おちかは決然とした瞳で怪異の源と対峙し、その物語を聴くと言い放つことができたのでありましょう。

 もちろんこれは一歩間違えれば説教臭い奇跡の連続になりかねませんが、それを感じさせなかったのは、原作の完成度の高さと――そして何よりも、本作の物語に登場する人々を演じた面々の力に依るところも大きいと申せましょう。

 特に、第一夜の感想でも申し上げたとおり、おちかを演じた波瑠の見事なヒロインぶりは言うまでもなく、彼女にとっての原罪であり、そして救いとなった松太郎を演じた満島真之介は、さすがとしか言いようのない存在感でありました。
 その他、脇役一人一人に至るまで――本作の出演陣は、本作をもう一つの『おそろし』として成立させていたと心から思います。


 そして…あのメフィストフェレスめいた謎の男が告げたように、おちかの物語は、彼女が聴くべき物語はまだまだ続きます。
 そうであるならば、ドラマとしての『三島屋変調百物語』もまた続くべきでしょう。何よりも、揺れながらも決然とした瞳で百物語と――人の隠れた記憶と対峙するおちかの姿をまだ見ていたいと、そう感じるのです。



関連サイト
 公式サイト

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 『おそろし 三島屋変調百物語』 第3夜「邪恋」
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 「おそろし 三島屋変調百物語事始」 歪みからの解放のための物語

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2014.09.27

『明治の怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』 これで一周、充実のレア怪談集

 一昨年から年一冊ずつ『昭和』『大正』と刊行されてきた『怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』、さて次は…と思っていたところが、今年も『明治の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』が刊行されました。おそらくは三部作になるべき怪談集のラストであります。

 この『怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』は、現代では完全に埋もれてしまっている怪談実話集を発掘し、その中でもユニークな作品、意義深い作品を収録した怪談集です。

 大衆文化の中でもある意味特に偏ったところに位置する怪談ですが、それだけに、現代まで残っているものはよほど有名なものくらいというのが現状。それを発掘して手に入れやすい形で刊行してくれるというのは、実話怪談好きにとってはまことに頭の下がるお話しであります。

 さて、本書の対象となる明治といえば、特にその前半の時期は、近代合理精神とやらに押されて、非合理の塊とも言うべき実話怪談は風前の灯火だった時代。
 それが時代が移るにつれ、好事家たちの逆襲(?)が始まり、一種の怪談会ブームにまで至った…というのは、本書と同じ東雅夫編による『百物語怪談会 文豪怪談傑作選特別編』に詳しいところであります。

 しかし、いかにブームといえど、現代の読者に通用するものがそれほどあるのか――上記の『百物語怪談会』に収録された「怪談会」「怪談百物語」がせいぜいではないのかしら――などというのは、これはあまりに無知というものでした。
 それだけ、本書に収録された怪談の数々は魅力的なのであります。


 なんと言っても圧倒されるのは、本書のほぼ半分を占める『古今実説 幽霊一百題』。これが実に、タイトルに偽りないほぼ完全な百物語、すなわり百話の怪談が収録されているのです(本書では事情により一話欠けておりますが…)。

 怪談集のタイトルに「○○百物語」というのはある意味定番ではありますが、本当に百話収録されているものは(特に『新耳袋』以前は)さして多くなかったという印象があります。
 しかしこの『幽霊一百題』は、本当に百話、それもタイトルのとおり幽霊話ばかりを収録しているのですから驚かされます。

 さすがに内容的には、幽霊話の定番とも言える死者が別れを告げに来る話や痴情のもつれによる女幽霊ネタが多いのですが、その中に、監獄の教晦師(これも近代以降の産物ではありましょう)が語るものや、戊辰戦争あるいは西南戦争にまつわるものが含まれているのが、これはこの怪談集ならでは。
 何よりも本当に百話収録のもたらす迫力というものは、当時の怪談シーンの熱量を想像させるものがあり、何とも圧倒されます。
(そしてこの怪談集が、仏教系の出版社によって出版されたというのが、また時代背景というものを想像させるのです)


 その他、本書に収録されている怪談集はどれも総じてレベルが高く、正直に申し上げてこれまでの『昭和』『大正』が、どちらかといえば資料的価値込みでの評価になったのに比べれると、ストレートに怪談集として楽しめる内容なのが目を引きます。

 特に『日本妖怪実譚』の「土蔵の中の雪洞」や、『実歴怪談』の「障子の幻映」など、シンプルな内容ながら、語り手側と怪異側、双方の丹念な描写が実に生々しく、今読んでも出色の怪談と言えましょう。
(ただし、怪談実話といいつつ、オカルト探偵フラックスマン・ローものの翻訳が含まれているのはいかがなものかとは思いますが…)


 と、非常に充実した本書、ページ数に比べての読み応えは相当なものであり(これは途中で二段組みになっているからという理由もあるかとは思いますが)、並みの怪談集数冊分の読み応えがあった本書。

 これで明治・大正・昭和と一巡りしたわけですが、ぜひ二巡目を…というのはさすがに贅沢の言いすぎかもしれませんが、偽らざる心境であります。


『明治の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』(東雅夫編 KADOKAWA/メディアファクトリー幽ブックス) Amazon
明治の怪談実話 ヴィンテージ・コレクション (幽ブックス)


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2014.09.26

『猫絵十兵衛御伽草紙』第10巻 人間・猫・それ以外、それぞれの「情」

 『ねこぱんち』誌の看板作品の一つである『猫絵十兵衛御伽草紙』も、ついにこの最新巻で二桁の大台に乗りました。人間の猫絵師の十兵衛、(元)猫仙人のニタの凸凹コンビや、彼らを取り巻く人間と猫、それ以外の面々も相変わらず元気であります。

 さて、記念すべき第10巻といっても、良い意味でいつもと変わらない世界が展開される本書。
 今回収録されているのは、「猫和尚の修行」「翼ある猫」「猫先生の終日」「お伊勢猫」「鉄之猫」「年猫」「角力猫」「衝立猫」と、今回も少し多めの全8話となっております。

 お話の方も、猫又やら付喪神やらが登場するちょっと不思議なお話から、江戸の庶民と猫の日常の触れあいまで、相変わらずバラエティに富んだ内容。
 そしてそこに共通するのは、狂言回しとしての十兵衛とニタの存在は言うまでもなく、江戸の文化の確かな描写と人情の暖かさ、そして猫たちの可愛らしさであります。

 例えば「お伊勢猫」は、病身の飼い主のために一念発起してお伊勢参りに出かけた猫のお話。
 …というとまるで猫又のようですが、あくまでも本作に登場するのは、ごく普通の猫。

 犬がお伊勢参りに行ったという話は私も何かで読んだことがありますが、本作はそれを踏まえつつ、猫をお伊勢参りに向かわせたというのが何とも楽しい。
 しかしもちろん楽しいだけでなく、人や犬に比べれば弱い存在である猫が、それでも必死に伊勢に向かうその姿の健気さ――猫又ではなく普通の猫だからこそ、無言で旅するその表情のひたむきさが胸を打ちます――と、猫を見守り、彼もまたお伊勢参りの一員として遇する人々の姿が、強く印象に残ります。

 一方、「鉄之猫」は、年を経た五徳(炭火の上に置いて鉄瓶などを載せる三本足の器具)が変化した付喪神・五徳猫と十兵衛&ニタの交流を描く物語であります。

 猫の姿をしているものの、器物の精というある意味ピュアな存在である五徳猫。
 そんな彼(?)に対する十兵衛やニタの接し方を通して、人間とそれ以外の間に厳然として存在する種の違いを浮かび上がらせるのにはドキッとさせられますが(そして同時に妖怪ものはこうでなくては、と頼もしくも思うのですが)、そこからさらに、そんな違いを越えた個の在り方に繋げていくのが実に本作らしい。

 人間も動物も、猫又や妖怪も、あるいは神仏も――姿形や生まれこそ違え、皆この世界の住人であり、そしてそれぞれに「情」を持つ存在であると描いてみせる点こそが、本作の持つ根本的な優しさ、暖かさの所以ではないか…
 と、第10巻のこの巻で、改めて感じさせられた次第です。
(その一方で、猫好きなのにもかかわらず、いやそれだけに猫に避けられる人の姿をひたすら描く「衝立猫」のような、猫好きにとっては大いに苦笑と共感を誘うエピソードもあるのがまた本作らしいのですが)


 人間も猫もそれ以外も、皆等しく自分自身として存在している世界。
 それは実は、本作の中においてすら成立が難しい一種の理想として描かれてはいるのですが、しかしそれだけにどこまでも魅力的であり――そしてその一端が示されたときに人を感動させます。

 本作では、これからも変わることなく、そんな理想郷を描いていっていただきたいものです。


 ちなみに作中でニタが十兵衛を罵る際の台詞に、まげも結えないような頭、というようなものがあるのですが、これは単に十兵衛が極度の癖っ毛なのか、はたまた(その育ちによる)不思議な体質なのか…?
 小うるさいファンとしては、こういうところにきちんと設定があると嬉しくなってしまうのですが、さて。


『猫絵十兵衛御伽草紙』第10巻(永尾まる 少年画報社ねこぱんちコミックス) Amazon
猫絵十兵衛御伽草紙  (10) (ねこぱんちコミックス)


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 Manga2.5版「猫絵十兵衛御伽草紙」 動きを以て語りの味を知る

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2014.09.25

『陰陽師 瀧夜叉姫』第5巻 奇怪にして美しい将門の乱

 早いもので漫画版の『陰陽師 瀧夜叉姫』も、もう第5巻。都を騒がす奇怪な事件の数々は、徐々にその繋がりを見せ始め、その事件と密接な関わりを持っているであろう平将門の乱にまつわる長い長い物語も、いよいよこの巻においてひとまずの終わりを迎えることとなります。

 一連の怪事に襲われた貴族たちに共通するのが、20年前の平将門の乱に関わっていたことだと気付いた晴明と博雅。
 そこで、今なお謎めく将門と彼の起こした乱の真実を、貴族たちから聞き出そうとする二人ですが――しかし、人々の口から語られる将門公は、到底同一人物のものとは思えぬほど、様々な姿を持っていたのでした。

 かくて二人が最後に訪ねたのは、俵藤太こと藤原秀郷…かつて琵琶湖の龍神の頼みに応じて大百足を倒し、名刀・黄金丸を手にした剛勇の士。そしてかつての将門の親友であり――将門を討った男であります。
 そしてこの巻では、ほぼ一冊をかけて、秀郷の語る将門と彼の起こした乱の顛末が語られることとなります。


 将門の乱については、本作も含めて様々なフィクションに取り上げられており、史実も伝説も含めて、その内容は比較的に知られていると言えるでしょう。その意味ではこの巻で語られる内容は、それと大きく異なるものではありません。

 片目に二つの瞳が輝き、刃も通らぬ鋼の体と、六人の分身と併せて七つの身体を持っていたこと。
 その力で破竹の快進撃を見せたものの、愛妾の桔梗御前に裏切られてその弱点がこめかみであることを知られ、そこに秀郷の放った矢を受けて倒れたこと。
 そして首を落とされながらもなおも命を保ち、怨念の言葉を発し続けたこと――

 いずれも将門伝説を彩るエピソードばかりではありますが、本作の漫画化を担当する睦月ムンクの筆は、様々な将門の姿を、そして彼と対峙する秀郷の姿を、時に生き生きと、時におぞましくも恐ろしく、そして時にもの悲しく描き出すことにより、本作ならではの――こうした史実と伝説を踏まえつつも、新たに作り出された奇怪で美しい物語ならではの――将門公とその乱の姿を描き出していると感じます。

 それと同時に、将門と秀郷の直接対決、あるいは将門軍と討伐軍の激突の場面の迫力は想像以上であり、(こう言っては大変に失礼なのですが)ここでこれほどの戦いの場面を見せていただけるとは、と驚きつつも喜ばせていただいたところであります
(夜陰に乗じて藤太の宿を襲撃する兵たちのシーンなど、絵として面白いカットもあるのも楽しい)


 そして長い物語も終わり、ようやく舞台は20年後の「いま」に移ることとなります。
 この巻ではほとんど完全に聞き役に終始していた晴明と博雅の出番もいよいよこれから…

 ということは、一連の奇怪な事件もこれからが本番ということ。これまではいわば長い長い序章、ここからの物語で何が描かれることとなるのか…この巻の出来を見るに、この先も安心して待ってよさそうであります。


『陰陽師 瀧夜叉姫』第5巻(睦月ムンク&夢枕獏 徳間書店リュウコミックス) Amazon
陰陽師瀧夜叉姫 5 (リュウコミックス)


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2014.09.24

『荒神』 怪獣の猛威と人間の善意と

 東北の小藩・香山藩にある山村が、一夜にして壊滅した。生き残りの少年・蓑吉は、隣の永津野藩主の側近・曽谷弾正の妹・朱音に助けられる。そして村を壊滅させた謎の怪物は、その後も次々と犠牲者を増やしていく。激しく反目する両藩は、この怪物を撃退することができるのか。そして怪物の正体は…

 宮部みゆきの最新作『荒神』が単行本化されました。東北の二つの小藩の境にある山を舞台に展開する本作は、何と怪獣時代小説とも言うべき快作。
 本作に先行すると思われる作品は、『泣き童子』に収録された『まぐる笛』がありますが、本作はそれを質・量ともにパワーアップさせた、まさしく大作であります。

 舞台となるのは、東北と関東が接する辺り、南東北の小藩・香山藩と永津野藩。表向きは主藩と支藩という関係ながら、戦国時代から元禄の今に至るまで対立し、特に永津野はたびたび国境を侵し、香山の民を攫っていくなど、一触即発とも言える状況であります。

 そんな中、両藩の間の山中で、香山側にあった山村が一夜にして壊滅。周囲の村や砦も、次々と壊滅していくこととなります。
 後に残されたのは、何かに食われ、そして半ば溶けたかのような無惨な骸…明らかに人間や山の獣では不可能なこの惨劇の犯人は、突如としてこの山に現れた恐るべき怪物だったのであります!

 どちらの藩もこの非常事態に気付かず、あるいは黙殺する中、事件に巻き込まれた人々は、生き残るために、怪物を倒すために、それぞれ必死の戦いを繰り広げることとなります。そしてその先に明らかになる怪物の意外な、恐るべき正体とは…


 私が冒頭に、妖怪時代小説ではなく、怪獣時代小説と申し上げたのには、もちろん理由があります。それは、本作に登場するのが、巨大さと生物感、そして異形と能力を兼ね備えた、異常な存在感を持ったモノであるからにほかなりません。

 人間を、いやこの時代のこの場所にいる全ての動物を遙かに上回る巨体と、この世のあらゆる生物とは異なる姿と能力。そしてそれでいて、はっきりと実体を持ち、物理的に人を害することができる存在…それこそはまさしく「怪獣」と呼ぶべきでしょう。

 そして本作においては、その怪獣の巨体から、異形から、特殊能力からくる脅威を真っ正面から余すことなく描ききり、幾度となく人間との真っ向対決を(大半は一方的な内容ですが)描いてくれるのが嬉しい。
 あくまでも本能に従い、人の想いを斟酌せずに暴れ回る…これこそが怪獣、と思わせてくれる見事な怪獣ぶりであります。
(途中、最近定番の××による○○○○○○まで見せてくれるのには驚かされました)


 しかし、本作のさらに素晴らしい点は、こうした怪獣の暴れっぷりを描きつつも、それと同時に、それに抗する人々を中心とした、見事な群像劇を成立させていることであります。的側面を強く持つ物語であります。

 怪獣の襲撃から辛くも生き残った山村の少年、香山藩上層部の動きに巻き込まれた若き藩士、永津野藩の実権を握る酷薄な兄とは正反対の慈愛に満ちた美女、彼女の用心棒を務める飄々とした放浪の浪人、二つの藩に出没して謎めいた動きを見せる旅絵師…

 生まれも育ちも、行動の目的も依って立つところも皆異なる人々が、怪獣の出現によって生じた混乱に巻き込まれる中、それぞれの役割を果たしていく――怪獣ものではある意味定番の図式ではありますが、しかし本作ほどそれを高レベルで実現しているものは、そうはないのではないか、と感じます。

 そしてさらに言えば、本作の構図――超自然の理不尽なまでの猛威や人間の悪意に翻弄されながらも、そこに巻き込まれたごく普通の人々が、それぞれの持つ人間としての善意を胸に必死に生き延びようとする姿は、作者も敬愛するスティーブン・キングの諸作に通じるものを感じるのです。

 そう、凄惨な戦いと数多くの犠牲者の姿を描きつつも、本作の読後感があくまでも爽やかなものであるのは、そこに確かに存在する人間の善意が感じられるからではありますまいか。


 本作の舞台が南東北、関東と東北の境に近い地に設定されていることの意味は明白であります。香山と永津野、両藩の在り方も含めて、そこに現代に通じるものを読み取ることは容易でありましょう。
 そんな物語の中で、人間の善意の姿とその傷だらけの勝利を描いたことは、何よりも嬉しく――そして本作が今この時にこそ描かれるべき物語であると、そう感じるのです。


『荒神』(宮部みゆき 朝日新聞出版) Amazon
荒神


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2014.09.23

10月の時代伝奇アイテム発売スケジュール

 いつ終わるのかと思っていた暑さがフッと途切れ、日差しは強いものの不快感はない、そんな秋の空気が感じられる毎日となってきました。秋といえば断然、読書の秋…というのは毎年言っている気もしますが、やはり秋は読書が似合う季節、10月の時代伝奇アイテム発売スケジュールであります。

 文庫小説の方は、新作・新登場は一点のみなのですが、しかしこれが大注目作。
 風野真知雄『くノ一秘録 1 死霊大名』――タイトルからしてそそられますが、舞台は戦国時代、主人公のくノ一が挑む相手は松永久秀と、バリバリの伝奇ものであります。 作者の戦国伝奇は実に久しぶり、これに期待するなという方が無理でしょう。

 その他、シリーズものの新刊としては、上田秀人『お髷番承り候 9 登竜の標』、友野詳『あやかし秘帖千槍組』第2巻、瀬川貴次『ばけもの好む中将』第3巻と、やはり数は多くないものの、粒よりの作品が刊行されます。

 文庫化では、乾緑郎の『忍び秘伝』が『塞の巫女 甲州忍び秘伝』のタイトルで登場。
 また、8月末に誕生したばかりの新レーベル・新潮文庫nexからは、三國青葉『かおばな憑依帖』が刊行されます。初刊時には色々と厳しいことを書きましたが、色々と改稿されているとのことで期待しております。
 そして武内涼『忍びの森』が光文社文庫から…ん? これは?


 漫画の方では、新作でなんと言っても注目は、映画第三弾が上映されたばかりの和月伸宏『るろうに剣心・裏幕 炎を統べる』。映画タイアップではありますが、それに留まらない作者ならではの作品です。
 そのほか、「お江戸ねこぱんち」で連載中の天体観測にまつわる美しい物語、ねこしみず美濃『猫暦』、原作を遙か彼方に置き去りにして爆走する森秀樹&半村良『戦国自衛隊』も第1巻が登場です。

 そしてシリーズものの新刊で目を引くのは、波津彬子『雨柳堂夢咄』第15巻。こういう表現は失礼かとは思いますが、前巻からたった1年で! というのはファンとして嬉しい驚きであります。

 そしてそのほかにも灰原薬『応天の門』第2巻、幸田廣信&太田ぐいや『蒼眼赤髪 ローマから来た戦国武将』第2巻、唐々煙『煉獄に笑う』第2巻、杉山小弥花『明治失業忍法帖じゃじゃ馬主君とリストラ忍者』第6巻、梶川卓郎&西村ミツル『信長のシェフ』第11巻、霜月かいり『BRAVE10 S』第6巻、荻野真『孔雀王 戦国転生』第2巻、とみ新蔵『剣術抄』第2巻、重野なおき『軍師 黒田官兵衛伝』第2巻…

 と、平安から戦国、明治時代まで楽しみな作品揃い。新刊を追いかけているだけで10月が終わってしまいそうな勢いであります。



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2014.09.22

『メイザース ソロモンの魔術師と明治の文豪』第1巻 近代合理精神と古怪な魔術と

 倫敦で孤独な日々を送る夏目漱石が出会った奇妙な男・マグレガー・メイザース。一見奇術師にしか見えない彼こそは、19世紀最高の魔術師だった。仲間であるクロウリー、ウェストコットとともに謎めいた動きを見せるメイザースに引きずられるように、漱石は奇怪な魔術の世界に巻き込まれていく…

 その道がお好きな方であれば、タイトルを聞いた途端に「おおっ」と思われたのではないでしょうか。
 『メイザース ソロモンの魔術師と明治の文豪』…メイザースで魔術師とくれば、言うまでもなく近代西洋魔術の確立者の一人であるマグレガー・メイザース。そして彼と接点があった(かもしれない)明治の文豪とくれば…そう、夏目漱石であります。

 1900年から数年間漱石が倫敦に留学していたこと、そして彼がその期間に神経衰弱に悩まされたことは、よく知られた事実でありましょう。
 フィクションの世界でも、この期間を題材とした作品はいくつかありますが(その代表は、やはり山田風太郎のあの作品でしょうか)、まさかここでメイザースと絡めてくるとは…と、コロンブスの卵的着眼点に驚かされた次第です。

 そんな本作のストーリーは、倫敦でメイザース、ウェストコット(!)、クロウリー(!!)と出会った漱石が、彼らと謎の集団「黄金の夜明け団」が繰り広げる魔術戦に巻き込まれていくというもの。
 「黄金の夜明け団」自体は、作中でも語られているように、メイザース自身が設立した魔術結社ではありますが、物語の舞台となる1900年の時点は、内紛を起こして分裂していた時期であります。

 なるほど、この時点でメイザースに対抗できる存在といえば、彼自身が設立し、追放される形となった結社がある意味適任でありましょう(悪役にされやすいクロウリーもこの時点ではメイザース側だったはずであります)。
 そしてメイザースにとっては宿敵・ライバルに当たるのがかの神秘主義詩人たるW・B・イェイツであり、アイルランドの古き神々の復活のために暗躍している…とくれば、これはもう史実(魔術業界的な)がどうであったかはともかく、諸手を挙げて歓迎するほかありません。


 正直なところ、この第1巻の時点ではオカルト的なガジェットや魔術戦の描写は、設定のユニークさに比べると…という印象ではあるのですが(むしろメイザースが食っていくために見せる魔術描写のとぼけっぷりが楽しい)、面白くなる要素は無数にあると申せましょう。
 何よりも本作における語り手(本作は、1906年の日本から倫敦時代を回想するというスタイルで展開)たる漱石――近代合理精神の象徴たる彼が、古怪な魔術飛び交う本作の物語においてどのような位置を占めるのか、どのような意味を持つのか、その点が大いに気にかかるのです。


 ちなみに作者の星野泰視は、『哲也 雀聖と呼ばれた男』のようにギャンブル漫画の印象が強いため、本作は少々意外に感じますが、以前にも魔術ものの『弑逆契約者ファウスツ』を連載している作家。
 その点からも、まずは期待してよいのではないかと思う次第です。


『メイザース ソロモンの魔術師と明治の文豪』第1巻(星野泰視 徳間書店リュウコミックス) Amazon
メイザース ―ソロモンの魔術師と明治の文豪― 1 (リュウコミックス)

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2014.09.21

『おそろし 三島屋変調百物語』 第4夜「魔鏡」

 早くも残すところあと2話、ラスト1話前となったTVドラマ版『おそろし』、今回のエピソードは、禁断の恋から生まれた因縁が込められた鏡にまつわる物語であります。鏡を見るのが恐ろしくなるかもしれない、という断りを入れて語られる物語が示すものとは…

 今回の物語の語り手は、三島屋の女中・おしまのかつて仕えていた先の娘・お福。今は幸せに暮らす彼女ですが、しかし彼女が生まれ育った実家は、既に滅んでしまったというのですが…

 上に年の離れた姉と兄がいたお福。病がちで彼女が生まれる前から江戸の外に療養に出ていた姉が10数年ぶりに帰ってきた時、悲劇の幕が開けることになります。

 お福とっては自慢の種だった、美男美女の姉と兄。一見仲むつまじい二人は、しかしいつしか互いに男女として惹かれあうようになっていたのでありました。

 それを知った店の老職人がお福の両親に注進したものの、激昂した父ともみ合う中、誤って熱湯をかぶって死亡。
 二人の関係が両親にも明らかになり、兄は修行の名目で店を出されることになったのですが――そんな中で姉は懊悩の末、自ら命を絶つのでした。

 そんな悲劇が続きながらも、兄が修行先の娘――姉とは似ても似つかぬ不美人で、しかしけたたましいほどに明るい女性――を嫁として連れ帰り、少しずつ明るさを取り戻し始めた店。
 しかし、姉が使っていた鏡――姉の遺品が処分される中、兄が隠していたその鏡を嫁に与えたことから、新たな、そして決定的な悲劇が始まることに…


 禁断の愛というなかなか難しい題材を扱った今回ですが、(クライマックスを除けば)直接的ではなく、二人の間のちょっとした描写で、ただならぬ関係が育っているのを示すのが印象的でありました。
 そしてクライマックスも、冒頭で語られた、黒絹の布団に白い肌の女性が…という何とも蠱惑的なビジュアルを、節度を守りつつ(?)やってくれたのは健闘と言うべきでしょう。

 その一方で残念なのは、肝心の怪異描写が今一つであったことであります。
 何よりも今回のメインとなるべき鏡の怪異が、特に見せ方の点で薄味というか…原作ではこの辺り、死者と生者の人格交換という厭な題材であったこともあり、ずいぶんと怖い印象があっただけに、何とも残念ではあります。

 ラストもちょっと良い話調に締めくくられたのは違和感がなくもありませんが、しかし「どうしようもなかった」という救いもある、という視点を示してくれたのは、これはなかなかに面白い点であったと思います。


 しかしこの回で最も盛り上がったのは、ラストシーンではありますまいか。
 実家にいたはずのおちかの兄が江戸に向かっているという知らせが入り、そして第2話に登場した凶宅事件の生き残り・おたかを襲う超常現象と「蔵が開いた」という彼女の言葉――

 これまでのエピソードが一つに繋がり、この物語の結末に向かってなだれ込んでいくという引きには、否応なしに次回への期待をそそられるのであります。



関連サイト
 公式サイト

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 「おそろし 三島屋変調百物語事始」 歪みからの解放のための物語

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2014.09.20

『鳥啼き魚の目は泪 おくのほそみち秘録』第2巻 二重のファンタジーの中のみちのく

 日本で最も有名な紀行文である「おくのほそみち」を題材に、常人には感じられないものが視える芭蕉と、天然気味の師匠の世話に奔走する曽良の凸凹コンビのちょっと不思議な旅を描く『鳥啼き魚の目は泪 おくのほそみち秘録』第2巻であります。ようやく仙台に入った二人を待ち受けているものとは…

 みちのくの歌枕を巡る旅に出たものの、あちこちに寄り道したり、おかしな事件に巻き込まれたりと、なかなか先に進めない芭蕉と曽良。
 それでもようやく二人は東北の雄・伊達家が治める仙台藩にたどり着くのですが…そこでも彼らは、これまで以上に厄介事に巻き込まれていくこととなります。

 その一つは、彼らを公儀の隠密と勘違いして警戒する人々の存在。
 なるほど、芭蕉は伊賀上野の出身であり、それ故に彼を忍者、隠密として描く作品は少なくありません。
 本作においても、俳諧を通じて柳沢吉保と縁があること、曽良も幕府神道方の流れを汲む者であることから、諸藩からあらぬ疑いをかけられることになります。

 そしてもう一つの厄介事は、芭蕉の前に現れる、人ならざる者たちの存在。
 これまでも芭蕉の前には様々なモノが現れてきましたが、この巻で彼につきまとうのは、何と宙を舞う三つの生首。あたかも伝説の舞首のように三人(?)ワンセットで空を飛ぶ彼らは、芭蕉の行く先々に現れては、役に立つのか立たぬのか、様々なことを語って行くのであります。

 かくて、現世の、そして幽世の、それぞれの障害に悩まされる――いや、(曽良はさておき)芭蕉の方はそんなことは全く意に介さず、マイペースなのですが――二人の珍道中が今回も描かれることになります。


 実に本作の魅力の中心は、この二つの世界の合間を往く二人の姿にあることは間違いないのですが、しかしこの巻で本作は、さらにドキリとするような要素を突きつけてくることになります。
 それは、芭蕉が求める「歌枕」と、「みちのく」なるものの関係性――「みちのく」という概念の実相と虚構の関係であります。

 これは作中でも明確に述べられることですが、なるほど「歌枕」とは、そのほとんどが実際にみちのくに足を運んだこともない都人が、想像の中で作り上げた「みちのく」に存在するもの。
 そしてその「みちのく」も、まつろわぬ者たちの地として、既に一度都の軍勢に平らげられ、併合されたものであり、その意味で歌枕の存在する「みちのく」は、二重にファンタジーの中の存在なのです。

 それでは真のみちのくは、どこにあるのか――それはある意味芭蕉にとっては旅の目的外でもあり、そして答えの出ない問題かもしれませんが、その難しい道に、芭蕉は徐々に踏み込んでいくように思えます。

 そしてそれはおそらく、舞首をはじめとするこの世ならざるモノたちが芭蕉に語りかける内容、そして彼の夢の中に繰り返し現れる謎めいた情景と、密接に結びついていくのでしょう。


 先に述べたように、現世と幽世という要素に加え、さらに「歴史」というある意味実に厄介な存在(本作の物語と同時期に、水戸光圀が「大日本史」を編纂していることは、実に示唆に富んで感じられます)に触れることとなる芭蕉の旅。

 波瀾万丈――というほど深刻にはならないのが、またこのコンビのよいところなのですが――の旅にまた新しい要素が加わり、これからいよいよみちのくの深奥に踏み込んでいく二人がこの先に何を見るのか…?

 おそらくそこに浮かび上がるものは、我々のよく知るものとはまた別の意味を持つ「おくのほそみち」でありましょう。これは想像するだに胸躍ることではないでしょうか。


『鳥啼き魚の目は泪 おくのほそみち秘録』第2巻(吉川うたた 秋田書店プリンセスコミックス) Amazon
鳥啼き魚の目は泪~おくのほそみち秘録~ 2 (プリンセスコミックス)


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2014.09.19

『なりゆき斎王の入内 この婚姻、陰謀なりけり』 神話の中に浮かぶ親と子の姿

 ほとんど顔も知らない父の命で伊勢の斎王にさせられた塔子は、父と姉が呪詛事件を起こした上に疫病で亡くなったため、斎王の任を解かれ、怨霊を鎮めのために東宮に入内することとなる。顔も見せない東宮に反発しながらも、呪詛事件に不審を抱いた塔子は、検非違使少尉の平暁とともに真相を探るが…

 少女小説のジャンルでは、ちょっと驚くくらいに平安ものが多く、それだけに思わぬユニークな作品があるのですが、本作もその一つと言えるでしょうか。
 周囲の状況に振り回されて斎王に、そして東宮(皇太子)のもとに入内する羽目になった元気印の女の子を主人公とした作品であります。

 主人公・塔子は、血筋こそ先帝の孫であるものの、親王である父には一切顧みられず、母の実家である熊野でのびのびと育った少女。
 しかし会ったこともない父に突然伊勢の斎王にさせられたと思ったら、その父と帝の女御であった姉が呪詛事件を起こしたという疑惑が。さらに二人がその直後に疫病で亡くなり、塔子はその怨霊を鎮めるため、東宮へと入内させられることになってしまいます。

 かくてなりゆきのままに振り回される彼女は、何とか東宮に嫌われて追い出されようと企むのですが…
 しかし当の東宮は彼女の前に全く顔を見せず、さらに父の政敵の子である近衛大将が親切顔で接近してくることに。そして、姉の子である五の宮の肉親の死に悲しみを見せようともしない態度に不審を感じた塔子は、果たして呪詛事件は真実なのか、探索を始めるのですが…


 平安もの少女小説の主人公にしばしば見られるように、本作の主人公・塔子は、姫宮としては破格の存在。御簾なしで男性と言葉も交わせば、馬にも乗る、そんな活動的な(?)ヒロインであります。
 そんな彼女が、献身的で心優しい検非違使の青年、優美ながら腹に一物ありげな近衛大将、子供の頃から憧れてきた熊野の宮司を務める叔父と、数々のイケメンに囲まれながら冒険を繰り広げるというのも、定番のパターンでありましょう。

 しかしそんな中で本作のユニークなのは、塔子が古代史・神話オタクであり、自分を含めた周囲の人物関係を、神話、なかんずく古事記の神々のそれに当てはめて考える点でしょう。
 この辺り、微笑ましくも少々イタイタしいものを感じてしまうのですが、しかしそんな彼女の態度の根底にあるのが、顔も見たこともない父や姉への複雑な感情であることが印象に残ります。

 なるほど、神話の世界においては、親と子の関係が、程度の差はあれ、特異に、奇異に感じられる場合があります。
 その身を疎まれて生まれてすぐに流されたヒルコとアワシマ。生まれ落ちる際に母を殺し、父に殺されたカグツチ。母を恋い慕って泣き騒ぎ追放されたスサノオ――
 そんな神々の子らの姿を自らの親子関係やなりゆきに翻弄される自分の運命になぞらえる塔子の姿は、彼女が破格でありつつもあくまでも年頃の少女であることを考えると、胸に迫るものがあります。

 そしてまた、そんな彼女の目が、呪詛事件の意外な真犯人を見出すという展開も、納得であります。


 先に述べた通り、パターンといえばパターンではあります(特に姿なき東宮の正体は、誰もがすぐに気付くのではありますまいか)。
 個人的には、期待していた伝奇的要素が全くなかったのも残念ではあります(これは勝手に期待した私が100%悪いのですが)。

 しかし、東宮が姿を見せなかったその理由など、シンプルながら物語の展開に照らして納得のいくものであったり、すぐ上で述べたように呪詛事件の真犯人の意外性や塔子の人物造形など、見るべき点も少なくない作品ではあります。

 思い切り続編に引く結末ではありますが…さてどうしましょうか。


『なりゆき斎王の入内 この婚姻、陰謀なりけり』(小田菜摘 エンターブレインビーズログ文庫) Amazon
なりゆき斎王の入内 ~この婚姻、陰謀なりけり~ (ビーズログ文庫)

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2014.09.18

『機巧のイヴ』(その二) 人と人形を分かつもの、人を人たらしめるもの

 人間と、人間と見分けのつかぬ機巧人形にまつわる奇怪な連作集、乾緑郎の『機巧のイヴ』の紹介の続きであります。全5話の物語はいずれも趣向が凝らされた内容で、実に作者らしく魅力的なのですが、しかし…

 そんな本作ですが、読み始めた時には、個人的にはいささか、いや大いに不満を感じました。それは前回述べたとおり、本作の舞台が、江戸時代とは酷似しながらも異なる世界の物語であった点であります。

 他の作家であればともかく、作者はこれまで冒頭に述べたように、時代小説離れした、特にSF的アイディアを(ちなみに表題作は『年刊日本SF傑作選 極光星群』にも収録され好評を博した由)、しかしあくまでも時代小説の枠の中で展開するという離れ業を見せてくれた作家。それなのに…

 というのはもちろんこちらの勝手な思いこみで、本作が時代伝奇ではなく、むしろ和製スチームパンクと呼ぶべきものと気付いて以降はこちらも割り切って読むことができました。
(そしてこれはこちらの勝手な想像ではありますが、中盤以降のとてつもない物語展開を考えれば、これはそのまま現実世界を舞台とするわけにはいかなかったのでは…とも)

 しかしそんなジャンルへの勝手な拘りなどが取るに足らないものだと思わせてくれたのは、冒頭から結末まで本作に通底する、そして最終話で頂点に達する問いかけの存在が、実に魅力的に描かれていたからにほかなりません。

 久蔵が生み出す、生きた人間と見紛う機巧人形。
 もちろんその内部はあくまでも機巧のそれであれど、人と同じ姿を持ち、人と同じ機能を持ち、そして何よりも人と同じ感情を持つ時、それは果たして本当に「人間ではない」と評することができるのでありましょうか。
(そしてそれは、作中のある人物の姿を通じて逆転した形でも問いかけられるのですが)

 人と人形を分かつものは何か、人を人たらしめているものは何か。そしてそれはどのようにもたらされるのか。
 人とよく似たモノを鏡として、人とは何かという問いかけを繰り返し描く本作は、むしろスチームパンクというよりは、フランケンシュタインの変奏曲と申せましょう。

 そして描かれるその答えの一端を見れば、本作で描かれるのはロマンチシズムに溢れた愛の歌であり――私はそれを大いに嬉しく思うものであります。


 そしてもう一つ、本作の舞台が現実の(過去の)世界ではなく、もう一つの世界であるのもまた、本作における人間と機巧人形の関係をなぞらえているのかもしれない…と感じるのも、あながち穿った見方ではないのかもしれません。


『機巧のイヴ』(乾緑郎 新潮社) Amazon
機巧のイヴ

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2014.09.17

『機巧のイヴ』(その一) 人と人の姿をしたモノの物語

 人間そっくりの機巧人形を作ることができるという幕府精錬方手伝・釘宮久蔵。彼のもとを訪れた仁左衛門は、馴染みの遊女を自由の身にしつつ、自分の手元に置くため、久蔵にその複製を依頼する。果たして彼女と瓜二つの機巧人形を手にした仁左衛門だが、やがてある疑惑が…(『機巧のイヴ』)

 これまでジャンルを越えたアイディアを投入した時代小説でこちらを驚かせ続けてきた乾緑郎が、これまたとてつもないアイディアで作り上げた、連作短編集であります。
 表題作である第1話のタイトルの元となっているのがリラダン『未来のイヴ』であることから察せられるように、本作で描かれるのは人造人間――それも美しき女性のそれであります。

 天府城に住まう将軍によって治められる、我々の世界の江戸時代とよく似た時代――その世界において、人間に、生物に瓜二つの機巧人形を作り出すことができるという怪老人・釘宮久蔵と、彼と共に暮らす謎めいた、しかしどこか無邪気な美女・伊武(いう゛)の二人を中心に、機巧人形を巡る五つの奇怪な物語が綴られていきます。

 心の中に別の男の面影を抱く女郎を救い、同時に自分のものとしようと人形製作を久蔵に依頼した男が知った真実『機巧のイヴ』
 城下町に聳える十三層の巨大楼閣を有する遊郭で生まれた心優しき相撲取りを翻弄する数奇な運命を描く『箱の中のヘラクレス』
 久蔵の秘密を探ろうと伊武に接近した公儀隠密・甚内が知った、天帝家と「神代の神器」を巡る恐るべき秘密『神代のテセウス』
 天帝の秘密を知る少女を追う甚内が巻き込まれた幕府と宮中の暗闘の果てに浮かび上がる驚くべき真実『制外のジェペット』
 天帝陵から発掘された「神代の神器」に込められた秘密と、久蔵の、伊武の秘められた過去が交錯し最後の戦いが繰り広げられる『終天のプシュケー』

 変格の人情もの的味わいのあった冒頭2話を経て、第3話以降は一気に物語はスケールアップ。久蔵と伊武を巡る過去の因縁と、幕府と宮中の暗闘が入り乱れる中、人と人の姿をしたモノの物語が展開していくこととなります。
(物体の同一性を問うパラドックスに名を冠される英雄、おそらくは丸太から命を持つ人形を作り出した老人、人間の魂を意味する名前を持つ美女…と、特に第3話以降のタイトルが実に意味深で面白い)


 しかし…(次回に続きます)


『機巧のイヴ』(乾緑郎 新潮社) Amazon
機巧のイヴ

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2014.09.16

『魂追い』 死と自分自身を繋ぐもの

 『生き屏風』で初お目見えした、村外れに住む妖鬼・皐月を中心とした不思議な物語を描くシリーズ第2作がKindle化されました。タイトルの『魂追い』とは、さまよう魂魄を捕らえて売る生業のこと。本作では、皐月がこの魂追いの少年・縁と出会ったことで、思わぬ旅に出ることとなります。

 とある村外れに愛馬の「布団」とともに暮らし、近づいてくる悪いモノから村を守る皐月。額の小さな角と人と異なる目の色を除けば、少女のような外見でありつつも、彼女は人を遙かに越える歳月を生きる妖鬼であります。
 といっても恐ろしい存在ではなく、彼女は時には人にいいように利用されてしまったりするお人好しで呑気な性格。しかしそれを気にすることなく、どこまでもマイペースに暮らしているのです。

 前作では、そんな彼女を狂言回しに、彼女の周囲で起こる様々な事件や出会いが連作短編的スタイルで描かれましたが、本作はそれとやや趣を変え、連作的ではあるものの、一つの長い物語が描かれることとなります。

 さて、本作で主人公的役割を務めるのは、冒頭で触れた「魂追い」の少年・縁。おじぃと二人旅の途中に皐月と出会った彼は、術を習うために彼女に弟子入りするのですが――

 ある事件で魂魄が漂う「道」に入り込んでしまったことが原因か、変調を来してしまった皐月。このままでは愛馬・布団と暮らすこともできないと、師匠の猫先生の助言を受け、皐月は縁を連れ、彼女の体を治す手段があるという「火の山」へと旅立つことになります。

 かくて旅立った二人が各地で出会った様々な人々や事件を描く本作は「魂魄の道」「鬼遣いの子」「落ち星」「火の山のねねこ」の四章構成。
 そしてその中で描かれるのは、前作同様、まるで絵本の中のようなカラフルで美しい不思議の世界なのですが――しかしどこか呑気で穏やかだった前作とは異なる部分が、本作にはあります。

 それは全編に漂う濃厚な「死」の香り――
 自らが死したもの、死を見つめ続けるもの、死を他者にばらまくもの…本作の登場人物の多くは、「死」と密接に関わる存在であり、そして当然の如く、展開する物語もまたそれと無縁ではありません。

 そもそも、縁の生業であり、本作のタイトルである「魂追い」からして、死してさまよう魂魄を捕らえ、時には自らそれを喰らう存在なのですから…


 その一方で描かれるのは、「自分が自分であること」、アイデンティティの問題であります。
 自分自身とは何か、自分が自分であることとはなにか――旅の中で出会う事件の中で、縁は、そして他の登場人物たちも、態度の差こそあれ、その問題と直面していくのです。

 そして、死とアイデンティティと――一見関係ないように見える両者を繋ぐもの、それこそが「魂」であります。
 それを失えば生命もまた失われるもの、そして誰もがただ一つだけ持つ存在の核…それこそが「魂」であり、本作は、その存在を巡る物語とも言うことができるのではありますまいか。


 その魂を巡る物語は、本作の結末において一つの結末を迎えます。
 しかしそれはあくまでも一時のもの。皐月の生がそうであるように、物語はまだまだ続いていきます。

 その先の物語――シリーズ第3作『皐月鬼』も近いうちに取り上げましょう。


『魂追い』(田辺青蛙 角川ホラー文庫) Amazon
魂追い (角川ホラー文庫)


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2014.09.15

作品修正更新

 このブログ等で扱った作品のデータを収録した作品集成を更新しました。5月から9月上旬までのデータを追加・修正しています。
 今回も更新にあたっては、EKAKIN'S SCRIBBLE PAGE様の私本管理Plusを利用させていただいております。
 ちなみに昨今のKindle化の影響で、絶版で書影が登録されてなかった作品の書影がずいぶんとAmazonに掲載されるようになりました。今回の更新で可能な限り反映したため、かなり賑やかになった印象があります。



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2014.09.14

『おそろし 三島屋変調百物語』 第3夜「邪恋」

 TVドラマ版の『おそろし』も、早いものでもう折り返し地点。この第3夜で自らの体験談を語ることになるのは、主人公であり、今まで聞き手であったおちか――これまで仄めかされてきた彼女が経験した事件、彼女が実家を出て江戸にやって来ることとなった事件がいよいよ語られることになります。

 休みをもらったにもかかわらず出かけようともしないおちか。女中頭のおしまは、そんなおちかを客として、これまでとは逆に彼女の話を語らせようとします。

 そして語られるのはおちか自身の物語――彼女の許婚・良助が、彼女とは兄弟のように育った松太郎に殺された事件の顛末であります。

 と、いきなり結末を語ったことである種の予断を持たせた上で、その印象をひっくり返してみせる――
 とは言わないまでも、そこに至るまでのそれぞれの心の動きを描くことでそこまでのドラマを盛り上げていくというのは、ある意味定番とはいえ、「語り」の物語ならではの手法と言えるでしょう。

 おちかが幼い頃のある冬、海辺の崖の松の木に引っかかっていたところを見つけられた松太郎。自分のことは何も語らず、凍傷がもとで右手の指を失った彼は、最初は心を閉ざしていたものの、おちかの両親や兄に家族同然に扱われ、やがてその生真面目な働きぶりから、周囲にも認められていくようになります。

 父や兄はそんな松太郎との縁談を口に出し、おちか自身も松太郎に好意を抱いていたのですが…しかしそんな善意と人情味溢れる家庭も、一皮むけば直接的な悪意以上に残酷な世界、というのは、これは実に宮部みゆき的展開と申せましょうか。

 家族同然とはいえ、あくまでも家族ではない。どこかで一線を引かれたまま、しかし表面上は恩と人情でがんじがらめにされていく松太郎と、そのことに気付きつつも見て見ぬふりをしていたおちか。
 あるいは時が経てばそのまま何事もなくその痛みはそれぞれの胸の中に収められて平穏無事に済んだかもしれぬものが、良助とおちかの縁談によって打ち壊されることとなります。

 良助が(多分に嫉妬から)松太郎に叩きつけた心ない言葉…それは事件の流れから見ればきっかけに過ぎぬものかもしれませんが、しかしそれこそは松太郎が最も心の中で恐れていたものであり、それを剥き出しに――それもおちかの前で――されたことこそが、全ての悲劇のもとでありましょう。

 そして惨劇の直後に松太郎がおちかに叩きつけた「俺のことを忘れたら許さねえ」という言葉は、怨念であると同時に、どこまでも哀しい自分の存在の意味を訴えかけた言葉となのではないでしょうか。


 松太郎が良助を殺したことのみならず、自分がその場で松太郎に殺されなかったことを深い心の傷として残すおちか。
 そのことが彼女をして、自分自身を無価値な人間と思わせることとなっているのですが…さて、松太郎の真意はそこにあったのか。


 忘れないこと、心の中に残すこと…その意味は、裏返せば人の価値、人が自分が生きていることの意味とイコールでしょう。

 そのことにいつかおちかは気付くことができるのか…
 おちか自身の過去が語られた以上に、物語の中間地点として、今回は大きな意味を持つように感じられます。

 超自然現象が描かれるわけではないのですが(ラストははっきりと蛇足と感じます)、しかしやはり「おそろし」という物語を構成する、おそろしいエピソードでありました。



関連サイト
 公式サイト

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2014.09.13

『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第1巻 怪異を蒐める男「八雲」がゆく

 新米巡査の一宮は、遊郭で「拝み屋」と称して怪しげな商売を営む不良外人の監視を命じられる。小泉八雲と名乗るその青年に接近するうち、相手のペースに巻き込まれ、共に行動することになった一宮。二人の前に現れるのは、超自然の怪異の数々――怪異を蒐集するという八雲の真意とは?

 マッグガーデンの「月刊コミックブレイド」誌でただいまプッシュ中の森野きこりによる連作怪異譚『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』の第1巻が発売されました。
 タイトルの時点でこれは面白そうだわいと期待していたのですが、なるほど、これはなかなか曲者の、ユニークな作品であります。

 物語の舞台は明治15年――故あって家督を弟に譲り、自分は家を出て東京で巡査となった一宮隆生は、遊郭で詐欺紛いの「拝み屋」として稼ぐ異国の青年と出会います。

 常に飄々と、人を食ったような言動のこの青年が名乗った名前は八雲――小泉八雲。
 八雲のペースに巻き込まれまいとした一宮は、人の精気を狙う女郎の幽霊に襲われ、危ういところを八雲に救われることになります。

 実は幼い頃から他人には見えないモノが「視」える一宮。そしてそんなモノにまつわる物語を蒐集することを目的としている八雲。
 八雲に煙に巻かれるうちに、コンビを組むような形となってしまった一宮は、八雲とともに様々な怪異に出くわすことに…


 という基本設定の本作ですが、もちろんその最大の特徴は、ゴーストハンター役を務めるのが「小泉八雲」であることでしょう。

 実のところ、八雲が実際に怪異に出くわす(そしてその経験が後に『怪談』等にまとめられる)という趣向は、それほど珍しいわけではありません。これまでこのブログでも四五作は紹介しているのではないかと思いますが、しかしその中でも本作がユニークであるのは、「八雲」がいわゆる不良外国人である点でしょうか。

 八雲といえば、日本文化への愛に満ちた温厚な知識人…というイメージがありますが、本作においては遊郭に流連けては、綺麗どころと酒を飲む、拝み屋と称して人から金を掠めとると、まことに油断ならぬ人物。
 一宮ならずとも身構えてしまうような相手ですが、しかし彼が怪異に対してだけは、一種真摯な態度を取るというのが実に面白いのです。


 しかし何よりも面白いのは――既に八雲の経歴に詳しい方はご存じかと思いますが――史実では八雲はまだこの物語の時点では来日していないことになっていることでしょう。
 果たして彼は密かに来日していたのか、それとも――そんなこちらの胸中を察したように、この巻のラストには八雲に意味深な言葉を投げかける人物が登場し、気を持たせてくれます。

 全てのエピソードが後の八雲の怪談に結びつくわけではないのはちょっと残念ですが(その処理もまたある意味ずるい)、しかしこの八雲の設定だけでも大いにそそられる…そんな、先の展開が楽しみになる作品であります。


『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』第1巻(森野きこり マッグガーデンブレイドコミックス) Amazon
明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲 1 (BLADE COMICS)

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2014.09.12

『かりそめの家』 幻の箱庭に浮かび上がる人のあるべき生

 ポプラ文庫ピュアフルより、もののけ小説アンソロジー『となりのもののけさん』が刊行されました。同レーベルの作家5人による短編が収録された豪華な一冊ですが、このブログとして気になるのは、小松エメルの『一鬼夜行』シリーズのスピンオフ『かりそめの家』であります。

 自称大妖怪の子鬼・小春と、妖怪もビビる閻魔顔の古道具店主・喜蔵の凸凹コンビを主人公とした『一鬼夜行』。しかし本作で主人公を務めるのは彼らではありません。
 主人公は百目鬼の多聞とその仲間の妖怪・できぼし――これまで数々の妖怪沙汰を仕掛けて喜蔵と小春を悩ませてきた側が主人公となるのです。

 はた迷惑にも、喜蔵たちと「遊ぶ」ために喜蔵の店・萩の屋にやってきた多聞とできぼし。しかし残念ながら(?)喜蔵は留守、そこで喜蔵と妹の深雪に化けた二人が店に入り込んだとき、一人の老人が妖怪沙汰の依頼を持ち込んできます。

 老人について出かけた二人がやがて辿り着いたのは元の萩の屋ですが、しかしそこで待ち受けていたのは、いささか意外な人物。
 そしてそこに現れた美しい娘・朔は、持参した箱庭にかけられた呪いを解いて欲しいというのですが…


 50頁ほどと、分量としてはそれほど多くはない本作ですが、しかしその密度は本編同様の濃さ。登場人物たちのやりとりの面白さも、そんな中で描かれる現実のシビアさも…そしてその中に浮かび上がる暖かい希望の光も、本編同様であります。

 短編ゆえ、なかなかこれ以上の内容の紹介は難しいところではあるのですが、本作の物語は、キーアイテムである箱庭――ある人物の強い想いが宿り、それ自体が小さな世界と化した箱庭――を軸に、様々な要素が対比して描かれることとなります。

 それは現在と過去であり、現実と虚構であり、生者と死者であり、流れ続ける限りない時と繰り返される限られた時であり…しかしそこに浮き彫りとなるのは、シンプルな、しかしそれだけに重い問いかけ――「人が生きるとはどういうことなのか」であります。

 そしてシリーズの読者であれば、この問いかけが、シリーズの中に脈々と流れるもの、様々な形に姿を変えつつも描かれてきたものであることをご存じでしょう。
 スピンオフとは言い条、本作もまた、見事に『一鬼夜行』なのであります。

 上に挙げた問いかけに、本作がどのような答えを出したか…それはもちろん、ここでは記しません。
 しかし結末で描かれるヒロインの想いが、行動が、何よりもそれを雄弁に語っている、とだけは申し上げてもよいでしょう。

 本シリーズは、11月に発売される第6作において、いよいよ第一部のクライマックスを迎えるとのこと。
 そこに何が待つか…それはもちろんまだわかりませんが、本作を読めば、きっとこちらの期待が裏切られることはないだろうと、そう感じられるのです。


 と、当ブログの性格上、本作のみの紹介となってしまい恐縮ですが、冒頭に述べたように、『となりのもののけさん』に収録されたのは、このレーベルの人気作家の作品ばかりが集められています。
 そしてまたそれは、現在黄金時代を迎えている妖怪小説の最先端が集められていることとイコールであり、同好の士にお勧めしたい一冊であります。

 そして表紙から各作品の挿絵まで、本書を貫くものとして存在する、さやかのイラストにも、ご注目いただきたいところです。


『かりそめの家』(小松エメル ポプラ文庫ピュアフル『となりのもののけさん』所収) Amazon
(P[ん]1-18)となりのもののけさん (ポプラ文庫ピュアフル)


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2014.09.11

『恋する狐』 優しい眼差しと蕪村の微笑み

 折口真喜子の第一作『踊る猫』については、以前このブログで取り上げましたが、その続編ともいうべき作品が刊行されました。前作同様、かの与謝蕪村を狂言回しに、あやかしや不思議の入り交じった世界を優しい視線で描く全九編が収められた短編集であります。

「蛍舟」「いたずら青嵐」「虫鬼灯」「燕のすみか」「鈴虫」「箱の中」「鵺の居る場所」「ほろ酔い又平」「恋する狐」と、本書に収録された作品に共通するのは、有り体に言ってしまえば、蕪村が顔を出すことのみ。

 彼自身が主人公となることもあれば、別の主人公を支える役割となることもある。時には一場面に顔を出すのみということもある…とその程度も様々なのですが、それだけ本書に収録された作品たちは融通無碍な、バラエティ豊かな内容であるということは間違いありません。

 しかしその中にも共通する点が――前作とも共通する点が――存在します。
 それは、本作に登場する全ての存在…生きている人間はもちろんのこと、亡くなった者や人外の妖、動物や時に器物まで、いや自然の風物まで、全てが等しくこの世に住む住人であり、そして皆隣人であるという、優しい眼差しなのであります。

 そして作者の分身として、その眼差しを持って作品に登場するのが、蕪村であることは言うまでもありません。
 自身が決して平坦な生を生きてきたわけではない蕪村が、しかしそれだけに様々な機微を知った視点で見つめるこの物語世界は、それだけに優しく、また美しいのであります。

 そしてその蕪村の、人生や美に対して語る滋味あふれる言葉もまた、本作の大きな魅力でしょう。

 例えば、蕪村が知り合った子供に語る言葉――

「絵描いたり、唄ったり、踊ったりするんは、じっとしてられへんからや。(中略)だからな、この絵はおっちゃんの気持ちが溢れ出たもんなんや。だからなんかの役に立つか、いうたら別になくてもええもんやねん。でもな、うれしいとき飛び跳ねられへんかったらなんや納まり悪いやろ? この絵もな、おっちゃんは描かずにはおられんかったんや」

 これは、この世に芸術が存在する、何よりの理由でありますまいか。


 そんな本書の中で私にとって特に印象に残ったものといえば、「鈴虫」と「箱の中」でしょうか。

 前者は、ひとりでに唸りを挙げ、他の刀を折ってしまうといういわゆる妖刀を巡る人間模様を描いた作品。
 (おかしな表現ですが)他の作者であれば惨劇に終わりかねないシチュエーションなのが、実に本書らしい「美」の世界を浮かび上がらせた上で、何ともすっとぼけた結末を迎えるのが何とも楽しいのです。

 後者は、祖母が封印した箱を開けた少女が、そこに隠された「真実」を通じて、自分のルーツにも繋がる二つの愛のあり方を知る物語。
 そこで描かれるものは、時代小説の題材としては決して珍しいものではありませんが、しかしここにおいては、格別に優しい形で描かれていると感じられるのです。


 決して派手さはありませんし、人によっては穏やかすぎると感じる方もいるかもしれません。

 しかし本書に描かれた世界の優しさ、暖かさは、他では得られぬ無二のものであり、読んでいるうちに自然と微笑みが浮かんでしまうようなそれに、何とも言えぬ愛おしさを私は感じます。

 そしてまたこうも感じるのです――その微笑みは、作中で蕪村が浮かべるそれと、きっとよく似ているだろう、と。


『恋する狐』(折口真喜子 光文社) Amazon
恋する狐


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2014.09.10

『十 忍法魔界転生』第5巻 本戦開始直前、ゲームのルール定まる

 気がつけばついに第5巻となった「十 忍法魔界転生」。転生衆が集結し、主人公が登場し、ついに両者が出会い――しかしすぐには始まらない真の戦い。本戦の前に行われるべきは、ゲームのルールの設定であります。

 地底の魔窟から逃れた三人娘を追う転生衆。彼女らを逃がすべく捨て石となった三人の大達人は次々と命を落とし、かろうじて木村助九郎のみが、孫娘たちを連れ、柳生庄の十兵衛のもとに逃げ込んだ…というのが前巻のあらすじ。

 この巻では、柳生館に迫る魔人たちに対し、ただ一人十兵衛が立ちふさがる場面から始まるのですが…しかしいくらなんでもこれは無謀だ。
 この時点で十兵衛が敵の正体に半信半疑とはいえ、その放つ剣気・殺気・妖気は尋常ではありません。事実、十兵衛が冷や汗まみれとなるという、信じられないような姿を、我々は見ることとなります。
 が、そのような状態であっても、なおも臨戦態勢を取るのは、さすがは十兵衛というべきでしょうが――

 この対決は諸事情により水入りとなりますが、しかし両者がこれで収まるはずはありません。
 十兵衛側は、助九郎たちの仇である転生衆を討ち、そして紀州藩を救うため…
 そして転生衆側は、目撃者たちの口を封じ、そして最後の転生衆たる十兵衛を仲間に加えるため…

 単純に勢力・戦力だけでいえば、どう考えても転生衆が――いや紀州藩が有利であります。しかしそこにそれぞれの思惑を絡め、そうそう簡単に勝負をつけさせない状況を作り出すのは、原作者の得意とするところ。
 ここから始まるのは一種の神経戦、頭脳戦でありますが、これが武器を取っての戦いに負けず劣らず面白く、盛り上がるのであります。

 特に上に挙げた思惑のうち、最後のそれが実にうまい。これによって――そして彼らの武芸者としての本能によって――十兵衛と転生衆の一騎打ちというスタイルが、無理なく成立することになるのですから。

 そしてほとんど会話のみのこのルールの設定のやりとりが、盛り上がるのは、原作の見事さ――だけではなく、それを様々なビジュアルで盛り上げるせがわまさきの筆によるところが大きいことは言うまでもありますまい。

 特に今回は、十兵衛が単身頼宣らのもとに推参した場面に代表されるように、人物を影絵のようにシルエットのみで描く手法が抜群にいい。
 作者はCGによる作画を得意とするところですが、そこに影絵のようなシンプルな描写を入り混ぜるというのもまた、取り合わせの妙というべきでしょう。


 そしてついにゲームのルールは定まり、転生衆側には根来衆、十兵衛側には柳生十人衆、そしてある意味ワイルドカードともいうべき少年・関口弥太郎も加わって、参加者も勢ぞろいしました。
 もちろんゲームといってもかかっているのは己の命。そしてそのゲームの一番手は、というところで次の巻に続きます。

 …にしても、ようやく戦いが始まるまでで5巻というのは、原作の分量からしてそうなのですがやはり少々驚かされます。甲賀と伊賀の忍法合戦なら始まって終わるくらいの分量なのですから――


『十 忍法魔界転生』第5巻(せがわまさき&山田風太郎 講談社ヤンマガKCスペシャル) Amazon


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2014.09.09

『信長の忍び』第8巻 二つのクライマックス、二人の忍び

 前回紹介した『信長の忍び外伝 尾張統一記』第1巻と同時に、『信長の忍び』本編の最新巻も発売されました。その第8巻で描かれるのは、徳川家康と武田信玄が激突した三方原の戦。そして信玄を巡り、信長の忍び・千鳥は恐るべき強敵と激突するのですが…

 これまでほとんどの場合、信長の近くで戦ってきた千鳥ですが、この巻ではほとんど全編、信長のもとを離れて活動することとなります。

 大げさに言えば、それではタイトルに偽りあり、かといえばもちろんそんなことはなく、彼女が向かった先は、進撃する信玄を迎え撃つ立場にある、信長の同盟者・家康の陣。
 そしてこの時期に信長を窮地に陥れていた包囲網の要が信玄であったことを思えば、これもまた、信長の忍びの戦いであることは間違いありますまい。

 そんなこの巻のクライマックスは、もちろん三方原の戦でありましょう。
 徳川軍と武田軍、ともにこれまであまりメインになることのなかった両者ですが、今回はこれまでの分を一気に取り返すかのように大活躍。本作らしく史実をきっちりと踏まえながらも、そこに一ひねり二ひねり(ギャグを)加えてキャラを立ててくる手法はもちろん健在で、武田四名臣など、ずっと以前からいたような存在感なのが楽しい。

 楽しいといえば、これまでどちらかといえば地味な存在だった家康も大活躍。三方原の家康といえば…な、あのイベント(?)も容赦なく発生しますし、(『尾張統一記』にもちらりと顔を出していましたが)正室の瀬名(築山殿)の富んだヤンデレっぷりも見事なのであります。


 しかし――この巻の史実上のクライマックスが三方原の戦だとすれば、千鳥の物語のクライマックスはむしろその後、であります。

 戦ののちに不可解な動きを見せる武田軍にある疑念を抱き、甲州に潜入した千鳥。そしてその前に立ちふさがるのが、信玄の忍び・望月千代女であります。

 実在の(?)忍びである千代女ですが、本作で描かれるその姿は――本作らしい、ちょっと間の抜けたところもあるものの――千鳥よりもはるかに忍びのイメージに近い、すなわち非情の存在。
 千鳥であればできない、あるいは躊躇うであろう手段を使ってくる彼女は、ある意味ネガの千鳥とも言うべき存在なのであります(共通するのは、共に主君に絶対的な忠誠と敬愛を抱いている点でしょうか)。

 そんな自分と互角以上の相手との対決の末に千鳥を待つ運命は…
 いやはや、比叡山焼き討ちの際もそうであったように、時に驚くほど冷徹な描写も躊躇わずに投入してくる本作ですが、まさかここでこう来るとは、と驚くような展開。

 正直に申し上げれば――本作の可愛らしい絵柄であってすら――かなりキツい展開なのですが、ここで助蔵が思わぬ意地を見せ(今回どう考えてもフラグを立てまくりなのですが、さて)、物語は、そして歴史は大きく動き出すこととなるのですが…
 ここで次巻に続く、というのが何とも心憎いところであります。


 ちなみに巻末には、連載150回記念小説として雑誌掲載された西尾維新による短編「りぽぐらの忍び」を収録。
 タイトルどおりリポグラム…というよりむしろその逆の千鳥が(ある意味)出ずっぱり状態ですが、武田軍の側から描くことにより、千鳥を得体の知れぬ存在として描く試みはなかなかユニークでありました。

(個人的には「剣士」「剣士」と連呼されているのが色々な意味で気になりましたが…)


『信長の忍び』第8巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び 8 (ジェッツコミックス)


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2014.09.08

『信長の忍び外伝 尾張統一記』第1巻 内憂外患、若き日の信長

 いまや戦国四コマ屈指の描き手となった重野なおきの、新たな戦国四コマが単行本化されました。それが『尾張統一記』…サブタイトルにあるとおり本作は『信長の忍び』の外伝、うつけと呼ばれた若き日の織田信長が、尾張を統一するまでを描く(であろう)作品であります。

 本作の物語が開始されるのは、信長が13歳の時点――いわゆるうつけ者として大暴れしていた時代からであります。

 当時の信長の父・織田信秀の置かれた状況については、歴史に詳しい方であればよくご存じかと思いますが、簡単に言えば内憂外患。
 内に(上に)尾張守護代の清洲織田家と同輩の三奉行という油断のならぬ相手を抱え、外からは今川家、斎藤家という大敵が虎視眈々と狙い…尾張一国が統一されるどころか、いつ滅ぼされてもおかしくない状況であります。

 そんな複雑な情勢の中、うつけ者であった信長が戦国大名として、人間として成長し、次第に頭角を現していく様が、本作では描かれることとなります。

 思えば、歴史もので信長が描かれるのは、圧倒的に桶狭間の戦以降が多い、と申せましょう。
 実際、本作の正伝である『信長の忍び』もほぼこの時点から始まる物語でありますが、やはり一世の風雲児のデビュー戦として、圧倒的に不利な状況からの桶狭間での逆転勝利は、見事にはまっているということでしょう。

 しかし、それ以前の信長の戦いも、それに負けずにドラマチックであることは間違いありません。
 上記のような状況から、帰蝶との出会い(はフィクションが入っていると思いますが)、父との別れ、後々まで彼を支える家臣たちの登場等々…

 「信長公記」などの史料を踏まえつつも、そこにきっちりと四コマのオチとしてのギャグを交えていく作者の手法は本作も健在、ニコニコゲラゲラしながらも、いつしか信長の活躍に引き込まれていくという、四コマ漫画としても、歴史漫画としても一級の作品であります。
(既に俗説とされている狙撃手交代の三段撃ちではなく、鉄砲交換撃ちを、典拠を明示しつつ使ってみせるのには痺れます)


 そんな本作の第1巻の時点で特に印象に残ったのは、帰蝶と信秀、信長にとって最も近しい二人の存在でしょうか。

 本編の方でも天然ながら時に鋭くそして暖かいキャラクターを発揮している帰蝶ですが、本作においても出会ったばかりの信長を包み支える魅力的な女性として描かれているのが印象に残ります。

 そしてこの第1巻のドラマを攫っていった感があるのが信秀であります。
 時に信長のうつけぶりに頭を痛め、時に信長に戦国の先達として厳しい指導を行いつつも(そして困った好色オヤジとして描かれつつも)、父として信長を見守ってきた信秀。
 そんな彼の想いが一気に爆発する場面は、本書でも随一の感動シーン、泣かせどころ。いやはや、笑わせてもらうつもりが泣かされるとは…これは嬉しい裏切りであります。


 この信秀に代表されるように、本編に登場する前に世を、表舞台を去った人物は少なくありません。本作では、そんな人物にも注目してこの先も展開していくのでしょう。

 桶狭間の戦は、信長27歳の頃、まだこの第1巻のラストの時点からは10年以上先となります。
 そこに至るまでに何が描かれるのか…家督争いでの大波乱の予感も描かれ、この先も本編ともども、どのように歴史を料理してみせるのか、大いに気になる作品であります。


『信長の忍び外伝 尾張統一記』(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
信長の忍び外伝 尾張統一記 1 (ジェッツコミックス)


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2014.09.07

『おそろし 三島屋変調百物語』 第2夜「凶宅」

 先週より放映開始となりましたドラマ『おそろし 三島屋変調百物語』、プロローグ的位置づけの前回に続き、今回からいよいよ変調百物語のいわば本編に入るわけですが…今回のエピソードは原作でも最も恐ろしかった「凶宅」。最初にしていきなり変化球のエピソードであります。

 叔父・伊兵衛のたくらみ(?)で三島屋に持ち込まれる怪談・奇談の聞き手となる羽目になったおちか。その初回となる今回の語り手として店に現れた女・おたかは、「お化け屋敷の話」と称して、自分の子供時代の話を始めることとなります。

 流しの錠前職人だったおたかの父・辰二郎が偶然足を踏み入れた安藤坂にある屋敷。そこで彼は、番頭を名乗る男から、珍しい木造の錠前の鍵をこしらえて欲しいという依頼を受けることとなります。その錠前を妻子には見せてはいけないという奇妙な注文とともに。
 自分の手には負えないと錠前を師匠の清六のもとに持ち込んだ辰二郎ですが、清六はその錠前に尋常でないものを感じ、ついには火の中に投じてしまいます。火の中に浮かぶのは、錠前に刻まれた怪物が蠢く姿…

 この時点でなかなか厭な話ですが、しかし物語はまだ続きます。錠前の償いに、あの安藤坂の屋敷に一年間、家族を連れて住むことを番頭から持ちかけられた辰二郎は、報酬の百両につられ、嫌がる妻を説き伏せて一家で越してくることになります。
 これだけ見ると百両という大金につられたように見えますが、しかしどう考えてもこの時点で辰二郎は何かに魅入られていたのではないか、と感じてしまうのは、移り住んだ後に新しい錠前を幾つも幾つも作っていく彼の姿から感じられるのですが…

 さて、これから先、どんなおそろしい事件が待ち受けているのだろう、というこちらの思いは、しかし、おたかの言葉によってあっさりと裏切られます。一年が過ぎ、それでも彼女の一家は屋敷に「今でも住み着いている」という言葉に…

 ここから先はどんでん返しの連続なので詳細は避けますが、おたかの異様な「変貌」(演じる小島聖が真剣に怖い!)から、おたかの語りの途中で何度か描かれた、現在の三島屋の外で何やら慌ただしい事態の意味がわかり、そして何段重ねもの「真実」に雪崩れ込んでいく様は、お見事というほかありません。

 これは色々な意味でネタバレになってしまい恐縮なのですが、あの『シャイニング』の時代劇版と申しましょうか…
 もちろん原作の出来の良さもあるのですが、この場面のインパクトはやはり絶大で、過去のおたかのピンポイントの演技も相まって、雪の降る中に浮かび上がる一つの「真実」の姿には震え上がるばかりでした。
(焼死体のアップはさすがにやりすぎ感は否めませんが…地上波での放送はどうするのかしら、という余計な心配が)

 冒頭でこのエピソードを変化球と申し上げましたが――そしてその印象は、実は原作初読の時点から持っていたのですが――こうして映像で見直してみると、「語り」という本作ならではの趣向を逆手にとってみせた構成の巧みさに感心させられた次第です。


 それにしても「今でも住み着いている」とは…



関連サイト
 公式サイト

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2014.09.06

『刀伊入寇 藤原隆家の闘い』 荒ぶる魂が見つけた戦いの理由

 中関白家の藤原隆家は、心に荒ぶるものを秘め、強敵を求める気性の持ち主だった。花山法皇や藤原道長との闘乱に明け暮れる隆家だが、そんな彼にある目的を持って、法皇に仕える「鬼」が近づく。時は流れ、隆家が自ら望んで任官した九州に、異民族・刀伊が襲来する。果たして刀伊を率いる者とは…

 主に江戸時代を舞台に、細やかな情の世界を描いてきた印象のある葉室麟が、平安時代を舞台に、それも異民族の襲来を描いた作品であります。
 タイトルから一目瞭然のとおり、題材となるのは1019年の刀伊の入寇、主人公はこれを撃退した藤原隆家。歴史の教科書ではほとんど一行で済まされそうな、しかし史上かつてない大事件を、本作は独自の視点から描き出します。

 関白として権勢を誇った藤原道隆の子であり、貴公子として、文人としても名を残す隆家。しかし個人的には隆家と聞くとまず思い浮かぶのは、花山法皇の輿に矢を射かけたというとんでもない逸話であります。
 一体何をどうすればそんなことをしでかすのか…と、今まで隆家に対するイメージは、控えめに言っても芳しからざるものがあったのですが、本作はそうした彼の行状を踏まえつつも、全く新しい隆家像を示しております。

 本作の隆家は、名家の貴公子であり、それに相応しい品格と知性を持ちつつも、それ以上に心の中に、荒ぶる、満たされぬものを抱えた男として描かれます。
 彼の求めるのは、父や兄が行ってきたような地位や身分を求める政争ではなく、己自身の力を以てする闘争――「どこかに強い敵はおらんものかな」と呟いてしまうような、そんな男であります。

 本作はそんな彼と刀伊との、まさしく運命的な戦いを、二部構成で描き出します。
 第一部の舞台となるのは、刀伊入寇のはるか以前、隆家の青年期。朝廷におけるライバルたる道長や、父からの因縁で敵対する花山法皇との闘争と、その中で中関白家が没落していく様が描かれるのですが――

 一見、刀伊の入寇とは無関係に感じられるこの時期の物語が、意外にも伝奇的趣向を以て展開していくこととなります。

 花山法皇に仕える謎の剽悍な男女たち――鬼とも護法童子と呼ばれる者たち。隆家の前に幾度となく立ちふさがる彼らを、かの安倍晴明が指して告げた名こそは…!
 さらに、その中の美女・瑠璃が隆家に接近、二人の出会いは、後々になって隆家の、そしてこの国に対して、運命的な影響を与えることになるのであります。

 正直なところ、作者の作品でここまで伝奇的な趣向を味わうことができるとはと、大いに驚喜した次第です。


 そして第二部で描かれるのは、いよいよ刀伊の入寇。刀伊の存在を知り、自ら望んで太宰権帥となった隆家が、刀伊の大軍に対して繰り広げる、因縁の戦いの結末が描かれることとなります。

 その因縁とは何か、そして最後に隆家が見たものが何か…それはここでは触れません。
 代わりに隆家にとってこの戦いが何のためのものであったのか、それを述べるとすれば――それは、彼が彼自身であることを見出すための戦いだったのではありますまいか。

 若き日から、何かに突き動かされるように戦いを求めてきた隆家。法皇や道長といった権力者に対して、時に蛮行とすら言えるような戦いを挑んできた彼の心の中にあるのは、しかしどこか虚しさに似た想いであります。

 自分は何のために、何を求めて戦うのか? そんな隆家の想いは、言い換えれば、何のために生きるのか、ということとなりましょう。
 自らの生まれた境遇に飽きたらず、(それゆえに)荒ぶる心を持ってしまった彼が、刀伊の戦いに際して見出した戦う理由――地位のためでも名誉のためでもなく、単純な愛国心のためでもないそれは、それ自体が感動的なものではありますが、しかし私にはそれ以上に、彼がそれを見出したことこそが、感動的に感じられるのであります。

(そして最後の戦いの勝敗を分けたものは、その理由の有無であった…と感じるのはあながち穿った見方ではありますまい)


 史実を伝奇的に味付けし、迫力ある戦いの絵巻を描きつつも、その中に一人の迷える男の魂の遍歴を浮かび上がらせる――やはり本作もまた、作者ならではの作品と感じるのであります。


『刀伊入寇 藤原隆家の闘い』(葉室麟 実業之日本社文庫) Amazon
刀伊入寇 藤原隆家の闘い (実業之日本社文庫)

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2014.09.05

『石燕妖怪戯画 妖怪絵師と夢追う侍』 曖昧なる妖怪を求める青春ミステリ

 父と衝突して家を飛び出した青年・石川硯は、入った飯屋で妖怪談に異常に興味を持つ同年代の若者・佐野豊房(後の鳥山石燕)と出会う。豊房に引きずられ、三味線が勝手に歩き出し姿を消したという寺に忍び込む羽目となった硯は、そこで成り行きから事件の真相を推理することになるのだが…

 先日もこのブログで述べたように、いま妖怪時代小説の世界では、妖怪絵師として知られる鳥山石燕がプチブーム。今年になってから、石燕を主人公(物語の中心)とする作品(シリーズ)が3つも出たのですから、これは注目すべき現象ではありますまいか。
 さて、その3つ目の作品が本作――これがデビュー作となる作者による、なかなかにユニークな時代ミステリであります。

 作品によって様々な時期の、様々な姿で描かれる石燕ですが、本作で描かれるのは、まだ石燕と名乗る前、本名の佐野豊房を名乗っていた時代の姿。世間の常識にはからっきし疎く、怪談の類を聞くと、そこから本物の妖怪に会うことができるのではないかと大喜びし、不法侵入も辞さないという、何とも困った妖怪馬鹿であります。

 そんな豊房とコンビを組むことになるのは、彼よりわずかに年下の青年・石川硯。御家人である父は書道家として知られ、自分も書を能くしながらも、しかしそれにあきたらず、書ではなく書物を書きたいと夢見る青年です。
 しかし夢は多くとも硯はあくまでもごく一般的な常識人。そんな彼が、特殊な非常識人の豊房に引きずられ(時に豊房のストッパーになり)つつ、豊房が嗅ぎ付けた妖怪絡みの事件の謎を解く羽目になる…というのが、本作の基本スタイルであります。


 妖怪(時代)小説と一口にいってもそのアプローチは様々、最近は妖怪たちと人間が共存しながらの騒動を描くものが主流ですが、人間が妖怪を退治するものももちろんありますし、逆に妖怪はほとんど登場せず、あくまでも一種の象徴的に扱われる作品もあります。
 本作がそのうちどのパターンに属するかは、未読の方の興を削いではいけませんのでここでは伏せます。
 しかし、後に石燕が題材とする妖怪たち――沙弥長老、鉦五郎、骨女にまつわる事件に挑むという趣向自体はある意味お約束でありつつも、対照的なキャラの豊房と硯がコンビを組んで賑やかに事件を解決していく様は文句なく楽しい、とは言っても良いでしょう。
 冒頭に述べたとおり、本作はこれがデビュー作の新人ですが、とてもそうとは思えないほど、こなれた筆運びの作品であります。


 そして本作の最大の魅力は、妖怪ものとしての面白さやキャラの楽しさ、ミステリとしての趣向だけではなく、妖怪を通じた青春小説、成長小説としての側面でしょう。

 世の中の常識に縛られない妖怪馬鹿の豊房、それとは正反対に四角四面に生きる生真面目な硯…それぞれに自分のスタイルを持ち、その道を真っ直ぐに行くように見える二人ですが、しかしその実、二人の中には、青年らしい悩みと迷いが溢れています。

 自分らしさとは何なのか、世間とは、常識とは何なのか。自分は今何ができて、この先どう生きていくのか…
 確たるものが見つけられず、曖昧なものに流されるように生きていく自分自身への疑問。それは青春時代には誰もが――おそらくは江戸時代も現代も変わりなく――経験する悩みでしょう。

 そして本作においては、「曖昧なもの」の象徴こそが、妖怪なのであります。
 妖怪を目撃して絵に表そうとすること、妖怪話に潜む真実を暴こうとすること――一見相反するそれぞれの行為は、等しく自分自身を確たるものとして見いだそうとする、青春のあがきなのです。

 その辺りの青さが――特に作者が自分自身を投影していると思しき硯の姿が――気になる向きもあるかとは思いますが、私はそんな味わいが嫌いではありませんし、妖怪小説として見事なアプローチと感じます。


 …が、どうにもいただけないのは、作中の考証がどうにも甘く、語法などに誤りが目立つ点であります。
 いちいちここでその箇所を挙げることはしませんが、個人的にはその辺りはあまり気にしない私でも気になってしまうほど、本作にはミスが散見されます。

 他の部分では相当調べて書いているのがわかるだけに、あるいは私が知らないだけかもしれませんが、少なくともより一般的で誤解を招きにくい言葉があるのであれば、そちらを採るべきではありますまいか。
 気になる部分が基本的に全く本質的ではない箇所ばかりのため、なおさら勿体なく感じたところです。


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石燕妖怪戯画 ?妖怪絵師と夢追う侍? (竹書房文庫)


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2014.09.04

『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(その二) 『首斬り門人帳』完全版

 廉価版コミックとして発売された高瀬理恵の作品集『豪の剣 闘の剣』の紹介の続きであります。今回ご紹介するのは、全8話の連作シリーズ『首斬り門人帳』。表紙に「完全版」と銘打ってあるとおり、これまでの単行本には全話が一度に収録されていなかったものが、今回一冊にまとまっています。

 さて、「首斬り」とはなんとも物騒に感じられますが、それは本作の主人公・神崎又平の師匠が、代々幕府の御様御用(刀剣の試し斬り役)を務め、そして何よりも町奉行所の依頼で斬首役を務めたことから首斬り浅右衛門と異名を取った、山田浅右衛門であることによります。
 山田浅右衛門の史実については、本書に収録された作者自身の文章で詳しく解説されているのでここでは触れませんが、江戸時代前期から明治時代まで代々名前が受け継がれた中で、本作に登場するのは、江戸時代後期の六代目吉昌となります。

 シリーズ第1話となる「正邪の剣」で描かれるのは、この師弟の出会いであります。
 旗本の次男坊に生まれながらも、得意の刀剣目利きで小遣いを稼ぎ、賭場に入り浸る毎日の又平。ある日、無銘ながらも優れた刀を見つけた又平は、刀を巡って賭場の用心棒と諍いになり、窮地に陥ったところを浅右衛門に救われることになります。
 この事件で浅右衛門に心服した又平は、首斬り浅右衛門の門人となり――そして彼の経験する事件の数々を描くのが、本作『首斬り門人帳』なのであります。

 そんな本作は、しかし意外なほど斬首にまつわるエピソードは少なく、浅右衛門の本業であるむしろ刀剣目利きにまつわるものの方が多い印象もあります。
 しかし本作の場合、それが良い具合に物語にバリエーションをつけ、そして爽やかな読後感を与えるものが多いと感じられます。

 直情径行でまだまだ青い又平の奮闘を、既に完成された人格の浅右衛門が暖かくも厳しく見守るという図式が面白く、いささか物騒なタイトルとは裏腹に、むしろ人情味豊かな活劇が一話完結で展開されていくのが、実に良いのです。
 ちなみに第6話の「刀守り」は、後に作者の『公家侍秘録』で活躍する刀守り・天野守武の初登場する作品であり、その意味でもファンには必見の作品であります。


 さて、冒頭でも触れましたが、本作は「完全版」と銘打たれた内容。というのも、本作はこれまで二度単行本化されているものの、実はそれぞれで微妙に収録作品が異なっているのであります。

 本書に収録されたのは「正邪の剣」「男の顔」「首斬り無用」「助太刀無用」「折紙無用」「刀守り」「竹光侍」「冥府からの刺客」の全8話。
 このうち、旧版の単行本には「冥府からの刺客」が収録されておらず、新装版には「首斬り無用」「助太刀無用」が収録されていないという状況だったのが、今回ようやく全編が一箇所に収録されたことになります。

 私が持っているのは新装版の単行本だったのですが、おかげで読み逃していた2話のうち、特に「助太刀無用」は、又平を振り回す敵討ちの侍のすっとぼけたキャラと意外な結末が実に面白く、今回読めたことを感謝したいところです。


 単行本未収録作品と完全版と――廉価版コミックとはいえ決して油断できない、ファン必見の一冊であります。


『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(高瀬理恵 リイド社SPコミックスSPポケットワイド) Amazon
豪の剣闘の剣―時代劇傑作選 (SPコミックス SPポケットワイド)

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2014.09.03

『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(その一) 『夢想の剣』『春雪の門』

 最近作品を取り上げていないのにこういうことを申し上げるのも恐縮ですが、高瀬理恵の作品は、時代ものとしての確かさと、細やかな情感、そしてアクションのキレを兼ね備えた名品揃いで私も大好きな時代漫画家。そんな作者の短編2編と『首斬り門人帳』完全版を収録した廉価版コミックであります。

 本書に収録された全10編は、いずれも小学館のビッグコミック系で掲載された作品となっています。

 巻頭の、そして表紙を飾る『夢想の剣』は、時代ものファンにもお馴染みの抜刀術の祖である剣豪・林崎甚助を主人公とした、これまで単行本に収録されていない作品。
 彼が幼い頃に坂上主膳なる男に父を討たれ、仇討ちのための修行を続ける中、林崎明神にて一夜の夢の中で奥義を授けられて抜刀術に開眼、見事仇を討って林崎夢想流を開いた――

 というエピソードは、これまでも様々なフィクションの中で題材とされてきたものですが、本作はその内容をきっちりと押さえて颯爽たる甚助の若武者ぶりを描きつつも、そこに潜むある鬱屈を描き出しているのが見事な作品。
 仇を討った直後の甚助の想いに忠実な、しかし角度を変えれば裏腹とも感じられる彼の後半生を物語るナレーションが印象に残ります。


 2編目の『春雪の門』は、古川薫の短編をベースとした、本作唯一の原作ものであり、やはり単行本未収録作品。原作者のの得意とする長州藩…の支藩である長府藩を舞台とした、哀切かつ不思議な美しさを持つ一編であります。

 文政年間、猟官運動を繰り返す藩主・毛利元義の近臣として力を振るう佐野甚左衛門。猟官運動のための資金集めという汚れ役を追わされた甚左衛門に対し、藩の改革派から刺客が送られるのですが、それに対する甚左衛門の胸中は…
 という物語自体はさまで珍しくないように感じられますが、本作の魅力と独自性は、それを甚左衛門の次女・千秋の視点から描いたことでしょう。

 相思相愛の相手と縁談が進んでおりながらも、その相手がまさに刺客となった千秋。いずれも美貌ながらも小太刀の遣い手である千秋とその姉妹は、父の覚悟を知り、三人で刺客を迎え撃つのですが…

 すぐ上で述べたように、武士道残酷物語的なシチュエーション自体は珍しくはないものではあります。
 しかしそこにヒロインの――それも単に悲運に泣くだけでなく、己の任務の理不尽を知りながらもそれに逆らわない(自分を連れて逃げようともしない)婚約者への怒りと意地から刀を取る千秋の姿を通して描き出すことにより、さらにもう一つの人間味が加わるのが素晴らしい。

 そしてそんな千秋の複雑な想いを、決して極端ではなく、しかし印象的に描き出すのは――こういうものの見方は本来好きではないのですが――やはり女性ならではの筆でありましょう。
 声高に武士の世界を愚かさを訴えるのではなく、元義が作ったという清元節「梅の春」に乗せて描かれる幕切れが沁みます。


 一回ですべて紹介してしまうつもりが、ついつい長くなってしまいました。『首斬り門人帳』については、次回紹介いたしましょう。


『豪の剣 闘の剣 時代劇傑作選』(高瀬理恵 リイド社SPコミックスSPポケットワイド) Amazon
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2014.09.02

『表御番医師診療禄 4 悪血』 御広敷番医師、秘事を追う

 江戸城に詰める幕府の表御番医師にして実戦派剣術の使い手・矢切良衛が幕政の闇に挑む『表御番医師診療録』、快調第4弾であります。今回舞台となるのは、上田作品ではお馴染みの大奥。将軍をはじめとする権力者たちの力すら及ばぬ地で、良衛の新たな苦闘が始まります。

 江戸城内での堀田筑前守正俊斬殺事件に不審を抱いたことがきっかけで幕政の闇に巻き込まれ、大目付・松平対馬守の探索方として働く(こき使われる)こととなった良衛。
 そんな彼が、御広敷伊賀者の手当をしたことで、新たな事件に巻き込まれることとなります。

 当番を勤めている時に偶然診察することとなった伊賀者。足の骨が大きく陥没し、しかも怪我をしてから数日経っていることを見抜いた良衛は(よせばいいのに)それを指摘。
 たちまち気色ばんだ伊賀者たちの様子から、何事かあることを察した良衛からの一報を受け、松平対馬守が、柳原吉保が動き出します。

 何しろ御広敷伊賀者といえば、大奥を警備する役目。そんな彼らの一人が何者にそのような怪我を負わされたのか。そして、医者をすぐに呼ばなかったのは何故か…
 あるいは大奥での将軍綱吉の身の安全に関わる事件ですが、問題は言うまでもなく大奥が男子禁制であり、調べの手を入れるわけにはいかぬこと。

 そんな中で今回も白羽の矢を立てられた良衛は、御広敷番――すなわち、大奥の担当医に配置換えさせられ、大奥での探索を行うことに――


 冒頭で触れたように、作者の作品では舞台となることが少なくない大奥。特に御広敷用人を主人公とするシリーズもあるだけに、題材が重なるのでは…
 などというのは、もちろん素人の余計な心配。幕府の勤務医という、主人公の特異な身分をフルに利用して、これまでの大奥を題材とした――もちろん作者自身のそれも含めて――作品とは全く異なる角度から、大奥に本作は切り込んでいくことになります。

 そもそも、御広敷番医師という存在自体、時代もので取り上げられることが相当に珍しい存在。
 冷静に考えればあれだけの人間が犇めいていた大奥に医師がいないわけはないのですが、しかし大奥は男子禁制という思い込みから、医師が出入りしていたというのは、なかなかの盲点に感じられます。
(尤も、本作の語るところによれば、相当の閑職であるようですが…)

 本シリーズは、医師という考えてみれば人の秘め隠す部分に触れられる極めて特殊な、それでいて当然のように存在する職業にあるものを主人公にすることで、従来の作品にはない視点から物語を描いていくところが大きな魅力であります。
 それは特に本作のような特異な舞台で、より輝くのではありますまいか。


 そして本作のもう一つの魅力は、登場人物たちがそれぞれに人間くさい顔を見せる点でしょう。
 本シリーズにおいて良衛の実質的な上役に当たる松平対馬守などはその最たるもので、言動は上田作品定番の無理難題を押しつける厭な上司でありながら、しかし良衛とのやり取りの中で見せる喜怒哀楽の豊かさが何とも楽しい。

 また今回、良衛の義理の父に当たる典薬頭・今大路兵部大輔の出番も多いのですが、彼の描写もなかなかに印象的。
 良衛に妾腹の娘を押し付け、半ば強引に自分の陣営に引き込んだという背景から受ける印象とは裏腹に、その素顔は良衛の先輩として、そして義父として、案外に人間くさい素顔を見せてくれるのであります。

 人間誰しも、医師の前では素顔を晒すもの。そんな医師が主人公の作品故に、本シリーズに登場する人間たちは、より人間くさく描かれるのであり――そしてそれが、雲の上の暗闘を描く作品の中で、印象的なコントラストを生み出していると感じます。


 作者の作品でまま見かけられる、主人公のいないところで悪役が陰謀の内容を一人で喋ってしまうという部分が、今回もあるのは気になるところではあります。
 しかし上で述べたシリーズ自体の魅力に加え、まだまだその全貌を見せない謎の行方といい、良衛に迫る思わぬ敵の存在といい、やはり読んですぐに次巻が気になる作品であることは間違いないのです。


『表御番医師診療禄 4 悪血』(上田秀人 角川文庫) Amazon
表御番医師診療禄 (4) 悪血 (角川文庫)


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2014.09.01

「戦国武将列伝」2014年10月号(その二) ネガティブ兵士が見た戦場

 リイド社の「戦国武将列伝」10月号の紹介のその一であります。その一では三作品を紹介しましたが、今回も三作品、それもスペシャルゲストの作品を含めて紹介いたします。

『鬼切丸伝』(楠桂)
 いささか意外なことに前回は平安時代を舞台に移して鬼切丸の少年の誕生が描かれた本作。今月単行本第1巻が刊行されたから、というわけではありますまいが、今回も同じ時代を舞台に、いわば誕生編後編といった趣であります。

 舞台となるのは逢坂山――鬼が出没し、人を喰らうというこの山に一人暮らす蝉丸法師と鬼切丸の少年の出会いが描かれることとなります。

 蝉丸といえば百人一首でも知られた琵琶の名人、醍醐天皇の皇子でありながら盲目を疎まれて逢坂山に棄てられた、源博雅に秘曲を授けた、等々様々な伝説のある人物。
 その人物と鬼の意外な関係は、これはもう本作の独壇場なのですが(前回を踏まえると生じる、史実とのある齟齬が、後で大きな意味を持つのに感心)、しかし真に印象に残るのは、ラストのある展開でしょう。

 自分の母を襲った非業の死を思い、一度は鬼も人も神も変わらぬと言い放った少年。しかしその少年の想いを揺るがせたものは…
 という展開自体はある意味定番ながら、母という存在の持つ偉大さ――そしてその根底にある愛に希望を見出すというのはグッとくるものがあります。
 ここからが、鬼切丸の少年の物語の始まりと言ってよいのではありますまいか。


『はじめての戦』(三宅乱丈)
 というわけで今回のスペシャルゲストはギャグから壮大なストーリー漫画まで幅広い作品を手がける三宅乱丈。時代ものでも、現在冲方丁の『光圀伝』のコミカライズを担当しており、意外なようで納得の登場であります。

 さて、そんな作者の作品は、タイトルにあるとおり、初めて戦に駆り出されたネガティブな男が、死ぬ死ぬと騒ぎ立てる姿をコミカルに描いた作品。
 初めは笑って見ていた周りの兵たちも、空気を読めない男の妄想に毒されていったり、いい加減に男を黙らせようと非常手段を取ったり…と、ユルい展開が楽しい作品であります。

 しかし散々笑わされたその先の結末に待っているのは、男がこの戦に駆り出された理由と、彼らの真の境遇。
 これまでの物語の構造が全て逆転していくかのような皮肉で、しかし途方もなく残酷な結末は、なるほど、この立場の人間を主人公にして初めて描けるものであり――そして作者ならではのものでありましょう。


『戦国自衛隊』(森秀樹&半村良)
 歴史を変えればその反動で元の時代に変えれるかもしれない、と信長を本能寺から救出したものの、無駄に男臭い信長の大暴走に振り回される戦国自衛隊…

 という前回に続き、今回も信長が主役乗っ取り級の大暴れ。前回伏線になるかと思われた仕掛けもあっさりと見破られ、ついに信長は○○○○を殺害。
 歴史は明確に変わったはずなのですが、しかし――というわけで、戦国自衛隊の受難はなおも続くことになります。

 言うまでもなく原作の展開からは全く異なる地平に至った本作ですが、さて物語はこの先さらに一ひねりがあるのか、それとも『続戦国自衛隊』的な架空戦記路線にいくのか…
 というところで新キャラ登場、歴史が変わったことで当然運命が変わるであろうこの人物の絡み方によっては、絶望に沈んでいた自衛隊サイドにも浮上の目が…あるかはどうかは神のみぞ知る。いやはや、本当に先が読めない作品です。


 というわけで今回も楽しませていただいたのですが、次の12月号(早!)では、前回掲載された『紅娘の海』が再び登場するとのこと。
 今回の三宅乱丈のように、その他にも隠し球があるのではないかと期待しつつ、また二ヶ月後を待つことといたします。


「戦国武将列伝」2014年10月号(リイド社) Amazon
コミック乱ツインズ 戦国武将列伝 2014年 10月号


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